大車輪作戦
モンスタルスタットからやってきた急使は二年連続の冷害によって生じた飢饉問題のため早急に魔王城へ参内することを求めてきた。
そのためエルシス=ベースティア二重帝国からオルク王国へ視察にこられた軍事使節団へのもてなしもそこそこに俺はプルーサ王国へ赴くことになり、急遽モンスタルスタット王宮へ参内することになった。
しかし今の俺の身体は王宮にほど近くに新設されたばかりの参謀本部の大会議室にあった。
「参謀総長閣下! お忙しいところお時間を割いて下さり、恐悦至極に存じます!」
「構わん。飢饉対策は魔族国の急務だ。あらゆる方面から事態打開の可能性を探らねばならないのだから、もちろん軍においてもそれを検討しなければなるまいて。それより早速始めてくれ」
「ハッ! ではこれより対ガリア作戦計画――『大車輪』作戦の説明を始めさせていただきます」
参謀本部作戦課のオークが参棒――もとい指示棒を手にテーブルに広げられたガリアと魔族国の国境地帯の地図を叩く。
「まず我々の最終目標はガリアの打倒であり、これを達成するにはガリアの王都パリシィの掌握及びガリア王家の捕縛、敵野戦軍の撃破の三要件が最低限必要であると想定します」
青と赤の棒状の駒が次々と並べられる中、作戦課長は再度地図に表記された敵の牙城――パリシィを叩く。
要は敵の政治的中枢であるパリシィと国家の象徴であるガリア王家を抑えると共にその抵抗力である敵野戦軍を奪い去ることで戦争を終結させようという魂胆だ。ここまですれば市民活動など時代の彼方な封建社会ならあとは煮るなり焼くなりどうとでもなろう。
まぁここまでして降伏しなくとも抵抗戦力さえどうにかなれば後はガリアの主要都市――特に沿岸地域を占領して都市が生み出す経済力を奪えば自然とガリアは消滅するはずだ。
「続いてガリアの戦力ですが、概算として正規な兵力――騎士やその従卒およそ十万。その他に冒険者や傭兵などの非正規な戦力が付随すると思われます。また、ガリアは【剣聖】を失ったものの依然と【勇者】という規格外の戦力を有しており、我らはこれを常に注視しておかねばなりません。なお、現在【勇者】はリーベルタースへの牽制として南ガリアのグルノブルに駐留していると情報を得ております」
ガリア南東部のグルノブルからパリシィまで五、六百キロメートルほど距離があり、馬でも一週間はかかることだろう(早馬を乗り継げば時間を短縮できるだろうが)。
つまり友軍は一週間弱でパリシィに到着する【勇者】と戦わねばならない。
しかし幸いに【勇者】などと規格外の戦力は一匹しかいない。つまり多方面からガリアへ侵攻すれば【勇者】の妨害なく行動できる部隊が生じる。
「それに対し、魔族国は諸侯全てを合算し、最大百二十万ほどの戦力を動員できる見込みです。よって基本方針としましてオルク王国国境地帯――戦線左翼では【勇者】及び敵野戦軍主力を釣りだすため、五もしくは六個師団を以って補助攻勢を実施すると共にこれを拘束し、爾後は遅滞防御に努めます。その間、戦力を集中した強大な右翼――五十個師団強を以って低湿地同盟国を通過し、ガリア北部へ突入した後に左回りに戦力を車輪の如く回転。速やかにパリシィを攻略した後、国境地帯のガリア軍を背後から包囲し、これを殲滅いたします。また予備兵力として二十個師団ほどを新たに編制する予定でもあります」
つまりはオルク王国国境地帯――左翼がサンドバッグになっている間に右翼がガリア北部を全力で殴りつけるという作戦だ。
そもそもガリアの対魔族国戦略として彼の国は冒険者ギルドをおくなどエルザスを主戦場に軍備が整備されてきた。
まぁ低湿地同盟国はエルシス系の国家であるイスパニア王国の植民地であり、これを侵すと漏れなくエルフ国家の全てが敵に回るので、我が国がそのような愚をおかすことはないだろうと信頼してくれているからだろう。
だからこそガリアが想定していないであろう地域――イスパニア王国の植民地である低湿地同盟国を通り道にパリシィを目指そうという訳だ。
