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オークに転生したので人間の村を焼いていこうと思う  作者: べりや
第二章 ウルクラビュリント奪還戦
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背後からの一突き

 ゴブリシュタットでの蜂起鎮圧に成功し、意気揚々とオルクスルーエに帰還した俺を待っていたのは、見合い話であった。 え? どうして?



「あ、あの、叔父上? 今、なんと?」



 父上の弟であるユルフェ・フォン・オルク叔父は俺の執務室にていやに神妙な表情を浮かべ、再度同じ言葉を繰り返した。



「良いか? よく聞け。縁談のお相手はリンドブルム公プルメリア・フォン・リンドブルム殿下だ」

「……それはその、リンドブルム公爵といえば本家筋の?」

「そのリンドブルム公だ。前陛下の王妹にあたるお方でもあらせられる」



 ……あの、それって魔王位の継承を争って謀反人となったローゼ殿下の妹殿下にあたるわけだよね? そんなお方と見合い? なにそれ。気まずい。



「プルメリア殿下はこれまでドラゴニュートの住まう島国であるブリタニア連合王国に留学されていたが、リーリエ陛下の即位を機に帰国されるのだ。それでプルメリア殿下の母方の家柄である宰相殿よりお前も良い歳だしどうかとお話をしてくださったのだ。感謝するのだな」

「いいいや、いやいやいや。お、おおお待ちください。ど、どどどいうことなのかさっぱり――」

「動揺もわかるが、これほどの縁談はないぞ。殿下と婚儀を結べばオルク王国は安泰だ。戦から帰って早々だが、殿下をお待たせするわけにはいかん。すぐにモンスタルスタットに発ってくれ」

「いや、いやいやいや」



 おかしい。おかしいだろ。

 てか俺はまだ結婚する気なんてないぞ。前世でもなかったけど。いや、まぁ前世はニートだったから結婚する”機”がなかったんだけど、今はそんなことどうでもいい。重要なことではない。



「あの、叔父上。せっかくのことですが、婚儀にかまけている暇はございません。俺は父上と母上の仇を討つために――」

「は? 何を言っているのだ? まさかとは思うが魔王家との婚儀を断るというのか?」



 まぁ遠回りな言い方ではあるが、その通りだ、けど……。

 あ、あれ? 叔父上がいつになく厳しい顔をしておられる、ような……?



「いや、その、今は新式軍制導入の勅を受けて俺も方々に赴かねばならず、そのようなことにうつつを抜かす時ではないと――」

「畏くも! 畏くもプルメリア殿下とのご縁談だぞ。それを断るバカがどこにおる! お前は殿下に恥をかかせるつもりか!」

「そ、そのようなつもりは毛頭ありません! しかしですな――」

「ならば受けよ。これはオルク家のためでもあるのだ。それとも殿下とのご縁談を蹴るほどの大事があるのか?」



 な、なんでここまで鬼気迫っているんだよ。

 てか今は結婚どころじゃないだろ。魔族国全土で行われている新式軍制の導入にやらなければならないことが山盛りなんだ。そんな状況で結婚? ムリムリムリ。

 てかそれこそ縁談を蹴る大事ってやつじゃないの?



「不服そうだな。良いか? もし縁談を断ってみろ。謀反の心ありと疑われるやもしれんのだぞ」

「はい? そんなバカな! いくらなんでもそんなことで――」

「”そんなこと”ではない! 気づいていないようだから言うが、宰相からお前は睨まれているのだ。お前の作り出した新式軍制によって謀反が起こされないかな」



 はぁ!? どうして俺が陛下に楯突くって発想がおこるんだ? デモナスやローゼ殿下を打ち倒したのは我がオルク王国とハピュゼンじゃないか。ぶっちゃけ立ち位置からすれば忠臣ってやつじゃないの?

