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オークに転生したので人間の村を焼いていこうと思う  作者: べりや
第二章 ウルクラビュリント奪還戦
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鉄槌作戦・5

本日連続更新を予定しております。御間違いのないようよろしくお願いします。

 第一次総攻撃から二週間。周囲の空気もだいぶ緩み、春の温もりを感じることができるようになってきた。

 と、いっても未だ厚手の軍外套の襟もとはきつく結ばれているのだが、それでも周囲の雪は徐々に水へと変わり、大地へと帰り、大自然の循環を始めていた。



「今はそれが一番の問題だな」



 溶けた水は今までよりも酷い泥濘を生み出し、馬車は轍に足を取られて擱座するものが続出している。そのせいで弾薬はもとより糧秣さえ定数を割る始末だ。

そのため周囲の集落から物資を略奪しなければならなかった。

 だがそれも一時しのぎでしかない。そもそもの話だが人口五百人前後の村に万単位の軍勢が突然やってきてその腹を満たし続ける備蓄があるだろうか?


 否である。


 時期も冬の備蓄を食い尽くす春先だし、なにより村の人口など五百人前後がいいところなのにそこへ万単位の軍勢が現れるのだ。完全に食糧生産のキャパシティーを越えている。

 これが南国のジャングルでも同じことがいえるだろう。誰だよ、ジャングルなら飢えないって言った奴は?



「『いなごは地の全面をおおったので、地は暗くなった。そして地のすべての青物と、雹の打ち残した木の実を、ことごとく食べたので、ミスル全国にわたって、木にも畑の青物にも、緑の物とては何も残らなかった』」



 この一節が記されている旧約星書の出ミスル記にはミスルの地に囚われたモイセイの一族を解放するよう彼の星人がミスル王に訴えるも却下されるシーンがある。そこでモイセイは主の偉大なる力をお借りして十の災いをミスルにもたらすのだが、その一つが蝗害だ。

 そのイナゴ達は食糧という食糧を食い散らかし、民が食べるものを全て奪ってしまった。



「我が軍はまるでイナゴだと言いたいのか? 夫殿」

「おや? 殿下。左様にございます。食えるだけ食い、最早この地に糧秣など欠片も残っていないだろうと思いまして」

「なるほどね。なんにせよ腹を満たしたイナゴとていずれまた空腹になってしまう。それでも食えなければ飢え死ぬまでだ」



 その時、ウルクラビュリントの一角が盛大な噴煙を立ち昇らせると共に大地を揺るがす大轟音が沸き起こる。それに遅れて衝撃波が押し寄せ、三角帽子(トリコーン)が飛ばしていく。



「糧秣の限界故に残存兵力を結集した最後の総攻撃を仕掛けるというのは分かりますが、その第一弾作戦が特火による砲撃でもワイバーンによる空襲でもなく、坑道作戦とは……」

「故に『鉄槌』作戦さ」



 坑道を掘削するために鉄槌を使用するからというダイレクトな作戦名には舌を巻く。作戦名だけ聞かされた時は比喩だとばかり思っていた。

 もっとも従来の坑道作戦は城壁などの真下まで穴を掘り、坑道を支える柱を燃やしたりして崩落を誘因し、周囲の地盤ごと目標物を沈下させて破壊する作戦だ。

 地味な作戦である反面、地中という目視できない箇所を攻撃するため一見察知されにくく、妨害も受けにくい古典的な攻城戦術の一つである。

 プルメリアはそれにアレンジとして地下空間に大量の火薬を埋蔵させ、敵の防御陣地を全てを吹き飛ばそうとしていた。



「しかし今だから言えますが、かなり博打的な作戦だったのでは? 敵も当然、坑道作戦を警戒していたと思うのですが」



 気づかれにくい作戦ではあるが、あくまで気づきにくい作戦であって敵に察知されないということはない。

 そもそも坑道作戦は古来から使われてきたオーソドックスな攻城戦術のためちゃんと対抗戦術もある。

 例えば水瓶を複数並べて掘削時の振動を感知するというのは常套手段だろう。そうやって発見した坑道の進路上に水堀でも作っておけば開通と同時に工夫共々坑道を水没させることができる。