折よく低湿地同盟国はエルシス=ベースティア二重帝国の皇帝エルシス家の縁類であり、エルシスとは同盟国のため軍の通行許可くらいすぐに認可してくれることだろう(なんなら見返りに切り取ったガリアの一部を謝礼としてイスパニア王国にあげてもいいし、ここまですれば通行許可くらい下りるだろう)。
それにエルザスは山間部が多く、大軍の展開に向いていない。攻めるに難しく、守りやすい地形といえよう。
そんな場所を一点突破しようとしたら徴兵に裏打ちされた数の利を生かせず【勇者】に各個撃破されるだろうし、なによりこれだけの大軍勢を一か所にまとめておくメリットがない。
てか、これだけの大軍なら多少分散させたとしても数的優位は崩れないだろうし、同時に多方面からガリアに侵攻することで敵の対応能力を飽和させることもできるはずだ。
だから軍を二分することにした。
「作戦所要期間は二ヵ月ないし三か月半を見込んでおり、総兵力百個師団――八十万の投入を想定しております。以上が『大車輪』作戦の実施概要であります!」
はい、どう見てもシェリーフェン・プランです。本当にありがとうございました。
ま、作戦の基本骨子である低湿地同盟国から迂回攻撃を仕掛ける攻勢作戦の立案を命じたのは他でもない俺なんだけどね。
もっとも現実的に八十万もの戦力を動員できるとは思っていない。そもそも徴兵の限度って人口の五パーセントっていわれてるし、そうなると魔族国の国民が一六〇〇万人もいないといけないのだが、さすがにそんなにおらんだろ(戸籍調査とかしてないから正確な人口がわからんけど)。
てか、仮に動員出来たとしても絶対に補給が追い付かないと思う。産業革命を経て鉄道が整備されていれば話は違うだろうが、中世ファンタジー世界じゃ輸送方法なんて馬匹牽引くらいしかない。そんな某皇軍も真っ青な補給事情で百個師団なんて養いきれない。
まぁ、今のところ馬匹牽引に変わる輸送方法の研究をしているが、まだ実験段階というのが現状だし、成功しても鉄道並の輸送量と速度を確保できそうにないので根本的な解決にならないが。
――とは言えだ。
「うむ。非常に良い作戦である」
まぁ軍事行動を起こすにしてもまずは魔族国軍を統帥なされる魔王様の承認を受けなくてはならない。
それには議会へ掛け合って予算を都合してもらったり、動員に関する関連法を成立させねばならないが、この予算獲得が肝なのだ。
馬鹿正直に必要最低限の数字を伝えても絶対そこから経費を削ろうとする動きがあるはずで(俺は詳しいんだ)、それをされても計画に支障が出ないよう数字を盛る必要がある。
だから実際は運用できないほどの大軍を動員すると書いても仕方のないことなのだ。そう、全ては魔族国のためなのだから。
「今や魔族国を取り巻く諸問題のうち、食糧問題は喫緊の課題である。それに対し、ガリアの肥沃な大地には害虫ならぬ害猿が巣食い、これを占有してしまっている。我ら魔族国軍はこの肥沃な大地を猿共から解放し、魔族国の生存圏を西方に拡張することでこの国難を打破する義務があると確信している。つまり『大車輪』作戦の成否は安全保障上の問題解決に留まることなく、魔族国一千年の未来をも左右する一大作戦であるといえよう。俺はこの魔族国最高の頭脳が作り上げた『大車輪』作戦以上に完成された作戦を知らないが、諸君等はさらなる改良を続け、万全を期して作戦が発令できるよう努力を続けてほしい。俺はこれより『大車輪』作戦――ガリアへの侵攻作戦について魔王様に奏上奉る。その際、俺は魔王様に諸君等の不断の努力と魔族国軍が鉄と血の努力によって安国をなしえる旨をお伝えしよう。全ては明日の魔族国のために――ッ!!」
それに「魔族国のために!」「魔王代行閣下! 魔王代行閣下!!」「軍務伯閣下万歳!」と歓声が飛び交う。
あとはこれから行われる議会で臨時予算を分捕って来春に合わせた総動員の布告をすませればいいだけだ。
いやぁ、この時をどれほど待ったことか! あぁ楽しみだなぁ……!
◇
――みんなの期待を背負って議場に向かおうとしていたところ、城の侍従から「閣下はこちらに」と応接間に連れられ、待つ事しばし。
何事と思っていると扉が開き、宰相ホテンズィエ・フォン・ニーズヘッグ侯爵とハピュゼン大公ファルコ・ハーピーロード・フォン・ハピュゼン様が姿をあらわした。
え? なにごと?