 それに俺が新式軍制を導入する最大の理由は父上や母上、それに多くの友を奪った猿獣人を根絶やしにするためだ。決して魔王様に反旗を翻すためではない。



「謀反などとそんな心は一切ないという顔だな。わしもお前がそのような軽挙妄動はせんと確信しておるが、向こうは違う。お前の作り出した新式軍制は既存の軍制を全て旧式化させるほど強力だ。その証拠にお前は大国デモナスを下し、今も蜂起軍を鎮圧してきた。それに先の魔王位継承戦争においてデモナスとコボルテンベルクを実質的な属国化し、実質的な南部諸侯の盟主となってしまった。それに中央でも散々軍制改革の名の下に軍務伯位につき、次々と新しい役職の長についたそうだな。ここで問うが、今のお前と継承戦争以前のルドベキアになんの違いがある? お前の矛先が王家に向けば王家は止める手立てがないし、例え矛を向けぬとも南部に独立の兆しが生まれればプルーサは止めることができん。そんな剥き身の刃物を放置しておく者などおらんだろう」



 ……そこまで考えたことはなかった。

 俺はただ復讐を果たしたいと思って大砲を改良し、銃を量産し、それを扱う兵士を育ててきた(ついでに敗戦国のデモナスとコボルテンベルクから多額の賠償金をふっかけて実質的な属国化もさせていたが)。

 全ては猿獣人に俺の受けた苦痛の万分の一でも与えられればと思ってのことだった……。



「良いか? プルメリア殿下は表向き新たな魔王様の即位を機にということだが、本質は宰相がお前の手綱として呼び戻したにすぎん。お前はちとやりすぎたのだ」

「………………」

「はあ。まぁ、あれだ。そう落ち込むな。悪いことばかりではないのだぞ。リンドブルム家と縁戚関係になることができれば魔王陛下の叔父として権勢を振るえる。こちらもしたたかに相手を利用してやるのだ」



 悪い笑みを浮かべる叔父上だが、それでも俺の心はまだ結婚に納得はしていなかった。いや、もちろん結婚の必要性は理解している。だが理性では認めても、どうしても痼りのように凝り固まった思いがある。



「……答えが一つなのは分かっておりますが、プルメリア殿下はドラゴニュートです。他種族婚となってしまいます」

「確かに良きオークはオークとつがい、血を守るべきだ。だがそれを差し引いても此度の縁談を拒む理由にならん。オルク家の発展のためにはな。まぁ子供が心配なら良い養子を見つけておこう」



 そこまで言われては拒むこともできない。

 なんだろ。せっかく勝利の美酒に酔っていたのに、すっかりと冷めてしまったな……。



「なんだ。まだ決めかねておるのか?」

「申し訳ありません。……答えが出せません。どうか、一日で良いのです。一日だけお時間を」

「………………。……戦の疲れもあろう。か、勘違いするでないぞ。お前の武功を考えればそれくらいの休みを魔王陛下から賜ってもおかしくないから出立を遅らせただけなのだぞ」

「お、叔父上……!」

「一日だけだ。明後日の朝にはモンスタルスタットに発て。考えたところで詮無きことなのだ。むしろ納得する理由を早く見つけてくれ」



 そっぽを向く叔父上に深々と頭を下げ、私室に向かうことにした。

 もっとも頭の中は未知の縁談で一杯だ。気がつけば童のように侍従の為すがままになっており、いつの間にか軍服から寝間着に着替えさせられていた。

 そんな重い心を抱きながら床に就くが目はくっきりと冴えてしまい、闇に沈む天井には不安がはっきりと映し出されているようだ。



「プルメリア殿下ってどんなお方なのだろう……。留学経験があるということは陰キャではないんだろう。だとすると苦手だな。出来れば奥手ならいんだけど……」



 やっぱりキツイ性格なのはイヤだな。それにあんまり干渉してくるタイプも願い下げたい。

 いや、やめよう。こんなことを考えるのはやめよう。だってきりがない。

 それに妄想すればするほど悪い方向にプルメリア殿下をキャラメイクしてしまう気がするし、逆にど直球の”俺の嫁”を考えていては出会った時に落胆してしまうかもしれない。

 もう何も考えるな。心を無にするのだ。煩悩を捨て去り、菩提樹の袂にて静寂のまま無心になりて――。ちがーう! 俺は星教徒だ。仏法に帰依してたまるか。



「はぁ。もうだめだ。寝れる気配がせん……」



 少し夜風に当たろうと中庭に向かうと背後から不寝番をしてくれている従者がついてくる気配を感じる。

 そして中庭に出るとすでに先客がおられた。



「――! 叔母上!」

「あら、カレンちゃん」



 どっしりとふくよかな体をゆったりとした寝間着に包み、その上に厚手のガウンを羽織った叔母がにっこりと笑ってくれる。そこにはどこか安堵を与えてくれる優しい表情がついており、心を占めていた不安が流れ出すようだった。



