2章 不安
この中編では異星人であるライアと地球人側の認識の違いという点が注目です。
考えると結構深い意味があると思います。
最近の戦闘アニメでは、こういう繊細でシリアスな作品が少なく感じる。
ストーリー中盤の今回は、ちょっと恥ずかしいけどラストに熱烈ラブシーンもあります。
『レジェンド オブ ライア』 Part2
作者 Yuta Miku
【第二章 不安】
謎の怪物兵器が、国際連邦が設立した実験試作海上都市に現れ、破壊の限りを尽くしたという事件は、瞬く間に世界中に広がり、話題を呼んでいた。
そして海上都市を管理しているアースマリーナでは、この事件を聞きつけて、世界各国から詰めかけた報道人に、てんやわんやの大騒ぎだった。
しかし、事件の鍵を握るだろう少女が、このアースマリーナに保護されている事を知っているのは、本部内でも極一部のものだけだった。
あの騒ぎの後、ライアと名乗った少女を連れ帰った了は、真船博士の所で治療を受けながら、例の一件について一部始終を話して聞かせた。
事の重大さに、長官以下、アースマリーナの主要スタッフ全員を集めた緊急会議が開かれる事になったのは言うまでもない。
特別会議室には、約二十名程のアースマリーナ主要スタッフ、及びアースディフェンサーの桐嶋美夜少佐も出席していた。
最前列の、スクリーンのある真下の席には、例の謎の少女が腰かけていた。
彼女の事を、まったく知らないスタッフが、大半なので、了が予め、彼女について説明をしようと思い語りだした。
「彼女に話をしてもらう前に、聞いてほしい、
実は彼女は、この地球から遠く離れた星から来たのです」
予期せぬ了の突然の言葉に、少女を知らないスタッフ達は、ざわついた。
何事かと顔をしかめる人々も次の言葉に息を飲んだ。
「先日の事件も、彼女とは密接な関係がある。
だからこうして皆さんに集まってもらったんです」
室内の空気が緊迫した。謎の少女ライアは、自分の過去について、そしてこれから地球人類に降り注ごうとしている脅威について語りだしたのだった。
「皆さん、私の名前は、ライア・デ・ミラン・アクエリアス。今、了から説明があった様に、地球人ではありません。私の生まれ故郷は、惑星シリス。あなたがたが地球と呼んでいる、この星に良く似た星でした」
「地球の人達には、信じられない事かもしれませんが、私達が、この地球を訪れたのは、あなたがた地球の人達が、まだ文明を築く以前だと思います」
「それじゃ、君達は地球の先住人類だっていうのかい」
一人のスタッフの問い掛けに、ライアは次の様に答えた。
「いいえ、私達シリス星、マイア国の民は、それから長い間、眠っていたのです」
「眠っていた…。コールドスリープか」
「そうです、私達の移民船である『ガルバ』の中枢コンピューターに異常が生じたため、私達が目覚めたのは、この地球の周期で、僅かここ数年前に過ぎないのです」
「じゃ、君もコールドスリープでずっと眠っていたわけなのかね」
「ええ、そういう事になりますね」
「一体なぜ、そんな事に」
「ガルバの中枢コンピューターが故障したのは、長い航海のための疲労に、地球への大気圏突入の際の、ショックが加わったためだと思います」
「君達は、なんのために、そんな危険を冒してまで、わざわざ地球までやってきたのかね?」
この質問に、ライアは、悲しげに眼を伏せると、しばらくの沈黙の後、再び語りだした。
「その質問に答えるには、私達の母星、『惑星シリス』で起こった悲劇を話さねばなりません」
ライアの話の内容は、次のようなものだった。
彼女達の星、惑星シリスは、地球と同様の美しい星だった。そして彼女達シリス星の民は、その大地に素晴らしく高度な文明を築き上げていたのだった。しかし、発展しすぎた文明は、いつか破滅の時を迎えるものなのか。
彼女の母国『マイア王国』を含む、惑星シリスの七大大国が、ある切っ掛けを元に、一大戦争へなだれこんでしまったのだ。
そしてマイア国最後の切り札ともいうべき、最終兵器、『デストラクション』を作動するに至ってしまったのだ。
最終兵器のデストラクションも、しっかりと段階を踏んで、万全の調整がなされていたならば、ここまでの悲劇は起こらなかったかもしれない。
しかし、この時点では、デストラクションは、まだ未完成の兵器だったのだ。
功を焦った、マイア国の軍部は、まだ完全ではないデストラクションを作動させてしまった。
出力調整が効かなくなり暴走した兵器は、地表を破壊するのみではなく、惑星シリスそのものを滅亡へと追いやってしまったのだった。
自分達の住むべき大地を失った、彼女達は、当時のスペースコロニーとして建造されていた人工衛星ガルバに逃れた。そして、その後改造を行い、巨大な宇宙移民船となつたガルバは、コールドスリープによる長い航海の末、
やっと地球に辿り着いたのだった。
ガルバには、シリス星人が居住可能な大気、水が存在し、かつ高度な知的生命体がいない星を探索する様にプログラムされていた。
