魔王位継承戦争・終
新芽を出した麦を軍馬が押しつぶしていく。デモナス王国軍の精鋭である騎兵六百がルドベキアを先頭に自慢の馬上槍を手に疾駆し、リーリエ軍に迫りつつあった。
空では未だに鳥人族とワイバーンの空戦が続いている最中であり、上空からの援護は期待できない。
その様を部下から報告された中肉中背のオーク――メヒシバ・フォン・オウク子爵は短く「戦闘用意」を下令する。
彼は戦争屋ともいうべき武術に重きを置くオーク伯爵家の傍系であり、この戦もオーク伯率いる第二師団に属して従軍していた。
もっとも彼は一族の中では例外的に貴族らしい放漫な暮らしを営んできたがために腹はだらしなく緩み、武人の様は見て取れない。と、言うのもオルク王国の国主たるカレンデュラ・オークロード・フォン・オルクが採用した新式軍制は自分が先頭で戦うのではなく、如何に新兵器たる燧発銃を持たせた兵士を並べていられるかに主眼が置かれているため危険は少ないと判断して従軍を選択したのだ。
そうして宗家であるオーク伯より第二師団第三旅団長に任命され、攻撃を任されたのだが――。
「旅団を構成する八個大隊はそれぞれ方陣を組み、騎兵の接近に備えよ! スケルトン銃兵は二列横隊にて他の銃兵が陣を組み上げる時間を稼ぐのだ!! 急げ!!」
メヒシバの命令に従い、指揮官を中心に兵士達が正方形の陣形を組み上げていく。
各辺を構成する横隊の銃兵が外側に向かって隙間なく銃と銃剣を構えるこの陣形は味方によって射角が阻まれることが少ないため、十全の火力を投射できるので極めて高い防御力を誇る。
その上、敵の接近を許しても銃剣を取りつけた燧発銃が槍衾を作る事である程度の接近戦への対応能力を有するため、これを突き崩すのは容易ではない。
しかし促成訓練しか受けていない新兵を多く抱えるオルク軍にとって迅速な陣形変更は容易ではなく、遅々としてそれは進まず、代わりに虎の子のネクロマンサー達が時間稼ぎにスケルトン銃兵の前衛を展開していく。
それにメヒシバは歯噛みしながら旅団左翼に展開する特火中隊を見やる。
「特火の準備はまだか!?」
師団が保有する野戦砲は八門。その内の半数である四門――二個小隊規模の師団特火が旅団に貸し出されており、彼らが旅団に直接的な火力支援を行うことになっていた。
もっとも支援はそれだけではなく、必要とあれば後方に展開する軍団司令部直轄の第一〇〇特火大隊(四個中隊三十二門)の一部からさらに火力支援を受けられるよう確約が取り付けられていた。
「敵との彼我の距離およそ五百! 敵総数六百変わらず!!」
「第一一三スケルトン大隊より伝令! 布陣完了、攻撃準備よろしい!」
「く、特火の布陣を急がせろ……!」
焦りが滲むメヒシバに旅団に詰める家臣団の顔色も悪化していく。そんな中、「特火中隊より伝令! 攻撃準備完了!」との報せは何よりも勝る吉報であった。
「攻撃開始!! 撃て!!」
敵騎兵との距離はすでに三百メートルを切ろうとしていた。そんな中、旅団の左側面に展開していた特火が試射もせずに一斉に撃ちかける。
無数のぶどう弾が騎兵に襲いかかったものの、試射をしていないせいで多くは地面や空へと飛去ってしまう。かろうじて不運な数人がプレートメイルごと体を抉られて倒れるが、吶喊を止めるほどではなかった。
それに対して特火兵は諦めることなく友軍を支援しようと懸命に再装填を開始するが、砲身の清掃や弾薬の再装填にどうしても三分はかかってしまう。
だが騎兵の終末スピードは時速四十キロメートルを超え、三百メートルの距離など三十秒弱で駆け抜けてしまう。
故に特火兵に代わり、前面に展開していた一千体のスケルトン達が迫りくる騎兵の前に立ちはだかる。地を揺らし、全重量が一トンを超える存在が時速四十キロメートルで駆けて来るというのにスケルトン達の窪んだ眼窩には恐怖も怒りも喜びも悲しみも映すことなく静かに引鉄を絞られる。