「どうしたの? 眠れないの?」

「え、えぇ。それより”ちゃん”付けというのはどうも気恥ずかしいのですが」

「そう? 可愛らしいのに」



 いや、この二メートルを越える図体で”ちゃん”付けはちょっと……。



「叔母上も眠れないのですか?」

「歳を取るとちょっとの事で起きちゃうのよ。本当にいやねぇ」



 皺の刻まれた頬に手を当てる様は楽しく歳を取っているようにしか見えない。あー。こんな奥さんだったら欲しいな。



「カレンちゃんは縁談のことで眠れないの?」

「……御見通しですか。もちろんオルク家のためを思えば拒めるものではないと分かっております。分かっておるのですが……」

「そうねぇ。不安なのよね。わたくしも不安だったわ」

「……! 叔母上もそうでしたか?」



 叔母上の話を聞くと叔父上は戦功をたてて実家(つまりオルク大公家たるうち)から独立することが認められた。その際に叔母上が嫁に入ったそうだ。



「カレンちゃんの祖父上殿に当たられる先々代の大公閣下からこのオルクスルーエを下賜されてね、私はオーク家から嫁いできたの。あの頃、あの方は戦の得意な怖いオークって印象だったわね。そんなお方と上手くやれるか不安の連続だったのよ」

「そうなのですか?」

「そうよ。結婚は不安の連続。それに良いことばかりじゃなかったわね。そりが合わなくて何度も喧嘩しちゃったわ。でもね、悪いことばかりでもなかったの。幸せに包まれる日々も確かにあったの。でも悪い方が多かったかしらね。ほら、あの方は不器用でしょ? 苦労が絶えなかったわ。ほほほ」



 ははは、と苦笑をもらしながらこの話は叔父上には黙っておこうと決めた。



「でもね、今は幸せよ。子宝に恵まれたし、孫の顔も拝めたわ。みんな家を出ちゃって寂しいけど、でもカレンちゃんが家に来てくれてうれしいわ」

「叔母上……」

「苦労も多かったけど、今は幸せなの。後悔はしていない。でも、そう悟るまで大変だったわ。だからそれまでお互いに助け合わないといけないの。結婚は一人じゃできないのだから」



 先達の言葉にうなずき、一言二言しゃべった後に俺たちは分かれた。

 それでも中々寝付くことができず、悶々としていた。



「助け合うか……。いや、それはそうだけど――」



 そもそも前世から含めて四十年くらい童貞なんですけど。そんな俺に相手を気遣い、助けることができるのだろうか?

 そんなことを考えると余計に悶々としてしまう。

 そして気が付くと夜が明けていた。遠くからオルクスルーエに駐屯する部隊の総員起こしを告げるラッパの音が響いてくる。

 それからはいつも通り朝食を取り(叔父上と共にだから非常に気まずい)、逃げるように教会に向かうことにした。

 すでに朝の祈りを終えている教会に飛び込むと真っ直ぐ告解室に向かう。しばらく待っていると仕切の奥に人が入る気配がした。



「おはようございます。カレン様。どうなさいました? 告解ですか?」

「な、ナイ殿。いえ、違うのです。相談にのってほしくて」



 そしてことの顛末を全て話す。

 こういう相談って誰かに話すことで問題を自分の中で再確認することができ、そこから解決の糸口を見つけることができるかもしれないし、何より不安を吐き出すことですっきりできる。

 夜のうちに叔母上にも話したが、どこか肉親然としている叔母上との会話より距離のあるナイ殿に話す方がよいだろうと思って足を運んだのだ。



「なるほど。まずはご結婚おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます?」

「婚儀の際はぜひこのオルクスルーエ教会で式をあげてくださいね」

「は、はぁ」



 な、なんとも商魂たくましいことで……。



「い、いや。まだ決まった訳では……。そ、それに俺、星神教の位階を持っているわけではありませんか。それなのに結婚とか、大丈夫なのでしょうか? その、結婚って二人が結ばれて終わりというわけではないではありませんか。こう、寝屋的なこととか、主の教えに反するのでは?」



