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オークに転生したので人間の村を焼いていこうと思う  作者: べりや
第二章 ウルクラビュリント奪還戦
34/101

鉄槌作戦・1

 ヌーヴォラビラントの城壁はたったの五日で以前よりも酷い有様へと変貌していた。

 丹精に積み重ねられた石垣は所々崩壊し、城門も破砕されており、瓦礫を積み上げたバリケード。

 そんな城門の近くに粉塵にまみれた鳩楽踊(はとらくおどる)は天が割れんばかりの大轟音に頭を抱えたくなった。いや、実際に頭を抱えた。



「みんな伏せろ!!」



 それに同じく白い粉塵をかぶったマリアとハルジオンが続く。すると天高くに黒点が見えたかと思うと、それが重力に引きつられて着弾。地揺れを引き起こし、大量の噴煙が巻き上げられる。

 それは直径三十センチ、重量七十キログラムに迫る鉄球であり、弾着と共にその莫大な運動エネルギーによってありとあらゆる建築物を粉砕し、今も絶え間なく破壊を振りまいていた。



「く、いつまで続くんだ……!」



 悪態をつくと共にさらに発砲音が響く。幸い、このタイプの砲弾はただ鉄を投射しているだけなので命中しない限り被害はたいしたことはないのだが、問題は――。

 その時、城門の近くに”ガコン!”というドラム缶が投げ出されるような音と共にワインボトルを思わせる形をしたものが転がりこんできた。もっとも形こそワインボトルのそれだが、大きさは直径三十センチ、長さが五十センチほどもあり、ワインボトルというよりむしろ牛乳缶を連想させた。

 それもまた先の鉄球と同じで爆発こそしないが、その口から白煙が止めどなく漏れ出てくる。



「――! ハル、援護! マリア!」

「分かってる!!」



 オドルとマリアは周囲を警戒しながら缶の元に駆け寄るとその刺激臭に思わず咳こんでしまう。

 コノ缶の中身は硫黄を主成分に燃焼を促進するための木炭、酸化剤として硝酸が加えられた代物であり、硫黄の燃焼によって亜硫酸ガスを生み出す()()()()であった。

 そうとは知らずに亜硫酸ガスを吸引した冒険者の中には喉の激痛のせいで魔法式(ことば)を発することができず、魔法が使えなくなる者も出る始末だ。

 そのため水魔法を缶の中に流し込んで燃焼を止めなくてはならない。



「くそ、中世ファンタジー世界に化学兵器とかチートじゃないか!!」



 倒れた缶をオドルが籠手に包まれた手で立て直し、そこにマリアが魔法によって生み出した水を注ぐ。

 それに二人は安堵の顔を浮かべ、城門の陰へ小走りに戻る。



「マリアの魔法のおかげで迅速な消火ができるから助かるよ」

「オドルの知識があればこそ、よ。わたくしだけじゃどうしようもなかったもの」



 泥と粉塵に汚れているとはいえ、気品さを失わない顔に笑顔が咲き誇る。それに気恥ずかしさを感じたオドルが目をそらした時、城外から全てを台無しにするラッパの音が響いてきた。



「ご主人様! スケルトン達がやってきます!!」

「奴らも懲りないな……! マリア、やれるか?」

「任せて!!」



 城壁の外からは畑を踏み荒らす無数のスケルトンが万歳突撃よろしく突撃してくる。

 だが今日はそのスケルトンの後ろに赤い軍服を着込んだオークの一団が続いてきていた。



「まじかよ……!?」



 城壁外に展開するオルク王国軍第一師団のうち『電撃(ブリッツ)』作戦に参加しなかった五千もの銃兵が一万ものスケルトンを盾に攻撃をしかけてきたのだ。

 それにマジックキャスター達は魔法を一斉に放って阻止攻撃を行うのだが、それでも取り逃した数体のスケルトンが城壁まで迫るや自爆する。



「なんて連中だ……。特攻かよ!」



 このスケルトンによる自爆攻撃は攻城戦が開始されてから間もなくから実施されてきた攻撃であり、城壁に取りついて自爆することで城壁を壊そうとしているのだ。

 この攻撃の厄介な点はスケルトンが接近する前に倒すしか対処法がないことだ。接近を許せば自爆に巻き込まれいたずらに損害が増してしまう。

 もっともスケルトンの攻撃は城壁周辺に集中しており、ヌーヴォラビラント内部に切りこんでの自爆はほとんどなかった。

 だがその余波として付近の騎士や冒険者に副次的ではあるが、損害を出す攻撃であり、誰もがこれに頭を悩ませていた。



「万歳突撃に化学兵器に……。相手は一体何者なんだ?」



 一度は魔族側に転移者はいないのではないかと思ったオドルだが、今ではその考えを改めていた。

 このような戦い方がこの世界には存在しないからだ。だからこそ転移者がいると確信を得たのだが、一体なんのために魔族に力を添えているのか理解できないでいた。

 だがそんなことを考えている暇はない。



「オークだ。オークが来るぞ!!」



 そしてスケルトンの陰に隠れていたオーク達の攻撃は始まる。それを迎え撃つ戦力は一千ほどの冒険者と騎士の連合部隊でしかない。

 そんな中、オドルは愛槍を振るい、攻撃をせき止める。それも全てはこの街で暮らす人々のために――。


 ◇


 外から聞こえてくる怒涛の悲鳴とは裏腹に南部諸侯総軍司令部にはパチリ、パチリと将棋を指す小さな音がいやに響くのみで司令部に詰めている幕僚は総攻撃の様子を確認するため出払っているか、居残っていても攻撃の成功を祈って黙っているものしかいない。