「やれやれ。芥子作りだけなら黙認しておいたのだがな」
「ガリアとの開戦だと? 勝てる算段はあるのか?」
「は、ハピュゼン殿!? 今はそのようなことを訪ねている場合ではなかろう」
二人の温度差に戸惑っているとホテンズィエ様がコホンと咳払いをする。
「オルク殿、自分がなにをしているのか、わかっているのか?」
「……? どういう意味でしょうか?」
「せっせと若者を焚きつけて国を乱そうとしているではないか。わしの耳はオルク殿が思っているよりも遠くのものを聞けるのを忘れていたか?」
え? え? なに? なんなの?
なんでいきなり聴力自慢が始まったの?
「あの、ですからどういうことなのでしょうか? なにか至らぬことでも?」
「至らぬ? とぼけるではない。魔王陛下より下賜された権能をみだりに乱用し、国家に災厄を招こうとしている。これは魔王陛下への反逆ではないかね?」
「はぁ?」
ナニヲイッテイルンダ?
俺が? 魔王様に? 反逆?
いや、まったく身に覚えがない。むしろ俺ほどの忠臣が魔族国にいるだろうか?
自分でいうのもなんだけど、この世界において革新的な武器を発明するし、それを運用する新式軍制の普及にも取り組んだ上、猿獣人に奪われた魔王様の親征不可侵な国土の奪還にも加わっているんだぞ。
どちらかといえば愛国者であろう。
それなのに俺が反逆とか、宰相閣下はご乱心なのでは?
いや、ここは大人な対応だ。ただ怒鳴るだけなら猿でもできる。幸い、プルメリアの手配してくれたブリタニアの薬師が調合してくれた妙薬を服用しているおかげでそこまで怒りは湧いてきていない。ここは紳士的にいこう。
「なにか勘違いされておりませんか?」
「とぼけるでない。勝手に戦の準備をするなど国家の不和を招く行いを断じて見過ごすことはできん」
「………………。……あ、もしや参謀本部で計画中の対ガリア作戦のことですか? どうやらなにか勘違いなされていたようですね。ちょうどいい。説明しますね。これは――」
「言い訳は無用! 魔王陛下もオルク殿の行いに心を痛められておられた。沙汰は追って知らせる故、すぐに自領に戻り、謹慎を命じ――」
怒鳴るだけ怒鳴る豊満な肉塊に思わず「話を聞け!」と怒鳴ってしまった。
それと共にこれまでクスリで落ち着けてきた怒りが露わになり、止めどなく燃え上がってしまう。あの薬ダメだ。効果がない。
「黙って聞いていれば魔王様の御心を邪推するばかりではないか! 俺は畏れ多くも魔王様より直に魔族国の軍務全般の統帥を委託された軍務伯であるぞ!! その職務に口を挟むというのなら、それは神聖不可侵な統帥権への干犯行為である!! それは即ち、魔王様の権能を批判するも同然であり、如何に宰相閣下といえど許されるものではないッ!! 閣下の行いは魔王様への反逆行為も同然である!! 衛兵! 衛兵ッ!! 謀反人だ! 逮捕せよ!!」
魔王城の窓枠が震えるかのような怒鳴り声に宰相閣下はなにか反論をしようとするが、俺の声に押しつぶされて耳に届かない。
そもそもだが、よくよく考えれば新式軍制における魔族国軍の最高指揮官は魔王様であり、その魔王様から軍権の一切を預かって軍制改革に取り組むことを許されたのが軍務伯だ。
それに文句をいうのは魔王様に文句をいうも同然の蛮行であり、ここは腹を切って詫びるべきだろ。
「まぁまぁ」
しかし衛兵が来る前にハピュゼン様が割って入り、退室をうながしてくる。
いや、まだ言い足りないんだけど。
それでも無理矢理ひっぱられて部屋を後にするとハピュゼン様はそのまま廊下を進み出す。
うーん。少し言い過ぎちゃったかな? だからハピュゼン様は俺の頭を冷やすために別室に案内しようとしているのだろう。
そう思っているといくつもの部屋を通り過ぎ、モンスタルスタット王宮の正面玄関に出るやそこに待機していた馬車に連れ込まれる。
「ハピュゼン王国公邸まで行ってくれ」
「……ん? うん? あれ?」
「あそこで話しても埒があかないだろ」
「埒があかないとはいえ拉致しないでください! もう議会が始まりますよ!」
「あんなもの予定調和の茶会でしかない。それよりも大事な話があろう」
そういうやハピュゼン様は俺が抱えるバッグを顎でしゃくる。そこには参謀本部から提出された『大車輪』作戦の計画書が納められており、これからの飢饉問題に関する議会で発表する予定だったのだけど……。
「オークロード卿の行動は全て筒抜けだったぞ。脇が甘い」
「それは……。いや、そもそも俺は誰に恥じる行いもしておりません。ですから隠し立てする必要など――」
「強気なのは良い事だ。だが宰相は外征に反対だからな。それに魔族国は先の三国同盟によって経済が動き出したところだ。それに併せて街道や港の大規模整備計画が行われることになっているが、有事用の臨時予算を計上されればその計画が吹き飛んでしまう。だから宰相閣下はオークロード卿に反逆罪をでっち上げようとしている。だがハピュゼンとデモナス、コボルテンベルクの各大公が自治権を盾に議会を乱せば有耶無耶にできるだろうが、それにしても無防備すぎるだろう」
そんなことで?