 第二次ウルクラビュリント奪還戦の折りに俺はナイ殿の上司であるフランシスコ枢機卿猊下から司祭位をもらっていた。もちろん書類上の身分であり、出家した訳ではないので名誉職でしかないけど。



「確かに聖職者の婚儀は認められておりませんが、カレン様は御出家されておりませんし、名誉職ですから大丈夫ですよ」

「ですがその、姦淫はならぬと十戒に記されておりますが……」

「それは淫らな行為はよろしくない、ということです。むしろ主は生きとし生けるものに”生めよ増やせよ地に満ちよ”とおっしゃられました。子を成し、育む行為を良しとされたのです。ですから教会は子を成すことができない同性での性行や自慰を禁じていますが、清く正しい行為ならばむしろ祝福されるべきです」



 な、ナイ殿? 少しストレート過ぎじゃない? それに朝だよ。まだ朝なのに……。



「それに主は土塊に息を吹き込んでアーダムを、その肋骨からエーヴァをお創りになられました。二人は元々一つであり、夫婦になることで二人はまた一つに戻るのです。アーダムから失われた肋骨を婚儀によって一つの完璧な存在へ戻す、と解釈もできましょう。婚姻とは互いに足りないものを補い、一つになることです。カレン様だけでは足りないものを補うための儀式が結婚なのではありませんか?」



 俺に足りないもの……。

 そしてナイ殿は「もっとも結婚とは縁のない司教の話が役に立つか」と謙遜していたが、なんとなく結婚ってそんなに悪いものじゃないのでは? という考えが萌芽しようとしていた。

 それに叔母上も互いに助け合うということを言われていたし、それを実行できれば良いのだなとなんとなーくのイメージを抱くことができた。



「あ、ちなみにですが元々一体であった夫婦が別れることはあってはならないので相手が不貞を働かない限り離婚は禁止ですよ」

「……え?」

「なにを驚いていらっしゃるので? 当たり前ではありませんか。主が分けられた二人を一つにされたのです。ならば人がその逆をしてよいはずがありません。ですのでご結婚は慎重に」



 な、なんで不安を解消しにきたのに不安が増えてしまうのかなぁ……?

 主よ。どうかこの迷える子羊をお導きください……。



 ◇


 モンスタルスタット王宮の一室にて一人で待機していると扉がノックされた。それと共に老齢のドラゴニュートであるホテンズィエ宰相閣下が現れ、その後ろに赤色の軍服のような衣服に身を包んだ薄桃色髪の女性が入室してきた。

 桜を思わせる柔らかな髪が腰まで伸び、工芸品のような薄水色の瞳に張り付いた蛇のような細長い光彩が俺を射抜く。

 宰相閣下が咳払いするまでその美しさに言葉を失うほどであった。



「し、失礼いたしました! お初にお目にかかります。オルク王国大公にして魔王陛下より軍務伯位を賜ったカレンデュラ・オークロード・フォン・オルクと申します。此度はこのような栄誉の席を設けていただき、恐悦至極に存じます」

「殿下。この通り謹厳実直なオークです。その上、この風体の通り武勇に優れ、申し分のない武功を有しております。オルク殿。こちらのお方は――」

「プルメリア・フォン・リンドブルム公爵である。お見知り置きを」



 怜悧な瞳に小さい口が紡ぐ言葉は簡潔を通り越してどこか険を感じる。緊張しているのか? いや、緊張しているのは俺の方だ。

 てかプルメリア殿下からまるで動物園の動物を眺めるような視線が襲ってくる。それにどぎまぎしていると今度は宰相閣下がプルメリア殿下のことを話してくれた。



「オルク殿。ご存知だとは思うが殿下は前魔王様の御妹にあたり、幼少の頃よりブリタニアに留学され、彼の国の内政、軍事、経済について学を修められてこられた。その上、ブリタニアにおける内乱にも義勇兵として出征され、内乱鎮圧に寄与されておられる。オルク殿のお相手に申し分のないお方であると考えておるのだが……」

