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徴兵と教皇庁

 オルクスルーエから少し離れた古砦に「駆け足!」との声の下、バタバタと地をかけるオーク達がいた。

 彼らは新しく導入した戦争税の支払いが滞った者達であり、二千人ほどが納税の代わりに軍役を科せられていた。

 もっともその内の八割くらいはウルクラビュリントからの難民だ。戦災で家を失くして生活が覚束ないせいで税を納めることができず、こうして軍役についているという訳だ(他にも軽犯罪者に減刑と引き換えに兵役につくよう司法取引をした例もある)。



「速くしろ! ちんたら走るな!」



 それを監督するのは叔父上から借りた軍団に属する者達であり、武芸に心得のある者によって鍛錬を積ませている。

 ――もっとも一気に二千人の訓練を見ることは出来ず、それらを三十人程度の小さな部隊――小隊に分けて訓練を積ませていた。



「どうだ、カレン。順調か?」

「叔父上!」



 訓練の様を視察していると馬に乗った叔父上がやってきた。

 それになんと言葉を返そうかと思案するだけで口内に苦いものが広がってくる。



「……まだまだです」

「まぁ、そうだろうな。民とは畑仕事をするためのもので、胆力が足りない。戦には向かんよ」



 叔父上のいうとおり彼らは畑仕事や商売のやりかたを知っていても剣の振り方などまったく門外漢だ。

 そもそも他者の命を奪う忌避感を乗り越える強靭な精神力も求められるが、そうしたものは一朝一夕で身につくような代物ではない。



「今までのやり方ではダメだ。これじゃ父上と母上の仇討ちまで何年かかるか……」



 ”強きに従う”はオークに限らず魔族全般の美風だ。基本的にフィジカルに優れる魔族は個人の武勇を信奉しているといってもいい。

 だから魔族の国力とは優れた戦士をどれだけ抱えられるかによる。

 だがオルク王国は先の猿獣人共の攻撃で優れた戦士の多くが失われてしまった。それを補填しようと強制徴募をしたのだが――。



「せめて相手を屠る感触がなければ精神的な負担が減ると思って弓を与えたが、真っすぐ矢を飛ばすこともできん始末……! 修練に時間がかかるから根本的な解決になっておらん! あぁ! くそ! くそくそくそ!!」



 耐えがたい怒りに思わず左手が頭の傷跡を摩っていた。

 ウルクラビュリントから逃げる際に猿獣人に斬られたそこがズキズキと鈍痛を生み出すと共にクソの役にも立たない弓兵の腕をもいでやりたくて仕方ない。



「……カレン。お前、ウルクラビュリントの一件以来怒りっぽくなったな」

「え? そうでしょうか?」



 ふと、気づくと頭の痛みが引いていた。それと共にどうしてここまで怒っているのだろうという疑問を覚える。

 それに叔父上の指摘通り最近、些細なことで頭に血が上るようになってしまった。

 原因として考えられるのはウルクラビュリントが陥落した時に頭を切られたが、そのせいだろうか?



「お前は何と言うか、武勇の相をしているが、兄上に似て心根が穏やかな性格をしていたと思っておったが、ここに戻って以来オークが変わったようだ。まぁあんなことがあったのだから怒りを燃やすのも分からんでもないが、怒りは身を滅ぼすぞ。それにお前はオークロードなのだから苛立ってばかりではなく、もっと泰然としていなくてはならないのではないか?」

「それは――」



 確かに上に立つ者がイライラしていては下も不安がる。

 それは分かるのだが……。



「どうだ? 少し、静養をしてきては?」

「は? 静養ですか?」

「まぁ、なんというか、観光でもしてきてはどうかと思ってな」

「観光? いや、今は観光に興じるような時勢ではないではありませんか。一日も早く俺達はウルクラビュリントの奪還を――」

「それだ。お前は根を詰めすぎている。いっそリーベルタースへ行ってくると良い」



 リーベルタース?