整然と並んだ銃列から放たれた弾丸は百メートルほどまで接近してきたオーガの豪奢な鎧を砕き、肉を抉って骨を断つ。
そうした凶弾に倒れて落馬した者は十数人にすぎなかったが、馬という臆病な生き物は耳慣れない砲声や銃声によって竿立ちになり、騎手の意図せぬ混乱が生まれていた。
もっとも騎兵は足を止めるような愚を犯さずに吶喊を続けるデモナス軍もおり、すぐにスケルトンとの混戦が起こる。
しかし馬上から繰り出される強槍が振るわれる度にスケルトンはなんら抵抗できずに踏みつぶされ、ネクロマンサー達が組み上げ途中の方陣へと逃げ込んでいく。
それを見ていたデモナス軍はすでに方陣を組み上げて騎兵を待ちかまえるハピュゼン王国軍ではなくオルク王国軍へ吶喊すべく、突撃陣形の再編に入る。
「撃てッ!!」
そこへスケルトン達によって稼がれた時間によって再装填が叶った特火兵が横合いからぶどう弾を斉射する。その直撃を受けた騎兵は馬ともオーガともつかぬ挽き肉を作り上げ、赤色の雨を周囲に降らせる。
「猪口才な! あそこだ! あの連中を攻撃せよ!!」
騎兵の中で陣頭指揮にあたっていたルドベキアが方陣から外れて健気にも第三射を用意する特火兵に矛先を向ける。
それに応えた精鋭を集めた騎兵が地を踏みならして徐々に加速していく。
圧倒的な速度と質量に加え、闘気と殺気を滲みだすオーガ騎兵の吶喊に特火兵の戦意と統制は失われて三々五々に戦場から逃走しようとする。
だが逃げ足よりも圧倒的に速く騎兵が駆けつけるや特火兵を愛槍の錆へと変えていく。
もっとも第三旅団とてやられてばかりではなく旅団を構成する八個大隊――五千名がそれぞれ八つの方陣をやっと組み上げ終わり、応射を開始する。
しかし方陣を教練通り横一列に組み上げてしまった第三旅団では旅団の左翼をかすめるように吶喊したデモナス騎兵に対して射線上に友軍が重なってしまい、まともな射撃ができなかった。
その上、再左翼の大隊が放った射撃のいくつかはさらに左翼に展開するハピュゼン王国軍の方陣に流れ弾となって直撃してしまう。
だがそうした抵抗むなしくデモナス騎兵は目論見通りオルク王国軍とハピュゼン軍の前衛を分断する事に成功し、旅団の後背を包囲するように機動を始めた。
第三旅団にとって運が悪かったのは騎兵を相手にしているうちにデモナス王国の歩兵の接近を許してしまったことだ。彼らは騎兵がこじ開けた”穴”に向けて突進を始め、いよいよオルク王国軍とハピュゼンを分断する楔となろうとしていた。
「撃て! 撃ちまくれ!」
そんな中、中央の方陣の中でメヒシバは狂ったように命じる。その命令通りに部下達は懸命に射撃を行うが、旅団左翼に襲いかかるデモナスの勢いを止めることはできずに最左翼の大隊がデモナス歩兵と接近戦に持ち込まれてしまった。
いくら人間よりも体格に恵まれたオーク族とはいえ、オーガ族はオークよりも一回りも二回りも大きな体と磨かれた技をもってカカシのような銃兵を黙らせていく。
そもそもオーク銃兵は民衆を徴兵した部隊に多少の訓練を施した根こそぎ動員の者ばかりであり、対するデモナスはこの日のために精進してきた傭兵や領主軍といった戦闘のプロフェッショナルを揃えている。
故に両者の接近戦の結果は火を見るよりも明らかであり、接近を許した方陣から崩壊が始まってしまった。
「く、楽に出世できるはずだったのに……! えぇい!! 撃て! 撃て!! なんとしても奴らを近寄らせるな!! 伝令は軍司令部に援護を求めるよう伝えよ! 急げ!」
未だデモナスの攻撃の重心となってしまった第三旅団の不運は続くのであった。
◇
まずい。不味い、マズイ、まずいまずいマズイまずい不味いまずいまずい……!