「俺のような者にはもったいと思っております」

「殿下、このように謙遜もできます。良き夫婦になれると私は考えておりますが」



 ちらりと宰相閣下がプルメリア殿下を見やると殿下は小さく「うん」と曖昧に頷かれた。

 なんとも緊張で吐きそうだ。それに胃のあたりがキリキリとする。



「この婚儀は魔族国の結束をより強くするものであり、明るい未来のために不可欠であると私は考えております。しかしお二人はまだ互いを知らなすぎるきらいがありますので、あとは若い者に任せて老いぼれは退散いたします。それではしばらくの間、ご歓談を」



 そして宰相閣下がすこすこと部屋を出て行ってしまった。それに代わり王宮の従者が現れてドラゴ大公国の名酒であるゴシャウカの入った瓶と小さなグラスを差し出してくる。

 それを受け取り、酒が注がれた後、ちらりとプルメリア殿下を見やると彼女もまたどうしたものかという不安を見せながら瞳を見返してきた。



「なにかな。大公殿」

「い、いえ。その……」



 見とれてしまったというのは不敬だろうか? いや、婚姻するのだからそんなことはないか? いやいや、やっぱ失礼だろ。

 まごまごとしているととうの殿下が侍従が己の杯に酒を満たさせたあと、大きなため息とともにそれを一気に煽られた。



「まったく。ホテンズィエ侯爵(そふうえ)の思いつきに巻き込まれて災難だったな」

「は、はい?」

「本当はこの婚儀を快く思っておらんのだろ?」

「殿下。そのようなことは――」

「無理をせずともよい。まぁしばらくは侯爵の思惑にのってやろう。しばらくしたら熱も下がるだろう。それまで耐えてくれ」



 なんとまあサバサバしているお方だろう。

 もしかして警戒されているのだろうか? まぁオークなんかとの婚姻を良しとする者の方が少ないか。



「そうだ、大公殿の武勇伝を一つ聞いても良いかな?」

「はい、殿下。ただ武勇などとそんなものは……」

「ははは。謙遜が上手いのは本当のようだな」



 それからしばらく酒を飲みながら歓談を交えたが、度数のきついゴシャウカのはずなのに飲んだ気が一切しなかった。

 その後、戻ってきた宰相と共に婚姻の日程やその様式について取り決めを行い、別れることになった。

 だがそこでプルメリア殿下は「まだ互いを知らないのに婚姻は尚早である」と宰相閣下の意見に反対。それから互いの交渉に付き合わされた結果――。



「では殿下は南部諸侯総軍の指揮官としてオルク王国に着任し、同地にて逗留する。その後、時期をみてご結婚の儀を執り行う。これでよろしいですな」

「……いいよ」



 よくねーよ。

 南部諸侯総軍ってなんじゃい!?

 俺、新式軍制導入の一切を取り仕切る軍務伯だよね?

 確かに新式軍制導入にあたって徴兵区の制定や連隊の開設から中央の軍政組織や軍令組織の発足まで手広くやってきたけど南部諸侯総軍の創設など聞いたことがない。

 だがそれを提案した宰相閣下からは「新式軍政は上意下達の組織であり、緊張を増す南部国境地帯の現状を鑑みた結果、中央の意見を即座にオルク王国やコーボルト王国、デモナス王国の諸軍に伝達するための軍組織は必須」とのことで発足が今決められてしまった。



「オルク殿。別段、問題なかろう? オルク殿が作ってこられた軍組織は上意下達が基本。各地を統合的に統括する組織は必須であり、その統制を王族が握る。万が一にもデモナスあたりが再度の反乱を画策されたらたまらんから直接殿下が軍官になられた方が良いと思ったのだ」



 そ、それってやっぱり俺が反乱を起こそうと画策してるっぽいから中央のメスを入れるってことかな? そんなつもりは一切ないんだけど、存在しないものの証明なんて悪魔の証明になっちまうし……。



「宰相殿のおっしゃられる通りです。プルメリア殿下の南部諸侯総軍の軍司令官への御着任を歓迎いたします」

「では早々に殿下のオルク入りが果たされるよう、準備を行いましょう」



 こうして疑似的な新婚生活が始まってしまった……。

 どうしてこうなった!?

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