 そうなれば坑道を一から掘り直さないといけないし、何より警戒を強める敵の目をかいくぐって新たな坑道を準備するのも骨が折れる。

 ハマれば大戦果だが、外れれば悲惨というまさに博打的な作戦だ。よくやろうと思ったな。俺なら失敗した時が怖いから絶対にやらない。



「特火の砲撃によって掘削音はかき消えるだろうし、ワイバーンの空襲で目を空に奪われると思ってね。なんにせよ特火は弾薬不足だし、寒さを嫌うワイバーンは満足に飛行できないだろうから決め手に欠けていた。それに余は新しいものが好きだが、一軍の将として新兵器に全幅の信頼をおくわけにはいかないのだ。夫殿には悪いが特火もワイバーンも陽動程度にしか思っていなかったよ」

「なるほど。つまり初めから坑道作戦でケリをつけるつもりで『鉄槌』作戦と命名されたと?」



 色々と考えてのことだろうが、名前ありきの作戦だと思うとプルメリアがなにをいっても言い訳のように聞こえてしまう。



「あー。もしかして怒っているかい?」

「そんなことは。最終的に我々が勝っていれば問題はありません。その上で一匹でも多くの猿獣人が死ぬのならばむしろ望外の喜びでしょう」



 もったいないけどという言葉を飲み下し、噴煙をあげるウルクラビュリントを見やる。

 すでに特火の攻撃で城壁の大部分は倒壊しているが瓦礫などを積み重ねた即席のバリケードくらいはあるだろう。いや、あっただろう。だが火薬というのは周囲に圧力がかかればかかるほど威力を増す。それが逃げ場のない地中とあればひとたまりもあるまい。

 とはいえ、それらをまとめて吹き飛ばす火薬量を確保するのはこの物資不足のご時世の中で苦労したことだと思う。



「火薬はどうしたので?」

「元々、坑道作戦を主作戦にしていたから早々に備蓄を開始させていた。あとは夜襲の折りに攻城特火が砲を破壊されてしまっていただろう? だから残った装薬と化学砲弾も使わせてもらった」



 亜硫酸ガスによるハラスメント攻撃を意図して作られた化学砲弾は硫黄、硝石、木炭と火薬の成分と同じもので作られているので黒色火薬に流用できる。

 本当は空中で内包した火薬を爆発させ、破片を撒き散らす榴弾を作りたかったのだが、如何せん信頼できる雷管の制作と発砲時の衝撃に耐えうる外殻の製造が間に合わなかったので毒ガス兵器になってしまったが、今回はそれが吉とでたようだ。


 だがそれにしても夜襲のせいで俺が満を持して戦場に投入した三十二センチ臼砲が猿モドキなんかに破壊されてしまうとは……!

 やはり巨砲というのは浪漫であると共に堅固な城壁を破壊するのに必須の兵器だというのに……! あぁ今なら口径お化けな列車砲や超巨大自走臼砲の製造を命じたヒゲの伍長の気持ちが分かる。



「くそ、あの忌々しい夜襲のせいで……」



 それに三十二センチ臼砲を各国に採用させるためのデモンストレーションとしてこの機に投入を急いだというのに……!

 こっちは工房から少なくない額をもらっているんだぞ。これで各国が採用を拒めば――。



「そ、そうだね。でもあの時、夫殿が来てくれて嬉しかった」

「猿獣人共め、奴らの脊髄を引きずりだして――。は? はい? な、なななにを――。当然のことです」

「それでも、夫殿に感謝したい」



 プルメリアは気恥ずかしそうにそっぽを向く。俺も気恥ずかしくて彼女を直視できない。



「……今まで黙っていたのだが実は、祈ってしまったのだ」

「もしかして、俺が現れることを?」

「は? ははは、違う、違う。神様という存在がこの窮地から余を救ってくれないか、とな」

「――ッ!?」



 う、うわー。うわッー。恥ずかしい。恥ずかしい……!