しかし、あまりに長い宇宙航海は、彼女達の移民船であるガルバのコンピューターを一部狂わせていたのだ。
地球の大気圏に突入したガルバは、地球の自然環境を破壊しない様にするため、惑星の重力加速度での落下をセーブするための装置、重力バランサーが作動するはずだった。
しかし、長旅のため、疲労したガルバは、この機能を正常に作動できなかった。
『重力バランサー作動不能、コノママ惑星の重力に引かれ落下します。船内冷却装置稼働します』
ガルバの中枢コンピューターは、大気摩擦のため異常高温となった船内を冷却してはいたが、予想外の非常事態のため、コールドスリープしているエリアの一部も損傷を受けた。
『コールドスリープ、第三エリア、第十八エリア、および第二十六エリア、生命維持装置破損…』
異常高温となったガルバ内部では、各種装置が相次いで、破損し、自己修復も追いつかない状態となった。
そして、宇宙船というよりは、隕石そのものとなった、差し渡し五キロメートルものガルバは、そのまま地球の海に落下した。
「なるほど、君の話を、そのまま信じるならば、君達は、この地球に移住したいということなのか?」
ここまで話を聞いた山崎長官が、ライアに向かって問い掛けた。
「ええ、出来る事なら、そうしたいのです」
ライアの、この言葉に、会議室に居たスタッフは、ざわめいたが、そのうち桐嶋少佐が立ち上がり、一同を制して語りだした。
「先日、この海上都市に現れたのは、貴方がたのものでしょう。それと、我々アースディフェンサーの潜水艦も、消滅寸前の通信から考えると、恐らくは貴女方の重機神と呼ばれているものに襲われた可能性が高いの。私達がここへ来たのも、それを考慮しての事。もし地球に移住したいのなら、なぜあんな事をしたの。あれじゃ私達に対してケンカを売っているようなものよ」
「あれは…」
少しの間、言葉に詰まったライアだったが、再び悲しげな表情をすると、瞳を震わせながら語りだした。
「あれは、確かに私達マイア王国のものです。でも、私達マイア国の民が、皆あのような事を望んでいるわけではないのです!」
ライアは、身体を小刻みに震わせながら叫んだ。
「一体どういうことなんだい」
隣の席に座っていた了が、やさしく問い掛けた。
了の方を振り返った後、ライアは、自分の過去、思い出す度につらくなる、その出来事の一部始終について語り始めた。
多数のディスプレイが並んでいる。
ディスプレイの周囲には、複雑な計器類が数多く存在し、紺色の軍服を着た兵士達が、それらの装置から流れ出る情報を解析していた。
ディスプレイには、世界中の主要都市、及びそこに集中している人々の群れが映っていた。
その前に一人の男が立っていた。
比較的、細身の長身の男だ。コバルトブルーの長髪の下にある眼は鋭く、冷酷だ。マイア国の軍隊、機甲部隊の司令官『ゲルバリオス将軍』である。
部下からデータを受け取ると、にやりと不気味な微笑みをその場に残し、彼はその部屋を後にした。
贅沢な部屋だった。壁から柱まで、装飾のための彫刻が施され、床に敷いた絨毯も、おそらく最高級のものだろう。
部屋の中央にあるテーブルには、洋酒の様な飲み物を入れたボトルと、数種類のオードブルらしき食べ物が用意されていた。
テーブルに腰かけているのは、二人だった。
一人はゲルバリオス将軍だが、もう一人は美しい女性だった。
淡いピンクのドレスの中央には、美しい金色の装飾が数多くつけられ、美しい宝冠をかぶっていた。
年齢は、三十五、六といった、とても優しそうな面持ちをした女性だった。
彼女の首には、金色の鎖状の紐の先に、紅色の輝きを持ったペンダントが光っていた。
「ゲルバリオス将軍、私に話とは、一体どんな要件なのですか?」
宝冠をかぶった女性は、正面に座ったゲルバリオス将軍に問い掛けた。
「はっ、本日は、王妃様に、御決断をしていただこうと思い、こうして伺ったわけでございます」
ゲルバリオス将軍は、若干眼を伏せ、丁寧に女性に向かい語った。
彼女は、現時点のマイア国の統治者であり、ライアの母親である『ミリアン王妃』だった。
「決断…?」
「我々、マイア国の民は、住むべき大地を失いました。この広い銀河をどれだけ彷徨ったことか…。そして、今我々は、奇跡的にも、この緑溢れる惑星に辿り着き、目覚めたのでございます」
ゲルバリオス将軍は、王妃と自分のグラスに酒を注ぐと、再び語りだした。
「確かに、この星には、我々と酷似している知的生命体がおりますが、彼らの科学レベルは、我々から見れば低い」
「ゲルバリオス将軍、あなたは一体何を考えているのです。まさか…」
いぶかしげに見詰めるミリアン王妃に、ゲルバリオス将軍は、淡々とした口調で話しを続けた。
「彼らが地球と呼んでいる、この惑星を我々の物にしようという事です」
ミリアン王妃は、青ざめた表情で将軍の顔をしばらく黙って見詰めていたが、やがて眼を伏せて答えた。