 そんな中、プルメリアが一手を差し終えると、対局者である死人の少女であるイトスギは生気の失われた顔にガラス玉のような瞳を盤面に釘付けにされ、何度と分からぬ長考を始めた。

 もっともプルメリアとて将棋に造詣が深いわけではなく、ブリタニア留学の折にガリアから流れてきた将棋を齧った程度の腕前でしかないのだが、それでも今日初めてルールを知ったイトスギに比べれば玄人といっていい腕前をしていた。



「本当は一手に時間制限があるのだが、気にしなくてよいぞ」

「あー。それはどうも……」



 チラチラと様子をうかがってくるイトスギにプルメリアはどのような一手をするのだろうと楽しみにしつつ侍従が運んできたハーブティーに口をつける。



(それにしても不思議なやつだ)



 夫殿の愛人という噂がある二人のうちの一人(もう一人はウルクラビュリント司教のナイだ)であるアンデッドをプルメリアはしげしげと眺めると、うーんうーんと唸りながらも攻撃的な一手を放ってくる。

 その絶妙な一手に本当に元はただの民だったのかと龍の姫は首をかしげつつ、新たな手を思案していると「失礼ながらよろしいので?」と尋ねられた。



「ん? なにがだ?」

「総攻撃の最中にこう、遊んでいるなんてその……。不謹慎では?」

「構わんさ。もうやるべきことはやった。特火による準備砲撃もしたし、竜騎兵(ドラグーン)による空襲もやった。指揮官としてはできることをすべて行ったのだ。あとは天命を待つのみであろう」

「はぁ。そういうもんですか?」



 不満そうな顔を隠そうとしないイトスギが供されていたティーカップを手に取る。もっとも手にとるだけで口につけようとはしないが、余計な音を立てずに指先がつまんだそれをプルメリアは興味深げに見ていた。



(言葉使いは貴族のそれとは到底思えぬが、所作の一つ一つは上流階級出身のようなマナーを感じる。夫殿から体を継ぎ接ぎにされていると聞いてはいたが、もしかして体の部位に残る記憶が混ざっているのか?)



 そうじろじろと観察をしていると「プルメリア様の手番ですよ」と促されてしまった。



「それは悪いことをした」

「……悪いと思っているのなら、やめていただきたいです」

「そうか。じろじろ見てすまなかったな」

「私たちに対するのもそうですが、スケルトンに対しても、です」

「自爆攻撃が気にいらないのか?」



 まぁ、という返事にプルメリアの眉がぴくりとはね動く。

 スケルトンに爆薬を持たせ、そのまま敵陣に突っ込ませるという作戦は効果が高かった。死を恐れずに突き進む軍勢というのは相手にとって凄まじいプレッシャーとなる上、死者が出ればその骸でスケルトンを作ることができるので戦力が向上するためコストパフォーマンスに優れる(もっとも城壁を破砕するという効果はガリア側の防備が固いため難航していたが)。

 だからこそオルク王国軍としては捨て駒としてスケルトンを運用し、育成に時間のかかる徴兵部隊の損耗を減らそうとしていた。



「そりゃプルメリア様とて爆弾を持たされて敵に突っ込めって命令されるのは嫌でしょう?」

「なにを当たり前のことを……。そもそもスケルトンと生者は違うだろ?」

「確かにスケルトンは自我を持たず、生存時の欲求によって動くだけのモンスターって通説ですけど、もし、万が一にでもスケルトンと意思疎通が図れたら同じ命令できます? 私達のようなリッチに対して爆弾をもって突っ込めだなんて。まぁネクロマンサーでもスケルトンと意思疎通が出来た試しはありませんが」



 ガラス玉のような瞳に挑戦の色を浮かべた相手にプルメリアはふむ、と茶に口をつける。



「つまるところ、スケルトンを捨て駒にするなと言いたいのならまずは上級部隊であるオルク王国軍の長たる夫殿に上申してくれ。スケルトンをそう使うようにしたのは他でもない夫殿で、その夫殿にネクロマンシーを教えたのは貴様だろう」