「あそこは良い湯治場があるそうじゃないか。矢を受けたという肩も本調子ではないのだろ? この際、心身を癒すためにも湯治をしてきたらどうだ?」



 叔父上の言うとおり俺の右腕は矢傷のせいで五十肩よろしく腕が肩より上がらなくなっていた。

 故に満足に剣を振るう事も出来ない。これ、治るんだろうか?



「それにお前、なんと言った? 星神教だったか? あれの本山もあるそうじゃないか。ついでに見物してくるといい」

「しかし政務が――」

「それくらい代わってやる。それに向こうは商業の国だ。良い傭兵も集まっているだろうし、貸し金業も盛んだ。きっと兄上達の仇討ちに役立つものがあるだろう」

「はぁ……」



 叔父上の説得に渋々と頷き、リーベルタース行きが決まった。


 ◇

挿絵(By みてみん)

魔族国全図



 リーベルタース王国は魔族国やガリア王国の南に位置し、中央海と呼ばれる波の静かな内海に突き出た半島国家だ。そのため海洋交易で莫大な富を稼ぐ商業国家として栄えている。

 金さえ払えば誰とでも取引をするという拝金主義を地で行く国でもあり、ガリア王国から再三に渡って魔族国との交易停止を要請されているにも関わらず、今のところそうした通告は全て無視されており、魔族国にとって最大の貿易相手国となっている。もっともガリア側もリーベルタースの貿易を頼っており、強く言えないという事情もあるようだ。

 そんなリーベルタースの王都リーベのとある貸し金屋の前で俺は途方に暮れていた。



「まさか金を貸してくれないなんて……」



 拝金主義を地でいくのではなかったのかと問い返したいのだが、どの貸し金屋も首を縦に振ってはくれなかった。もう二十軒くらい廻っているのに全部断られているのが辛い。就活じゃねーんだぞ。

 そりゃオークロードではあるものの、その称号が生きるのは魔族国内だけであり、この国でそれは通用しないのだ。

 つまり担保がない。



「城を担保に入れるって言っても辺境(いなか)の城など価値がないって……」



 発展を見せるリーベルタースに比べ、魔族国自体が辺境の国である上その中の小国でしかないオルク王国の信用度は実に低い。もう涙が出るくらいに低い。だから金を貸してくれないのだ。



「はぁ……。もう無理。帰りたい」



 いろいろ辛くて仕方ない。どこか静かな所に引きこもりたくなる。

 そこに通りに止めていた馬車から一人のオークが現れた。



「閣下。そろそろお時間かと」

「うむ」



 叔父上がつけてくれた従者の言葉に頷き、箱馬車に乗り込む。

 これから向かう先はリーベの中心地にほど近いバチンティ市国という街の中に存在する宗教国家だ。王より自治権を与えられた自由都市を除けばおそらく世界最小の国家と言えるそこには星神教の総本山たる教皇庁が置かれており、そこが今日の目的地といえた。



「それにしてもよくアポが取れたものだな」



 教皇庁へは何通か文を送って事前に面会を申し込んでいたのだが、まさかの教皇猊下自ら俺に謁見してくださるとの返事をいただいていた。

 そして馬車は石畳の敷かれた荘厳な街を走り、ついには寺院街へとたどり着く。

 その中でもっとも豪奢な尖塔を有する教会の前に馬車が止まった。



「おぉ! ここがステルラ教会か!」



 教皇庁が置かれているだけあって巡礼者も多く、地面が見えぬほど人の往来が激しい。これほどの人はウルクラビュリントでも見たことがないほどであり、前世の東京に匹敵するほどだ。なんだか人酔いしそうな気がする。