「いけません、その様な事。地球人とまた戦争だなんて。あなたは、惑星シリスでの過ちを、また繰り返そうというのですか?」
「なにをおっしゃります。あの時と今では、状況がまったく異なるのですよ。第一、いつまでも、こんな海底に居るわけにはいきませんでしょう。マイクロ化コールドスリープで、国民は眠ったままです。彼らに大地を与えてやりたいとは思わないのですか」
「それは…。でもそれならば、なにも地球人と平和交渉して居住区を提供してもらえば良いのでは…。」
ミリアン王妃の言葉に、ゲルバリオス将軍は、せせら笑いを漏らしながら語った。
「考えが甘いですな。我々の調査によれば、地球人類は、歴史的に見て、非常に好戦的ですぞ。同じ地球人同士で何度も血を流し合っている」
「でも、それは…」
「我々の様な異星人を彼らが、素直に受け入れるとは、到底思えませんな。逆にへたに平和交渉などすれば、我々の存在が知れ渡り、失敗した場合には、逆に攻撃されるとも限りません」
ゲルバリオス将軍は、テーブルから立ち上がり、背を向けると話を続けた。
「我々の兵器は高度ではありますが、軍備から言えば多勢に無勢、まともに戦えば、勝てる保証はありません」
ゲルバリオス将軍の話を、小刻みに震えながら、ミリアン王妃は聞いていたが、もう一つ別の提案をした。
「それでは、もう一度、別の惑星を探したら良いでしょう」
王妃の申し出にゲルバリオス将軍は、高らかに笑った。
「再び、コールドスリープしてですか。これはお笑いだ。この広い銀河系で、この様な環境の星が、そう簡単に見つかるものですか。我々が今、この星に居る事事態が奇跡的な幸運と考えるべきでしょう」
ミリアン王妃の方を振り返った将軍は、薄気味悪い笑みを浮かべると、言葉を続けた。
「途中で、どんな事故が起こるかもしれません。現に陛下、あなたは今、臨時に国王となっているが、夫であるアクエリアス三世を含め、王族の大半は、生命維持装置の故障により亡くなられたのを、忘れたわけではありますまい」
「やめてください、その話は…」
ミリアン王妃は、手で額を押さえ、しばらく眼を伏せていたが、ゲルバリオス将軍の方を振り返ると、震える声で静かに問い掛けた。
「それでは、一体どうしようというのです」
ゲルバリオス将軍は、一瞬ニヤッと笑い、ミリアン王妃の問い掛けに静かに答えた。
「デストラクションを使用します」
「デストラクション…!」
この恐るべき兵器の名を聞いたミリアン王妃は、思わずゲルバリオス将軍の方を振り返った。
「地球人に対して、我々が有利な事は、彼らが、我々の存在を知らないということなのです。すなわち先手必勝ですな」
「でも、デストラクションだけはいけません、それこそシリス星の二の舞です!」
声を震わせて言うミリアン王妃に対し、ゲルバリオス将軍は、ゆっくりと語った。
「女王陛下、確かに、我らが母星、惑星シリスが滅亡したのは、デストラクションの暴走によるものです。ですが同じ過ちを犯す程、我々もバカではありません」
「でも、デストラクション…。あの兵器だけは…」
「地球の地殻、マントルに関するデータは、既に十分すぎる程収集してあります。それを元に綿密な計算を行い、設計しているのです。
陛下には、お話してはおりませんでしたが、ガルバの近くに我々は建造を進めてまいりました。あと少しで完成となる見込みでございます。どうか御決断を」
青ざめた表情になったミリアン王妃は、しばらく沈黙していたが、ゲルバリオス将軍の方を振り返ると、凛とした態度で答えた。
「ダメです。ゲルバリオス将軍、ある意味、危険かもしれませんが、地球人と平和交渉した方が、やはり良いと、私は思います」
ミリアン王妃の、この決断に、一瞬苦虫を嚙み潰した様な表情をするとゲルバリオス将軍は立ちあがった。
「意見が分かれましたな。平和交渉するなら
、こちらからの使者は?」
「私の娘、ライアを差し向けましょう」
ミリアン王妃の、この言葉を聞いた将軍は、ちょっと驚いた様子を見せたが、
「わかりました。今日のところは失礼いたしましょう」と言い残すと、女王の部屋から立ち去った。
ゲルバリオス将軍が立ち去った後も、ミリアン王妃は、その部屋の出口を震える瞳で、しばらくの間、見詰めているのだった。
ゲルバリオス将軍は、もともと王家の出生ではないのだが、王族の妻をめとり、現在の地位を獲得した。
しかし、彼はその地位にも満足せず、機会があれば、自らが、このマイア国を統治したいと考えていた。
王妃の部屋から一歩外にでた、ゲルバリオス将軍は、今一つの決心をしていた。
(ふっ、地球人との平和交渉だと、冗談ではない。こうなれば、かねてよりの計画を実行に移すしかあるまい。今の王家は、あってないようなもの。私がマイア国を統治するのが、最もふさわしいのだ。民間人には、コールドスリープ生命維持装置の故障により王家は全滅したと言えば、取り繕える。いずれにせよ、地上を制圧すれば、だれも文句は言うまい。