 自意識過剰じゃん。俺。

 そりゃ、そうだよね。ピンチの時って神頼みしたくなるよね。人じゃなくて神様に祈りたくなるもん。

 無茶苦茶恥ずかしいことをいってしまったな……。気まずさからワラワラと攻勢を始めた赤い粒々を目で追ってしまう。



「かみさまが奇跡を起こして敵をくい止めてくれるよう祈っていたが、まぁ、ダメだったな。頼みのドラグ大公国軍の銃兵大隊は敵を食い止められなかった。やはり都合の良い時だけ信仰心を持つ者の前に神は現れぬのだろう」



 プルメリアは硝煙の混じった風になびく桃色の髪を撫で、俺と同じ方向を見やると頬を染めながら言った。



「――神は現れなかったが、夫殿は現れてくれた」

「……殿下が、増援の二個大隊を采配したからこそ、だと思います。あれがなくては間に合いませんでした」



 万が一、プルメリアが安全を求めて後方地域へ転進して部隊を再編――。などと悠長なことをしていたら南部諸侯総軍はそれを敗走と見て壊乱していたかもしれないし、魔王様を危険にさらすことにもなりえた。

 だが彼女は留まることを選択し、実行させた。



「殿下の軍略がなければ俺の眼前には戦野に屠ふられた友軍ばかりが広がっていたでしょう」

「まさか夫殿は我らの協同なく今はなかった、と言いたいのか? 買いかぶりだ」

「そうでしょうか」

「そうだとも」



 ふぅむ。と腕を組んでため息を吐けば、今という時間があるのは奇跡の連続によるものだと改めて実感した。

 どこかの歯車が一つでも狂っていれば今はなかっただろう。



「主は、乗り越えられる試練しかお与えになりません。如何に苦境が押し寄せようと、道はあるのだと思います。それに――」

「それに――?」



 言おうか言わまいか悩んだが、もう恥はかいているのだからいいやと心が吹っ切れることにした。



「今という時間は、我らのどちらか片方がいなくては成し得ない時間です。片方だけではダメなのです。その、婚儀と同じで」

「婚儀?」

「星神教ではアーダムの肋骨からエーヴァが創られ、二人は夫婦になります。それは一つのモノから分かれたモノが再び一つになることです。そして二人は主の言葉の通り子孫を生み、増やし、地に満ちました。二人なくして出来ぬ偉業です。これと同じで、どちらか片方ではダメだったのだと、思います」



 い、言っているこっちが恥ずかしい。もう耳まで真っ赤だよ。

 だがプルメリアぽかんと口をあけて俺を見るばかりでリアクションが返ってこない。

 これはどん引きされたな。口は災いの元。もうこういう話はやめ――。



「ふ、ははは」

「で、殿下!?」

「いや、なに。顔に似つかぬロマンチストなのだな、と」

「――ッ」



 言わなきゃ良かった! 言わなきゃ――。むあああああ。

 恥の上塗りも恥ずかしいものだ。くそくそくそ。



「だが、良い話だ。それに余は神様ではなく、その、あれだ。夫殿が現れたことの方が、うれしかったぞ」



 え? っと視線が回れば熟れたリンゴのように頬を赤らめた妻がそこにいた。

 早春の世界に佇む彼女は春を告げる妖精のように可憐であり、その涼やかな薄水色の瞳に張り付いた龍目が潤んでいるように見えた。



「以前、婚儀のことで愛のない婚儀と話していたが、訂正する。夫殿に惚れてしまったぞ」

「――ッ!?」



 うん? んんんーッ!?



「どうかな?」

「お、俺も、殿下が俺の肋骨であれば、と思います。そして分かつことのできぬ一つのモノであればと――」



 なんだそれ、と吹き出され、俺もつられて口元がゆるむ。

 あぁ、これが好くということなのか。これはなかなかどうして、良いものだな。



「夫殿。その、敬称などやめて名前で呼んでもらえないだろうか?」

「では……」



 いざとなると恥ずかしさがこみ上げてしまう。

 それはプルメリアも同じらしく、その白磁のような耳を桃色に染め上げている。



「ぷ、プルメリア。どうか俺のことも名前で呼んでくれませんか?」

「な!? よ、良いぞ」



 消え入りそうな「……か、カレンデュラ」という甘い声が響く。

 そして俺達を祝ってくれるようにウルクラビュリントが再び轟然と吠えるのだった。

このお話で今章を終わらそうと思っていたのですが、分割した方がキリがよさそうだったので本日は連続更新として二話投稿いたしますので御間違いのないようよろしくお願いいたします。

二話目の投稿は2100頃を予定しております。


それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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