「確か星人(せいじん)のパーロ様が建立したのが始まりというが、なるほど。ここがそうだと思うと感動的だ」



 時を越えて偉人と同じ場所に立っているのだと思うと鼻の奥がツンとする感動がある。

 思わず胸の前に五芒星を切っていると馬車の扉が叩かれた。



「失礼いたします。オークロード様でしょうか?」

「如何にも」

「自分は教皇猊下よりオークロード様の案内役を仰せつかったマータイと申します」



 扉を開けると漆黒の法衣に身を包んだ青年が頭を下げてきた。

 色白で痩躯。なんとも野外活動に縁のなさそうな青年だが、どことなく風貌がナイ殿に似ている気がした。



「ご苦労様です。オルク国大公カレンデュラ・オークロード・フォン・オルクです」

「改めて、司祭に任ぜられているマータイと申します。教皇猊下がお待ちです。どうぞ」



 青年の導きに従い馬車から教会へと足を踏み込むと荘厳な宗教絵と共に金箔の塗られた五芒星が安置された祭壇があり、見るだけでひれ伏したくなる重厚さがあった。



「マータイ殿。しばし礼拝をしてもよろしいでしょうか? どうしても星神教の総本山にて主に祈りを捧げたいのですが……」

「ご立派なお心掛けではありますが、教皇猊下はお忙しい身であらせられますので、どうかまずは猊下と面会をお願いします」

「そうですが……」



 残念でならないが、仕方ない。わざわざ面会してくれるのだからそちらを優先しなくては。

 そう思いながら案内されたのは聖堂から教会関係者しか入れない扉をくぐり、長い廊下を歩いた先にある個室であった。

 部屋の中央にテーブルとそれを挟むように革張りのイスが四つほど安置されたそこで待つことしばし。

 その間に内装を見ていたが、国家をまたぐ大宗教の総本山であるためか木の温もりが生きるテーブルには精緻な彫り物がなされているし、この椅子とて二メートルを越す俺が座っても軋み一つない。

 その上、壁には宗教画の収まった金色の額縁が掛かれており、様々な絵の具で鮮やかに星人(せいじん)が磔にされているシーンが描かれていた。

 たぶん、あの金箔の張られた額縁を売るだけで村一つ分以上の年貢に相当することだろう。それに調度品一つをとっても高価なものばかりで目を見張る。さすがは星神教の総本山だ。



「教皇猊下の御成です」



 突然、扉が開かれたかと思うと先ほどの司祭が現れた。それにオーク流に膝を突いて頭を下げる最敬礼の姿勢で猊下をお迎えすると「頭を上げてください」と物腰の優しい声がかけられる。



「失礼いたします」



 頭をあげればそこには四十半ばほどに見える初老の男がおり、柔和な笑みを浮かべていた。なんとなく……。本当になんとなくではあるが、先ほどのマータイやナイ殿に似ているような気がする。



「初めまして。教皇の大任を主より仰せつかったヨハネス十八世と申します。貴方がオークの改宗者だという……」

「カレンデュラです。カレンデュラ・オークロード・フォン・オルクと申します」

「そう、オルク殿でしたな。ナイ司祭から手紙を受け取っております」



 老人は法衣の懐から手紙を差しだして見せてくる。そこには俺の簡単な身の上と魔族国内における教会建立が行われるので支援してほしいとの旨が簡潔に書かれていた。

 へぇ。あの能面からは想像もできない可愛らしい字を書くのだな。



「いやはや。正直、手紙を受け取った時は驚くと共に主へ感謝いたしました。魔族国への宣教は教会の使命と位置づけておりましたが、正式な教会建立の話は初めてですから。ささ、おかけください。長い話になりそうですから」

「お言葉に甘えさせていただきます」



 促されるままに椅子に腰かけ、その対面に猊下が座ると早速教会建立の話が始まった。



「教会の設計図や内装の指示に関しましては監督役の司祭を派遣いたしますので、そちらで現地の大工を雇い、材料を工面していただきたいのですが、如何でしょう?」

「それはもちろん。その際なのですが、出来れば教会に派遣される司祭をナイ殿に頼みたいと思っております。短い間ではありましたが、ナイ殿に教えを乞いて確信いたしました。この聖なる教えを広めるために彼女は必要不可欠な人材であると。それに、ナイ殿は命の恩人故、我が故国に手厚く迎え入れたいと考えております」