クックックッ、さすれば、この星は我が物になる。私が、この星の支配者となるのだ。)
競技場の壁に、鋭い剣と剣のぶつかり合う音が、こだましていた。そして、さらに若々しい少女達の叫びが聞こえる。
ここは、ガルバの中で、剣の練習をするために設けられた施設だ。
今この場所に、二人の剣士が向かい合い、真剣な眼差しで対決していた。
一人は、コバルトブルーのロングヘアーの少女、ミリアン王妃の一人娘であるライア王女。もう一人は同じくコバルトブルーではあるが、ショートカットの髪をした、ゲルバリオス将軍の一人娘であるセシリアだ。
黄金色の甲冑の隙間から見える少女達の白い肌は、激しい運動のため紅潮し、額からは大量の汗がほとばしっているのが見える。
激しい攻防を繰り返した後、片一方の剣が宙に舞い、次の瞬間セシリアが勝ち誇った様に、剣の切っ先をライアに向かって突きつけた。
ライアの額に、一筋の汗が流れた。ライアの剣は、セシリアの後方三メートルばかりの所に落下していた。
勝負はついた。セシリアの勝ちだ。
しかしライアは、幼い時から、常にライバルとして存在してきたセシリアに負けるのが悔しかった。そしてライアは、なんとかセシリアの隙をつき、剣を取り戻そうと走り出した。
そんなライアの行動を見透かしてか、繰り出したセシリアの剣を、ライアはうまくかわすと、一瞬のチャンスを掴んだ。
「たあっ!」
その瞬間、ライアの蹴りによって、セシリアの剣は、彼女の手を離れ、空中高く舞い上がった。
それと同時にライアは、自分の剣めがけて走った。これで互角に戻った。まだ勝負はついていない。
彼女が、そう思った瞬間、突然身体に何かが巻きつき、その反動と痛みで、ライアは、その場に立ち止まった。
「こ、これは…」
ライアの身体に絡んでいたのは、細く、しなやかな黒色の鞭であり、それを操っていたのは、他でもないセシリアだった。
セシリアは、自分の剣を拾わずに、ライアに向けて、腰に付けた伸縮自在の特殊な鞭の一撃を送ったのだ。
鞭を手元に引っ張り、ライアを引きつけたセシリアは、ライアの身体から一旦鞭を離すと、その場で彼女をその鞭で滅多打ちにした。
「キャアァー!」
これには、負けん気の強いライアも、さすがに戦意を失い、セシリアのなすがままに、いたぶられていた。
「キャーハハハハッ!」
鞭の一撃が加わる度に、その場にうずくまった彼女の雪の様に白い肌は、赤く傷つき、その度に、セシリアは狂気の笑いを漏らした。
「待てっ!やめろ!」
突然、競技場に声が響き渡り、セシリアは鞭の手を緩めた。
振り返ったセシリアの目に映ったのは、ライアの伯父にあたるマルセール大臣と、ライア直属の衛兵アンドロイドであるバズーだった。
バズーは、すぐライア王女に駆け寄り、マルセール大臣は、セシリアに歩み寄った。
「セシリア、姫様に向かって、なんて事をするのだ!」
「なんて事って、私は、ただ王女様の剣のレッスンの相手をしただけだわ」
怒りに満ちた表情のマルセール大臣に対し、セシリアは、平然とした顔で答えた。
「しかし、勝負は、とうについていたはず。なにもあそこまで、やる必要はない」
「ふん、諦めの悪い彼女がいけないのよ」
悪態をつくセシリアに腹がたったマルセールは、次の瞬間思わずセシリアの頬を平手で叩いていた。
「あくまで剣と剣の勝負だったはずだ。貴様は、鞭を使用した」
叩かれた頬を押さえると、セシリアは、悔しそうに怒りあらわに叫んだ。
「剣だろうと、鞭だろうと自分の得意な武器を使用して何が悪い。大体、王家の人間は、
そんな事ばかり言っているから、あの戦争で窮地に追い込まれ、デストラクションを使わざる得なくなったのだ」
「こ、小娘が、偉そうな口を…」
そうこうしている内に、バズーに抱き起されたライアが、間に入った。
「待って、マルセール伯父様!」
「ひ、姫様!」
ライアの方を向き直ったマルセールに対し、ライアは、静かに語った。
「セシリアの言うとおり、私の諦めが悪かったの。本当は、もう勝負はついていたのに、私が無理したから…。」
「おお、姫様、なんという寛大な心の持ち主か。」
「ちっ!」
傷だらけになっているライアを誉めるマルセール大臣の態度に、胸くそが悪くなったセシリアは、振り返ると、そのまま競技場から出て行こうとしたが、彼女を呼ぶ声を聞き、その場に立ち止まった。
「待って、セシリア!」
振り返るとライア王女が、ふらつきながら立ち上がり、近づいて来た。
ライアは、セシリアの近くまで来ると、握手を求め、手を差し伸べた。
だがセシリアは、ライアの手を振り払うと、そのまま競技場から出て行った。
「まったく、礼儀を知らんやつだ」
立ち去るセシリアの後ろからマルセール大臣は、怒りに満ちた声を漏らした。
「セシリア…」
一方、そんなセシリアの後ろ姿を見詰めながら、ライアは瞳を震わせながら、彼女の名を呟いていた。
競技場から王宮へ戻ったライア王女を待ち受けていたのは、幼い頃からの彼女の養母であったシルルという老婆だった。