宰相閣下は本当に魔族国の窮状を理解しているのだろうか? いや、それをいうのならウルクラビュリントが人間共に奪われた際も魔族国はオルク王国を助けてくれなかった。
こんなことが続くのなら議会を信じるだけバカを見るのではないか?
「それに昨今の冷害で民が疲弊している。そんな中で戦をしても勝機を見いだせるかわからないから軍の動きに反対している向きもある」
「……勝てますよ。そういう軍を俺は作ってきたのですから」
「拗ねるな。それに口だけではすまされんのが戦だぞ。本当に勝てるのだろうな?」
「もちろん」と作戦計画書を見せようとして、止められた。
まだどこに宰相の耳があるか分からないからとのことだ。
そのまま俺たちはハピュゼン王国の公邸に通され、その応接室にて『大車輪』作戦の概要をハピュゼン様に説明した。
「ふむ……。奇抜な作戦だが、難点をあげるとすればこれほどの大軍に補給が追い付くのか? 古来から補給の尽きた軍が敗れるのは道理だろ?」
「その点については物資の輸送方法に関して研究が行われており、間もなく実用化される目途が立っております」
「ならよいが、だがこれだ。低湿地同盟を侵すのはいかん」
「なぜです? 低湿地同盟国はイスパニア王国の植民地、そのイスパニア王国もエルシス系国家ではありませんか。三国同盟の件もありますし、大丈夫では?」
「だからこそ、だ。これほどの大軍がただ通過するだけと思う国がどこにある? 植民地利権を掠め取ろうとしているという口実の下、ガリアと全エルフ系国家が敵に回るやもしれないだろう。あの国なら我が国の銃砲製造のノウハウなど喉から手が出るほど欲しいだろうしな」
え? エルフ系国家の盟主であるエルシス=ベースティア二重帝国とは同盟国じゃん。
いや、でもエルザス公国再興のためにオルク王国に集結しつつあるエルフを思うと万が一があるかもしれないと思えてくる。
特に首班のハルジオンだ。あれはエルザス公国が滅びて七十有余年も国を取り戻そうと奴隷になっても生き足掻いたエルフだ。それを思うとエルシスとの決定的な不和をこの作戦は生むやもしれないし、なにより大兵力を抱えていてもそれを指揮できる将が少ない現状、連携の取れない二正面作戦は成功しないだろう。
「それよりもイスパニアにも出兵を促す利点を見つけるか、エルザスに攻勢正面を絞ってはどうか?」
「えぇ……。あそこは山岳地帯で、防御施設も充実しています。攻略はできないことはないでしょうが、その後を考えると平野部の多い低湿地同盟から北ガリアへ侵入するほうが機動力を保てるので、比較的短期決戦に持ちこめると思うのですが」
「いや、エルザスならエルフ共の同情を買える。オークロード卿の下に義勇兵が集まっているという話も聞いているぞ。それにエルザス公爵を匿っているという話も」
あー。それも知っていたのね。
すでにエルフの義勇兵は三千を越えており、総動員の際には五千名規模の旅団に拡大編成することになっていた。
確かにエルザス解放を前面に押し出せばより多くの支援をエルシスから受けられるかもしれないが……。
「しかしエルザスを占領したところでガリアとの戦に勝利したとはいえません。参謀本部の見解としてガリアの降伏には最低限、パリシィの占領、王族の捕縛、そして敵野戦軍の撃破が必要であると考えております。その上で【勇者】です。現在は南ガリアに駐留しているようですが、有事勃発となれば奴が北上してくるのは必須。その際、軍主力との衝突を避けるためにも囮となる戦区が必要です」
そう、最終的に必要なのはガリアを下すことにある。局地的な勝利では逆に敵愾心を生むだけで効果がない。
それにガリアは魔族国の矛先がエルザスに向いていると思っているはずであり、そのために冒険者のような犯罪者集団を集めているのだから戦端が開かれれば【勇者】をパリシィではなくエルザスに向かわせるのは火を見るよりも明らかだ。
だからエルザスもしくはオルク王国で【勇者】を誘引している間に敵の王都を攻略し、徴兵によって得られた豊富な戦力で敵を包囲殲滅するしか勝ち筋がない。
「『大車輪』作戦は参謀本部の答えです。これ以外の策では戦争遂行に責任を負いかねます」
「ならば残念だ。エルザスを攻勢正面にするのなら協力もやぶさかではなかったのだがな」
「――ん?」
どういうこと?