なんでこの局面で突撃してくんだよ。こっちは倍近い大軍なんだぞ。お前らは日本軍か。
「全ての予備戦力をかき集めて第三旅団を救え! 軍特火及び残存の師団特火は全ての火力を第三旅団左翼に傾注し、敵軍を爆砕させよ。急命だ。前進中の第一旅団にも前進を中止し、第三旅団の救援にあたるよう命令を発する。これは何よりもおいてこれを最優先と――」
「閣下! 落ち着きください!!」
第二師団長のオーク伯が俺の肩をつかんでくるが、その所作に思わずカッとなってしまう。
この状況で落ち付けだと? ズキズキと怨嗟の悲鳴をあげる古傷をさすりながら彼を睨みつけると、怯えと共にここは引けないという勇気のない交ぜになった不愉快な視線を返してきた。
しばらく互いに沈黙が続くが、それを破ったのはナイ殿であった。
「オルク様。天上におられる我らが父は信仰を試される際に試練をお与えになられます。それはどれほど過酷な試練やもしれませんが、必ずや乗り越えられる試練しかお与えになられません。それが主の御慈悲なのです」
「ナイ殿……」
「大丈夫です」
ナイ殿の表情はいつも通りの能面のようだったが、まるで母のような慈愛に満ちているように思えた。
だが本当に神様は乗り越えられる試練しか与えないのだろうか?
ならば前世、俺が引きこもる原因となってしまった会社のことも? 家を、街を猿獣人に燃やされたことも? それら全てが乗り越えられるものだったのだろうか?
いや、少なくともウルクラビュリントを燃やされた際は立ち上がれた。ナイ殿に立ち上がらせてもらえた。
そして俺は猿獣人共を根絶やしにすると誓ったのではないか!
ならばこのような所で立ち止まっている訳には行かないし、躊躇うこともしない。
「……先の命令を全て撤回し、新たな軍団長命令を達する。第三旅団はその場に留まり抗戦を続行すべし。第二、第四旅団は第三旅団後背に移動し、浸透突破中の敵軍に備えよ。なお軍特火は直ちに第三旅団への援護を中止し、後退。展開中の第二、第四旅団の援護にあたるように」
「だ、第三旅団をお見捨てになるのですか!? せめて軍特火の支援だけは継続を!」
「最早、第三旅団は助からん。死する者に支援は必要なかろう……?」
あぁ。そういえばオーク伯の傍系が第三旅団の長をしていたな。そりゃ肉親への情はあるだろうが、もう第三旅団を救援するには状況が窮迫しすぎている。
苦しいところだが、致し方ない。
「オーク伯。第三旅団を見捨てるのは確かに心苦しい。だが彼等の犠牲なく戦線の立て直しは不可能だ。それは戦に深い造詣を持つ伯ならば分かってくれることだと思う。悲しいが、彼らは魔族国の礎となってもらおう」
出来るだけ優しく、オーク伯を刺激しないように笑顔で説得を試みると当の伯は顔を青くしながらもコクコクと頷いてくれた。
そうか! 分かってくれたか!