「まあ、姫様こんなに傷だらけにおなりになって、またあの御転婆娘と剣の御稽古ですか
?」
「えっ、うんちょとね。大丈夫よ、こんな傷、すぐに治るから」
舌を出して笑いながら言うライアに向かって、婆やは、渋い顔で語った。
「姫様、剣のレッスンもよろしいですけど、
そろそろ姫様も年頃なんですからね。もう少し、女らしい事をおやりになった方がよろしいかと思いますよ」
「もうシルルったら、そればっかりね。大丈夫よ、私、男なんかに頼るつもりないもの。それに私にはバズーがいるし」
ライアは、そう言って、彼女の後ろに立っている、バズーを振り返った。
「何をおっしゃっているんですか、姫、バズーはアンドロイドなんですよ」
シルルは、とんでもないという顔でライアを見詰めた。
「ふふっ、そうだけど、今のところ私の唯一の頼れるナイトだもの。ねっバズー」
ライアに、そう言われたバズーは、無言ではあるが、彼女に優しく微笑んだ。
「あ、そうそう、姫様、女王陛下が、お呼びですよ。なんでも大切な話があるようで…」
「お母様が!」
ライアの顔が一瞬輝いた。
無理もない、コールドスリープから解放されて以来、夫を地球突入時の事故で失ったライアの母親であるミリアン王妃は、移民船ガルバの復興作業。または、この星に関する調査で忙しく、娘のライアにも、滅多に顔を合わせていなかったからだ。
ミリアン王妃のいる部屋に通じる通路を、ライアとバズーが歩いていた。
王妃の部屋は、王宮の中央付近に位置し、そこへ続く通路は、紅い絨毯が中央に敷かれ、
両脇の壁には、電気仕掛けの燭台が並んでいるという贅沢なものだ。
「バズー、お母様に合うの、久しぶりね」
無邪気な笑顔を見せるライアに、バズーが頷く。
「そうですね、お父上のアクエリアス三世が亡くなられてからですから、もう…」
そう言いながら、バズーは、まずい事をいったかなと思い、ライア王女の方を振り返り、立ち止まった。
バズーが思った通り、ライアは、一瞬眉を寄せ、悲しげな表情を見せたが、自分の事を心配そうに見詰めているバズーに気づくと、すぐ元の明るさを取り戻した。
「いいのよ、バズー、そんなに気にしなくても…。あれは事故だったんだから…。それにいくら悲しんだところで、お父様が生き返るわけでもないし…」
ライアは、バズーの方を振り返ると語った。
「それに私は、このマイア国の王女なんですもの。今は、お母様にみんな任せっぱなしだけど、これからもっとしっかりしなくっちゃ。このガルバにいるマイア国の人達みんなを引っ張っていかなきゃならないんですもの」
ライアの瞳は、若々しい活力に満ち、輝いていた。
ミリアン王妃の部屋の前には、ちょっとしたホールがあり、その入り口には、王家専属の衛兵達がいて、ライアとバズーを迎え入れた。
「これは姫様、ようこそこちらへ、女王陛下が奥でお待ちかねですぞ」
頭を下げる衛兵達の長に、ライアは笑顔を返すとホールに入った。ホールは、吹き抜けの広い部屋で、太い柱が何本も宙に伸びている。
中央に通路として敷かれた深紅の絨毯の先には、奥の王宮へと続く階段があり、その階段の前には、一人の男が立っていた。
五十才ぐらいの小柄な男は、王族の中で、神官を務めているガスクというものである。
「ライア様、お久しぶりでございます。女王陛下は、奥の謁見の間にいらっしゃいます。
先程から姫様の来るのを、お待ちかねでございます」
「そう、ありがとう」
ガスク神官に、軽く会釈したライアは、バズーの方を振り向いて語った。
「バズー、お母様、私と二人っきりで話がしたいそうだから、悪いけど、ここで待っていてくれる」
「かしこまりました、ライア様」
ライアの言葉を受けたバズーは、その場に片膝をつき頭を下げた。
バズーをその場に残すと、ライアは一人で、王室へと続く紅い絨毯の敷かれた階段を一歩一歩登って行った。
階段を登り切り、さらに奥に進んだ所に、その部屋はあった。
ライアは、一呼吸した後、その扉をノックした。
「お母様、ライアです。只今参上いたしました」
「お入りなさい」
優しそうな母、ミリアン王妃の声と共に、ライアの前にある扉が開かれた。
贅沢な装飾に彩られた、応接間の中央部にあるテーブルのソファーに、ミリアン王妃が腰かけ、ライアに向かって微笑んでいた。
「お母様!」
母の姿を確認したライアは、うれしそうに眼を細めると、そばに駆け寄るなり、ミリアン王妃に抱きついた。
「ふふっ、この娘ったら。まったく甘えんぼさんなんだから。そんな事では、この先、つらいことがあっても、一人で乗り切っていけませんよ」
ミリアン王妃は、優しい口調ではあるが、ライアに対し、やや厳しい言葉を贈った。
「だって、お母様と会うの、久しぶりだったんだもの」
立ち上がったライアを、ミリアン王妃はまじまじと、しばらくの間、眺めていた。
ライアは、薄絹の様な淡いピンク色のドレスを身にまとい、コバルトブルーの長くしなやかな髪には、宝石をちりばめた金の髪飾りをつけていた。