てか思い出せばハピュゼン様は宰相閣下と違ってガリアと戦端を開くことを肯定も否定もしていない。
とはいえ中立とは違うようだし……。
「ハピュゼン様はエルザスを攻勢正面とした場合、開戦には賛成ということですか?」
「無論だ。長耳に手を貸すのは癪だがな」
なら余計に分からない。ハピュゼン王国はエルシスと領土問題を抱えていたが、三国同盟によってエルシス寄りの国境策定条約に調印し、問題を解消された。
そのことを不満に思っているからエルフとの協同はむしろ業腹なのではないだろうか?
「だが、これもアイツを蹴り落とすためだ」
「アイツとは?」
「鈍いな。ニーズヘッグ卿だ」
「――ッ!?」
それって反逆じゃん! 反逆じゃん!!
「あれは好かん。やつは中央へ権力掌握をするために諸侯の自治権を蔑ろにしている。オークロード卿も新式軍制でその片棒を担いでいたではないか」
んー。確かに軍の指揮系統を明文化するためにそれまで諸侯お抱えの私兵というものを改め、魔王様の兵士とし再編成をしてきた。
確かにそれは諸侯の軍権に干渉するもので中央への権力掌握とみることもできる。
俺としては効率的な軍制を敷きたかっただけなんだけど。
「奸臣を戴く国が栄えた試しはない。私腹を肥やすニーズヘッグ侯爵に代わる新たな宰相が必要だ。それには奴の力を削がねばならない」
「――と、いますと?」
「奴の力の基は三国同盟によるプルーサ王国の貿易だ。つまりオークロード卿の求めている有事に際した臨時予算の獲得が成功すれば街道や港の整備費が止まり、奴の力は減衰する。しかし各国との交易なく我が国は立ち行かない。だから今一度言うが、エルザスを攻勢正面とする作戦を立案してくれるのならハピュゼン王国はオークロード卿に力を貸そう」
「……分かりました。再考いたします」
「おぉ! そうか、分かってくれたか。なら話は早い。よろしく頼むぞ」
うーん。これは面倒なことになってしまったような気がする。
と、いうか単にエルフを敵に回したくないってことだよね? あ、もしかしてこういう絡繰りか?
ハピュゼン王国には銃砲寄合の工房が複数軒を連ねているし、オルク王国と同じで火器の輸出事業は国家を支える生命線になっている。その最大輸出相手国はエルシス=ベースティア二重帝国だ。だからエルシスとの不和を回避しつつ宰相閣下を引きずりおろすための有事予算獲得にはエルザスを攻勢正面に据えるしかない。
つまりそういうことか。だからといって攻めにくいエルザスを攻撃するのか……。
「なに、渋い顔をするな。業腹であるが、長耳とも話を通して低湿地同盟の通行許可を取り付けられるようにする。だがなんにせよ重要なのはエルフを味方に抱き込めるか否かだ。それがなればまずガリアなどには負けぬだろう。業腹だがな」
やけに業腹なのは分かったけど、そこまでエルシスを気にするのか。
まぁ国境を接しているが故にハピュゼンの仮想敵国はエルシスなのだろうし、彼の国の動向を注視するのは必要なことだろう。
なんにせよホテンズィエ・フォン・ニーズヘッグ侯爵はダメだ。俺の復讐の邪魔をするのなら、消えてもらう他あるまい。例え、プルメリアの親族であっても。
ご意見、ご感想をお待ちしております。