「よろしい……! では続けて命令を達する。第一旅団はそのまま前進、敵右翼を蹂躙せよ。ナイ殿。星字軍にデモナスの右側面への攻撃及び第一旅団の支援を願いたいのですが」
「畏まりました。騎士団長に進言いたします」
命令が反復され、オルク軍が蠕動を始める。だがそれよりも早くデモナスは見捨てられた第三旅団をすりつぶし、旅団を壊走させる。
しかし吉報としてはその間にドラゴ大公国軍が後退を始めたことにより圧力の失せたハピュゼン王国軍がデモナスの左側面へ攻撃を開始したことで半包囲に成功したことだ。
その上、さしものデモナスも第三旅団との戦闘で衝撃力が衰え、足が止まってしまった。
「特火の展開を急がせろ。軍団司令部直轄大隊も方陣を形成し、応戦準備をなせ!」
ナイ殿の言葉で落ち着きを取り戻してみれば現状、まだ友軍は数的なアドバンテージを失っていない。むしろ少ない戦力で脳筋突撃をしてきたデモナスの方が消耗は激しいはず。そう、消耗戦となれば肉の数の勝る我らが勝つ。
「やはり戦は数だな」
にやりと口元がゆがんでしまうが、友軍にアドバンテージがあってもオルク王国軍のピンチは変わっていない。
だって第三旅団と司令部まで三キロメートルも離れていないし、銃兵の展開も遅々として進んでいない。先発した部隊が大隊単位で方陣を組み始めているが、全てが機能するまでデモナスが待ってくれるかどうか……。
「だが、主は乗り越えられる試練しか与えられない。ならば主の御名において我に勝利を授け賜え」
胸の前で五芒星を切ると共に発砲音が響く。砲声も銃声も、誰かの悲鳴もが共鳴する戦場の中、星字軍が動き出す。前進を続ける第一旅団と共に星字軍の歩兵一万が続き、二千の騎兵が土煙をあげながらデモナスの側面を直撃する。
如何に強靱な肉体を有するオーガ族とはいえ、まともに騎馬突撃を受けては一溜まりもなく、蜂の巣をつついたように潰走を見せ始めた。そこへ迂回に成功していたハピュゼン軍が殴り込みをかけ、退路を絶ってみせる。
「ふぅ。退路の遮断に成功したか。これでもう敵はお終いだな。」
数と機動力を頼みに包囲殲滅陣の完成だな。これはもう敵は降伏するしかないんじゃない? あぁ可哀想に可哀想に。さーて戦後はどれだけ賠償金がとれるかな? 戦費諸々にナリンキー商会への借金返済のためにちょっと多くふっかけよう。
てか、それにしてもスケルトン弱すぎだろ。壁にもなってないじゃん。それにいくらオーガが接近戦を得意とする種族でもオーク銃兵の貧弱さも問題だ。これは要改善だな。
そう楽しい平和な世界を考えていると周囲を警戒していた軍団司令部直轄大隊の歩哨が「敵の一隊がつっこんでくる! 警戒! 警戒」と叫んだ。
◇
なんだ、これは。
なんだこの戦は――。
「本当にただの民ではないか」
ルドベキア・オーガロード・フォン・デモナスは困惑していた。
間諜によりオルク王国軍が民を集めた部隊を作っていると知らされていたが、その内実の低さに驚愕していたのだ。
「飛び道具を頼りにするばかりで接近戦は全くの素人とは……。最早戦ではなく虐殺ではないか……」
それほどオルク王国軍の兵のレベルは低かった。
壮大な方陣を組み上げてもデモナスの接近を許せば早々に背を向けて逃げ出し、槍――連中が燧発銃と呼ぶそれ――の扱いも雑の極みであった。
「だが何よりも残念なのがその将が腰抜けだったことか……」
愛剣の錆となった敵の指揮官の顔はしまりのない頬肉のついた醜いオークのそれであり、ルドベキアは思わず唾を吐き捨ててしまう。しかし勝利は長く続かず、突出するデモナス軍に危機が訪れる。
「閣下! 背後からハピュゼンと星字軍が!」
「なに? ハピュゼンはともかく狂信者共め。中々足が速いな」
すでに敵の前衛を食い破り、ドラゴ大公国の脱出は成功している。あとは自分達が後退すれば良い。
そうルドベキアの理性が叫んでいたが、弱兵の集団であるオルク軍との戦は彼にさらなる前進を叫んでいた。このまま敵陣を食い破ることも可能ではないか、と。
だが危険はおかせない。そう自分を諫めて後退を命じようとした時であった。
「閣下! あれを! あれは敵の本営では!?」
家臣が指さした先には一キロメートルに満たない地点の小丘にそびえる天幕と空になびく旗印。それは間違いなくオルク王国のものであり、少数の兵が蠢くばかりでまともな防御ができていないのが見て取れた。