だがそんな物よりも、母親のミリアン王妃から受け継いだ、美しい顔立ちと雪の様に白い肌は、見る物を一瞬にして魅了するに違いない。
「しばらく会っていないうちに、ずいぶんと綺麗になったものね」
ミリアン王妃は、艶やかに成長した自分の娘の姿に感心し、眼を細めると、そう呟いた。
「やだ、お母様ったら」
ライアは、母に誉められた事が、嬉しくも気恥ずかしく、思わず赤く色づいた頬を両手で覆った。
そんなライアを眺めながら、ミリアン王妃はニコニコと笑っていた。
「ところで、お母様、私に折り入って話があるって、一体どんな事…」
ソファーに一緒に腰をかけたライアは、ミリアン王妃に向かって問い掛けた。
「実はライア、お前に渡しておきたい物があるのです」
ミリアン王妃は、やや厳しさが伺われる表情になると、そう答えた。
「私に、渡したいもの?」
ミリアン王妃は、小さな箱を取り出し、テーブルに置いた。
そして箱の留め金を外した王妃は、中から紅色に輝く宝石のついたペンダントを取り出した。
紅い宝石は、外からの光を反射するだけでなく、それ自体が淡い紅色の光を放っている。
ライアは、この妖しくも美しい宝石を、しばらく眺めていた。
「きれいねー…。お母様、これを私に…」
「ええ」
そう答えるミリアン王妃に、ライアは一瞬喜びはしたものの、呼び出された理由が、このペンダントを渡すだけだとは、到底思えなかった。
「ねえ、お母様、今日が私の誕生日ってわけでもないし、このペンダント、一体何なの?」
ライアの問い掛けに、ミリアン王妃は真剣な表情で語りだした。
「そのペンダントは、我々マイア国の王家に代々受け継がれてきた大切なものです。国王陛下がそう言っておられるのを、私は何度も聞かされてきました。なんでも、その中には、大いなる力を封じ込めてあるのだそうですよ」
「大いなる力って?」
ライアの質問に、ミリアン王妃は、しばらく沈黙した後、溜息をつくと語った。
「その本当の力については、私も良くは知らされていないのですが、少なくとも、言葉が通じない別の種族の人達とも、それがあれば意思の疎通が自然にできると聞いています。ですから、それを持って行く必要があるのです」
「持って行くって…。お母様、私、どこかへ行かなきゃならないの?」
ミリアン王妃の言葉に、ライアは、ギクリとしながら次の言葉を待っていた。そして、その言葉は、ライアも薄々考えていた答えだった。
「地上へ行くのです、ライア」
「地上…」
二人の間に、短い沈黙が流れたが、ミリアン王妃が話を先に進めた。
「ライア、私達マイアの民は、気の遠くなる程長い時を経て、奇跡的に今、この地球と呼ばれる惑星にいるのです。しかし、ガルバのコンピューターが故障したため、私達がコールドスリープから目覚めた時には、既にこの地球と呼ばれている星には先住人類が進化した後でした。私は、惑星シリスの様な過ちは二度と起こしたくないのです。そのために地球人類となんとか平和交渉したいのです」
「地球人類との平和交渉…」
ライアは、気乗りしない声で呟いた。
「ライア、私達の科学力は、この星の人達とは形態がまったく異なるものです。ですから彼らと交われば、さらにすばらしい未来が開けるのではと、私は思っているのです」
「でも、お母様、うわさでは、この星の人達って、かなり野蛮だとか、好戦的だとか言われてるのよ、素直に平和交渉なんてできるかしら」
ライアの言葉をさえぎるかの様に、ミリアン王妃は強い言葉で語った。
「やらなくてはならないの、ライア。ゲルバリオス将軍は、地球人と戦争をしたがっているわ。この交渉が失敗したら、そうならざるを得ないかもしれないけど…」
二人の間に再び沈黙が流れた。ライアは、自分に課せられた重大な任務に身体が小刻みに震えるのがわかった。
「ライア、いずれあなたは、このマイア国を統治する運命にあるのです。本当は私が行くのが良いのですが、気になる事があるのです」
「気になる事?」
ライアの反問に、ミリアン王妃は、瞳を震わせながら、しばらく口をつぐんでいた。
「ゲルバリオス将軍の事です。夫が亡くなり、私が代理で国王となってから、彼はずっと私に意見してきました。彼は、私に隠してデストラクション建造も進めてきたと話していましたが、他にも何か企んでいる様に思えてならないのです」
「セシリアのお父さんが…」
「私が、地上へ行き、その間に何か事を起こされては、せっかくの努力も水の泡となってしまいます」
ライアは、眼を伏せていたが、諦めた様に、笑顔を見せると、顔を上げて返事をした。
「わかったわ、お母様、私やってみる。マイア国の皆の未来のために」
地球人類と平和交渉をする。この大任に関して、不安は大いにあったが、先程バズーにも、王女としての自覚を持つと言ったばかりだ。ライアは、この大仕事を引き受ける決心をした。
ちょうどそんな時、謁見の間のセンサーが来客を告げた。
「誰?」