「わかりました。その点はなんとかしましょう。では時期に関してですが――」



 それからしばらく事務的な話が続き、最終的にそれぞれの意見を記した証書を作って終わりになった。



「とても有意義な話ができましたな」

「えぇ。では国に帰り次第、準備を行いますので」

「お願いします。あぁそうだ。オルク殿はこの後は?」

「この後?」

「しばらくはリーベルタースに滞在なされるのでしょう? そうだ。これから免罪状の交付会が行われるのですが、どうでしょう?」



 免罪状と言うのは己が冒した罪を消す書状であり、最後の審判の後に必ず神々の国へと行ける証文なのだという。

 もちろんタダという訳ではなく、罪に応じて相応の金額に変化するとのことだ。もっともそこで発生した金銭については教会の建築や修繕などにあてがわれるらしい。

 ふーん。そんなものまであるのか。



「買いましょう。おいくらですか?」

「即答とはありがたい。免罪状ですが色々と種類がありまして、五つのランクに分かれております。そのうち最高ランクのものはありとあらゆる罪が主の御名によって許され、神の国への扉を開く鍵となるものです。次いで――」

「ではその最高ランクのものを」

「おや? ご決断が早い。これは全ての罪に対する償いに値する金額ですので王侯貴族様向けとなっております。そのため多少ですが値がはってしまいまして……」

「む? そうなのですか? 困りました、手元にある分で足りるかどうか」



 路銀として魔王様より下賜された弔慰金があるにはあるが、金貨で渡されたため持ってこれる量に限度があった。そのため帰路の路銀を考えるとどうも心許ない。



「お恥ずかしい限りですが、次に来るときにお金を工面しますので、免罪状はその時にでも」



 現状のオルク王国の事を猊下に説明すると、猊下は深く頷かれた。



「なるほど。しかし恥いることはありません。我らは最後の審判まで清貧に生きねばなりません。持たぬ者は幸いなのです。しかし、困りましたね。それでは何かとご不便でしょう。あぁ! そうだ。良いことを思い出しました」

「なんでしょう?」

「貸し金屋を頼るというのはどうでしょう?」

「それは……。残念なががら教会(ここ)に来る前にいくつか貸し金屋を巡ったのですが、担保がないと断られるばかりで……」

「そうなのですか? ですがご安心ください。私と懇意の貸し金屋がいるので口利きしましょう」

「なんと!? ではお願いします」



 なんだが上手い具合に転がされているような気がするが、気のせいだろう。

 まさか猊下のようなお方が俺からお金をむしり取るつもりはあるまい。

 それからしばらく談笑をしていると一匹のゴブリンが現れた。

 オークと同じ灰緑の表皮に醜悪な顔。身長は一メートル三十センチあるかないかの小男の彼は身に似合わない豪奢な衣服に趣味の悪い宝石をはめ込んだ指輪を指という指にはめ込んでいた。