「連中の言う神が微笑んでくれたか?」
まだ後退という選択肢はある。だがルドベキアはあえて攻撃を選択した。
自分達の秘密を知っているであろうオークを抹殺すれば民衆を集めただけの烏合の衆は即座に瓦解するであろうし、ガリアとの密約も守られる。まさにこれほどの好機など神が微笑んだとしか思えなかったのだ。
「皆の者! 敵の本陣が見えたぞ!! 連中の頭を叩き潰し、ローゼ殿下に勝利を献上するは今ぞ! 我らの骨の捨て場所はここだッ!! 全軍、突撃ぃ!」
愛馬にまたがったルドベキアは砲声に負けぬ叫び声をあげると共に苦楽を共にしてきた家臣達が一斉に「応ッ!」と頼もしい喊声を重ねた。
それと共に疲労の見え隠れする愛馬の腹を蹴り、一気に突撃を始め、それに家臣達が騎乗者も徒歩の者も関係なく一心不乱の吶喊を敢行する。
しかしオルク王国軍も司令部を防衛戦と予備兵力が続々と集結をしており、横合いから猛射が加えられ、バタバタと死体が作られていく。
それでもデモナス軍は戦神のように猛々しく突撃を続け、ついに丘のふもとにさしかかる。
「皆! もう少しだ! ここがオーガ魂の見せ所である!! 全軍吶喊せよ!!」
勝利を確信したルドベキアが血に染まりながらも自分に続く者達を叱咤した時だった。どこからか敵の幕舎の前にスケルトン達が立ちはだかっていたのだ。
「な、なに!?」
そして彼の見ている前で銃火が煌めいた。
◇
「撃て!」
イトスギが叫ぶと共に予備兵力となっていたスケルトン銃兵大隊が発砲し、ばたばたと丘を駆け下りてデモナスの突出部隊と殴り合いを始める。もっとも突撃したスケルトンはオーガを前にすぐに粉砕され、元の白骨死体へと帰って行く。
だがその端から自機を失ったネクロマンサーが輜重隊の馬車によって遠路はるばるコボルテンベルクから運び込まれた白骨死体を受領してスケルトンにするや戦列に帰って行く。
その様はスズメバチから巣を護らんとするミツバチを思わせ、如何に強靭なオーガが骨の津波に呑まれていく様は痛快だった。
「やはり主は見ておられるのだな」
スケルトンを操るネクロマンサーは確かに星神教に反する存在だ。しかしその力は信仰のために尽くされるというのなら別である。それは主の御業を模倣し、主のお心に近づくための修行の一種であるのだから――。
それが教皇庁がこの星字軍遠征の際に出された見解であった。
「つまり異教徒相手にはネクロマンシーは許される訳だ。そのおかげで主を蔑ろにする不信心者を主に代わり罰することができる。やはり主は見ておられるのだ」
胸の前で五芒星を切り、祈りを捧げているとスケルトン銃兵によって稼がれた時間によって他の銃兵隊も展開を終え、最後の悪足掻きを続けるデモナスへ攻撃を開始する。
「今度こそ勝ったな」
鉛の嵐が吹きすさぶ丘を見下ろしていると「待たれよぉ!!」と雷を越えるような叫びが響いた。
それに目を白黒させていると丘下から一人のオーガが姿を現す。豪奢な鎧は泥と血で汚れ、左腕がだらりと力なく垂れていくそのオーガこそ敵将――ルドベキア・オーガロード・フォン・デモナスその人であった。
お前、大将だろ。なんで前線にいるんだよ……。
「我こそはデモナス大公ルドベキア・オーガロード・フォン・デモナス!! 貴軍の将、オークロードに一騎打ちを申し込む!! いざ尋常に勝負!! 勝負!!」
えぇ……。
「ね、ねぇ。どうするの?」
イトスギが困惑するように訪ねてきたが、困惑しているのは俺の方だよ。
「はぁ……。構わん。撃て」
「撃てッ!! 」
「え? いいの?」という顔をされたが、彼女は反射的に命令を復唱してしまう。それに弱小モンスターであるスケルトン達が強靱な肉体を有するオーガを撃ちかける。遠くで「ひ、卑怯――」という声が聞こえた気がしたが、のこのこと前線に出てくるような脳筋には言われたくない。
これだから体育会気質の奴は嫌いなんだ。
「主よ。俺に勝利をくださり、感謝いたします」
そして春の一大会戦は主戦派であるルドベキア様の戦死により終幕へと向かうのであった。
突然ですが、あと一話をもって今章を終わりとさせていただきます。
現在、二章については他作品の兼ね合いから未定となりますが、ぼちぼちと書いていけたらと思います。
最後の一話まで御付き合いの程よろしくお願いいたします。