ミリアン王妃の問い掛けにも答えず、扉を開けて、ガスク神官が入って来た。
彼は代々続く王家の神官であり、先代の国王の信頼もあったため、王妃も気を許していたが、そのまま断りもなく、中へ入って来たガスク神官に対して、ミリアン王妃は疑問を感じた。
「なんの用ですか、ガスク。今は、ライアと大事な話の最中なのです。勝手に入ってくるとは、あなたらしくもない」
ガスク神官は、そのままミリアン王妃に近寄った。
「実はですね、王妃様」
ガスクは、そう言うなり、隠し持っていた拳銃を取り出すと、王妃に向かって発砲した。
一瞬の出来事だ。
ライアには、目の前で起こった事が、本当に起こった事とは、信じられなかった。
鮮血が王妃の胸から噴き出し、ドレスを見る見る内に真っ赤に染めていく。ミリアン王妃は、薄れゆく意識を必死で保ちつつ、胸を押さえて呟いた。
「ガスク…、なぜ?」
「ミリアン王妃様、私はゲルバリオス将軍の考えに共感を持ったのです。残念ですが王妃、我々マイア国の王家は滅び、これからは将軍の時代が来るのです。」
「ゲルバリオス将軍…」
ガスク神官の言葉を聞いたミリアン王妃は、将軍の名を呟きながら、その場に倒れた。
「お、お母様―!」
その瞬間、ライアは悲鳴を上げていた。
「ライア様!」
銃声と、ライア王女の悲鳴を聞いたバズーは、すぐさま王宮へと続く階段を登り始めた。
その時だ、ホール入り口の扉が轟音と共に爆破された。付近にいた衛兵は、爆風で吹き飛ばされ、即死するものもいた。
そして、その向こうからは、武装した兵隊が入って来た。王家専属の衛兵とは違う。ゲルバリオス将軍配下の機甲部隊の兵士達だ。
突然起こった事態に驚いたバズーだが、今は、ライア王女が心配である。バズーは、ライアのいる王妃の部屋に向かい、一気に階段を駆け上がっていった。
勢いよく扉を開いたバズーの目に映ったのは、胸を鮮血に染めて倒れているミリアン王妃と、ガスク神官に、人質として捕らわれているライア王女の姿だった。
「ライア様!」
「動くな、動けばライア姫の命はないぞ!」
ガスク神官は、ライアの首を左腕で締めあげながら、右手に持った拳銃を彼女の頭に突きつけていた。
「バズー…、うっ…」
ガスク神官の締めつける腕によって、ライアは、苦しそうに呻いた。
バズーは、ライア王女を盾に取られているので、手出しができず、しばらく緊張した時が流れた。
その時だ、部屋の扉を押し開けて、王家の衛兵が転がり込んで来た。その後ろからは、
機甲部隊の兵士が襲いかかる。
だが、その場には、バズーがいた。
彼は、機甲部隊の兵士を掴むと、思い切りぶちのめした。
バズーの強烈なパンチを喰らった兵士は、重厚な装甲服と共に、ガスク神官の脇の壁に叩きつけられた。
「ひいっ!」
もともとゲルバリオス将軍の方へ寝返る程、度胸のない男だ。バズーの力の凄まじさを目の当たりにした時に、一瞬の隙ができた。一時的に緩んだ彼の腕に、ライアは、思い切って噛みついたのだ。
「うっ、痛たっ!この…」
腕から解放されたライアは、ガスク神官のみぞおちに、肘打ちを喰らわせた。
「ぐふっ!」
思わずガスク神官は、みぞおちを押さえた。
この瞬間をバズーが見逃すはずはない。瞬時にガスク神官に近づくとバズーは、正面を見上げたガスク神官の顔面を叩きのめしていた。
「バズー!」
自由になったライアは、バズーの名を呼ぶなり、彼に抱きついた。目の前で起こった悪夢の様な出来事が、よほど恐ろしかったのだろう。彼女の瞳は、涙に濡れそぼっている。
「ライア様…」
そんな彼女をバズーは、優しく抱き寄せた。
「バズー、お母様が!」
ライアは、ガスク神官に撃たれた母親のミリアン王妃のもとへ駆け寄るなり、彼女を抱き起した。
「お母様!しっかりして、お母様」
しかしミリアン王妃は、すでに息絶える寸前であり、ライアに向かって最後の言葉を残すのが精一杯だった。
「ライア…。ゲルバリオス将軍は、デストラクションを使用して、この星の人達を滅ぼすつもりです。でも、私はこの星の人達と戦争などしたくなかった。ライア、お前は地上へ行き、この事実を伝えておくれ。そしてこの星の人達と協力して彼の野望を打ち砕くのです。それ以外に、地球人類と私達マイアの民との平和共存の道はありません…」
「お母様、お母様―!」
腕の中で、グッタリしているミリアン王妃を抱きしめ、ライアは悲痛の叫びを上げていた。
そんなライアの気持ちを踏みにじり、部屋の扉を押し開け、機甲部隊の兵士達が数人、中に入って来た。
バズーの瞳が鋭く光り、ライアを後ろにした彼は、腰につけた長剣を引き抜いた。
「バズー…」
「ライア様、私のそばから離れないで下さい」
機甲部隊の兵士達が、左右から襲いかかって来た。しかしライアの衛兵アンドロイドであるバズーは、そのパワー溢れる剣さばきで、機甲部隊の兵士達を、瞬く間に倒してしまった。
「ライア様、ゲルバリオス将軍の反乱は本格的です。このままここに居るのは、危険と思われる。王妃様のお言葉通り、地上へ向けて脱出いたしましょう」