「そんなこと言えるわけありませんよ!」



 顎を隠しながら顔をしかめる姿にプルメリアは吹きそうになってしまう。その純粋な恐怖の色にこの者が夫殿の愛人ではないと確信を得たからだ。

 そんな彼女達を余所に総攻撃を視察していたオルク王国軍第一師団長のグロリオサ・フォン・オルク伯爵が渋い顔を浮かべて戻ってきた。



「総軍司令官閣下。報告をしてもよろしくありますか?」

「かまわん。どうした?」

「……攻撃に参加した第一連隊は城門の突破に失敗、損害多数で後退を要請してきております。また唯一突破に成功した第二連隊はその後、敵の――それも白銀の悪魔を筆頭にした騎士の逆襲にあい、逆包囲され連隊長以下多数が戦傷死。壊滅した模様です。師団特火からは砲弾の備蓄僅少のため援護を中止するという通達もあり、前衛のスケルトンの効果もいまいちであり、なんとも……。その上、軍特火に配備された攻城臼砲ですが、破壊の効果は大なのですが発射速度が遅くて銃兵の援護になりません」



 重苦しい言葉に居残っていた幕僚から失望のため息が吐き出される。

 彼女の夫が持ち込んだ新兵器である三十二センチ臼砲を主装備とする攻城特火大隊はその火力を以って遺憾なくウルクラビュリントに破壊を振り撒いていたが、如何せん七十キログラムの砲弾を再装填するには筋骨隆々のノームでも三十分近い時間がかかり、速射が出来ないのだ。その上、短砲身の臼砲では弾道が山なりになり、風の影響を受けやすいせいで命中率も高くはなかった。

 つまるところ攻城という巨大な固定目標をまんべんなく壊す分には問題ないが、ピンポイントの支援となると使い勝手は既存の八十四ミリ野戦砲の方が勝っていた。

 もっとも報告を受けたプルメリアはブリタニアで流行の兆しを見せていた盤上遊技から目をそらすことなく「そう」と答える。



「か、閣下? 聞いておられますか?」

「余さず聞いているよ。ご苦労様。現有の戦力ではどうにもならないのだね? ならば総攻撃の中止し、各部隊には現在地を固守するようにと新たな命令を発令する」

「ハッ。………………」

「あぁ、そうだ。オーク伯。ドラグ大公国軍と掛け合って第一師団が後退できる準備をしておく。だが今日だけは堪えてほしい」

「かしこまりました」



 こころなし安堵の声音にプルメリアが将棋盤から顔をあげるとオーク伯とイトスギは互いに顔を見合わせていた。



「……? なに?」

「いや、その、殿下はお優しいと思いまして。数でも勝ってますし、このまま予備兵力を投じて攻城を急ぐのかと」



 もっともイトスギとしては()()に比べれば大抵の者は優しいだろうにという感想を抱いていたが、それと同時にそれが口に出してはならぬ言葉だと心得ていた。



「そう? 夫殿も退くとは思うけどね……。それに今回の総攻撃は議会からせっつかれたから実施せざるをえなかったけど、元々南部諸侯総軍の本命は『鉄槌』作戦だよ」

エルシス(エルフ)の観戦武官に特火の総力と銃兵の果敢な努力を見せしめよ、ですか? 体の良い宣伝に兵を消耗させるのはどうかと」

「政治だよ。議会はこの戦の終わった後を考えているのだろう。エルシスとの同盟は国策だからね」

「しかし――」

「オーク伯爵。大義であった。兵にはよく休息をとらせるように」

「……御意」



 敬礼を交えて出ていくオーク伯を見送ると将棋盤に目を落とす。

 その顔色こそ平静そのものだが、内心では困ったものだと唸っていた。



(はてさて、参ったね……。やるからには成功してほしいものだったが、やはり時期尚早だったか。知っているつもりだったけど、人間というのは侮れないね)



 プルメリアは難しい局面をていする盤面を睨みつけながら伝令を呼ぶ。



「君、外で総攻撃を見物しているであろう軍工兵参謀宛てに頼む。此度の総攻撃の成果を鑑み、『鉄槌』作戦を再開させるための行動命令を策定せよと、と。彼はノームだから見つけにくいかもしれないがよろしく」



 そしてすっかりぬるくなった茶で口内に広がる苦みを洗い流そうとするのだった。

化学砲弾の中身は亜硫酸ガスを発生させるために硫黄は欠かせないし、容器に入れてるから燃焼に必要な酸素が供給されないだろうから酸化剤として硝石いれて、あと燃焼を促進させるために木炭も……。それって普通に火薬にすればよくない? それに導火線の信管つければ榴弾になるし、そっちの方が殺傷力高いよね? てか電撃作戦で擲弾が出てるんだからそれを投射すればよくね? という感想をお待ちしております。


言い訳をさせていただくとバタリオンというWW1映画を見てしまったが為に化学戦をやりたかったんです(WW1小説を書いて発散すればよかった感はあります)。

いや、でも描写してませんがファンタジー世界でペストマスクのくちばし部分に活性炭つめてガスマスクにしてる兵士が毒ガスと共に侵攻してくるってえもいと思うんですよ(オタク特有の早口)。

それに亜硫酸ガスならクリミア戦争でイギリスがロシア軍に使ってるし、多少はね?



それではご意見、ご感想をお待ちしております。

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