「ご機嫌麗しゅう、猊下」

「ナリンキー殿こそお変わりなく。あぁこの方はオルク殿。魔族国のオルク王国の長です」

「カレンデュラ・オークロード・フォン・オルクと申します」

「オルク様ですね。わたくしナリンキー商会のゴヨク・ナリンキーと申します。はい」



 この流れるように現れたナリンキー氏。どうやら貸し金業の他に貿易による船会社の経営や人材派遣まで行うとやり手のビジネスマンらしい。

 前世が社会人失格ニートの俺としては眩しくて仕方ない。



「ナリンキー殿。オルク殿は信仰に目覚め、主に深く帰依された方なのです。このお方に少しばかり支援をいただけないでしょうか?」

「なるほど。猊下がそうおっしゃられるのならばこのナリンキー、協力は惜しみません。神の道は何かと入用ですからね。ではこの証文にサインを」



 にこやかに借用書を取り出したナリンキー氏が差し出した羽ペンを受け取り、そこに自分の名前を迷いなく書く。

 そこでふと、思いなす。



「あの、この借用書なのですが」

「なにか、問題でも?」



 ナリンキー氏が露骨に顔をしかめ、醜悪な顔がより一層強まる。



「もう少しお借りすることは出来ませんか?」

「と、言うと?」

「俺は故郷を人間共に追われました。それがどうしても許せない。あ、もちろんガリア人に対して、です猊下」



 猊下は優しく微笑み、気にしていないと首を振る。



「それで、故郷を奪還するために挙兵したいのですが、魔王様も、他の氏族もそれに続こうとはしません。ですので傭兵を雇いたいのですが、金がなくて」

「なるほど。まぁ……。そうですね。良いでしょう。いくらほど?」



 それから商談は滞りなく進み、やっと俺は挙兵のための軍資金を手に入れられたのであった。


 ◇


「やれやれ。田舎オークの相手をするのは骨が折れる」



 カレンデュラが免罪状を受け取るため退室した後、ナリンキーが盛大なため息をつく。それにカレンデュラと引き替えに入室した青年――マータイが応じた。



「ナリンキー殿のおっしゃる通りです。オーク相手にこのような厚遇をしなくても良かったでしょうに。連中は犬畜生と変わらぬ存在ではありませんか。”魔族国”と魔王を中心とした国の体裁をとってますが、内情は構成国同士が万年相争っている蛮地であるとか。そんな治安も政情も不安定な地域で宣教が成功するとは思えませんし、なにより争うことしか能のない連中がいと高き主の教えを理解するはずがありません。それに所詮ナイからの要望ではありませんか。厄介払いしたナイの言う事を聞くなどどうされたのです? 父上」



 どこか嘲笑を浮かべるマータイに対し、初老の男は冷めた目で息子を見返し、重いため息を吐き出した。



「だからお前はいつまで経っても司祭のままなのだ」

「な!? なにをおっしゃるのです! それにオークに免罪状など正気の沙汰ではありません。事がガリア王国に露見すれば魔族に肩入れするとはと反発をくらうのは必至ではありませんか! そうなればガリア派の枢機卿がなんといってくるか」

「だからお前は青いのだ。我らの敵はなんだ? ガリアの愚王か? 北方を牛耳る魔王か? 否。我らの敵は海の向こう。星地(せいち)を犯す異教の国家――オストル帝国ではないのか?」



 リーベルタースから中央海を挟んだ先。皇帝による絶対帝政を敷く宗教国家オストル帝国が星神教発祥の地である約束の地を占領して八百年。教皇庁は幾度と星地奪還のため星字軍を各国から募り、派遣してきたがその全てが失敗に終わっていた。

 ヨハネス自身、過去にその失敗に終わった星字軍の指揮官として海を渡った経験があるだけにその脅威を肌で感じていた。



「オストルは――。異教徒共の力は強大だ。決して巷で喧伝されている意志薄弱な弱兵などではなかった。それらに対抗するにはリーベルタースだけではなく、全世界の星神教徒が一丸とならねば勝利を見いだすことは不可能であろう。そこに新たな戦力が加わろうとしているのだぞ? お前はそれをみすみす捨てるつもりか?」

「し、しかしお言葉を返すようですが、オーク如きが戦列に加わろうと星々の加護厚き我れらの軍勢にどれほど寄与できるというのです?」

「甘いッ! 魔族が強いか弱いかは問題ではない!! 良いか? 魔族領域内での宣教が成功すれば星神教徒同士の戦闘を禁じると教皇令を布告できるではないか。さすれば魔族の脅威から人族を守るために星字軍遠征に参加出来ないといっている不信心なガリアを――ガリアの抱える【勇者】と【剣聖】という二大戦力を遠征に引きずり出せるというものだ。そうなれば必ずや星地に我らの御旗がはためくことだろう」



 壮大な計画にゴブリンと青年は顔を見合わせる。

 そして初老の老人は柔和な顔に獰猛な野望を浮かべながら言った。



「だからナイが緊急の書状を敢えて教皇(わたし)に送りつけて来たのだろう。まったく、妾の――。それも奴隷の娘だからガリアに飛ばしたものの、お前よりよっぽど先が見えているな。この分だとお前よりも早く司教位につくやもしれん」

「……ッ」

「もはや人と魔族で争う時代は終わる。世界を席巻した古代エール帝国のように我らは星々の下で一つに団結し、主の御為の戦争が始まるのだ。その機をみすみす逃す手はあるまい。我らに星々の深き恩寵があらんことを――!」

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