「地上…」
バズーの言葉に、思わず息を飲んだライアだったが、決意したかの様に、その場に転がっている機甲部隊の剣を震えながら手に取った。
こうして私は、衛兵アンドロイドのバズーと共に、小型潜水艇を奪うと地上へ向かったのです。
ここまで話を聞いていた、山崎長官は、ライアに向かって優しく問い掛けた。
「今まで記憶を失っていたのは?一体、あの海域で何が起こったのかな…」
「ゲルバリオス将軍の追撃隊に襲われたのです。私達は、必死で逃げたのですが、私を守るため、重機神の一体『海神バール』を道連れに、バズーは自爆してしまいました」
ライアはそう言うと、寂しそうに目を伏せ、再び語りだした。
「その後は、皆さんが御存じの様に、了によって私は助け出されたのです。ただ、その時の出来事が、あまりにもショックだったのでしょう。一時的に記憶喪失に陥ってしまい、対処を遅らせてしまいました」
ライアは、申し訳なさそうに語った。
「話は、大体わかったが、ライア君。そのデストラクションという兵器は、一体いかなる物なのだ。本当に惑星一つを消滅に追いやる程の代物なのかね?」
山崎長官の問い掛けにライアは、顔をあげると、真剣な表情で語りだした。
「デストラクションというのは、一種の地殻変動兵器なのです」
「地殻変動兵器?」
聞きなれない兵器の名前に、会場に居た一同は、ざわついた。
「惑星のマントルに刺激を与え、地上の狙った場所に、自在に大地震を発生させる事ができるのです。ですからこれを最大パワーで使用した場合、全地球レベルでの大地震が発生し、現在地上にある、ほとんど全ての建造物が破壊されるばかりでなく、場合によると地殻そのものが崩壊します」
ライアの言葉に、会議室に集まったスタッフは、しばらく声も出せずに、押し黙った。
「で、そのデストラクションという兵器は、いつ頃完成するのだね」
「それは、私にもわかりません。でも、デストラクションが作動する前に、なんとか手を打たない事には…」
山崎長官の問い掛けに、ライアは、瞳を震わせながら答えた。
「敵の位置を確認して、そこに核ミサイルを打ちこむしかないんじゃないかな」
唐突に、一人のスタッフが呟いた。
「デストラクションは、私達の移民船であるガルバの近くにあります。そんな事をしてもし、ガルバが破壊されてしまつたら…。地球の人達と戦おうとしているのは、ゲルバリオス将軍配下の軍部のものだけなのです。マイクロ化してコールドスリープしているマイアの国民に、罪はありません。」
ライアは、自国マイアの民が、巻き添えになる事を恐れ、激しく反論した。
「うーむ、ライア君の言う事は最もだ。それに、それ程深海にある物を破壊するとなると、よほど推進力のあるミサイルでないと不可能だろう。むしろ海中でも推進できる核弾頭付の対戦魚雷の方が良いかもしれん。だが、例え敵の位置が掴めたとしても、事前に感知されれば、デストラクションに到達する前に敵の手によって破壊される恐れがある」
山崎長官の言葉に、ライアは、捕捉して語った。
「それに、おそらくデストラクションの周囲には、二重、三重の防衛システムがあるでしょう。ですから、デストラクションを破壊するためには、その防備システムをくぐり抜けなければ、破壊は不可能です」
「そこまで、辿り着くのが問題だな…」
山崎長官が、そう言った時、了が口をはさんだ。
「ライア、あのロボット兵器なら、なんとかなるんじゃないか。確か、ノヴァとか言ってた」
「ノヴァというのは…」
「先日現れた二体の怪物をやっつけたライアの呼び出した巨人兵器です。実は自分もその巨人を操縦してたんですけど…」
山崎長官の問い掛けに、了は、先日の事を話した。
長官は、驚きながらも、真剣に、ライアに向かって問い掛けた。
「ライア君、そのノヴァという巨大ロボット兵器なのかどうかわからないが?それならば、デストラクションを破壊できる可能性はあるのかね」
山崎長官の言葉に、ライアは、しばらく口をつぐんでいたが、思い直したように正面を向くと答えた。
「あれは、あなたがた地球の人達が考えているような、ロボットなどではありません。ノヴァを含め、海上都市に現れた怪物は、全て重機神というマイア国の特殊兵器なのです」
「重機神?何だね、それは?」
山崎長官の問い掛けに、ライアは、ゆっくりと語りだした。
「私達、マイア国には、古い言い伝えがありました。昔、邪悪な考えを持つ魔導士が、私達のシリス星を支配しようともくろみ、闇の世界から、暗黒の破壊神と、その下僕を呼び寄せたのです。そして彼は破壊神の力を制御するために、重機神という入れ物を造ったのです。しかし、暗黒の破壊神の意思を抑えることが出来ず、やがては自分の意識を乗っ取られてしまい、解放された破壊神によって、シリス星滅亡の危機を迎えてしまいました」
でも、その時、世界を救うために立ち上がった勇敢な戦士達がいました。その中でも、中心になった一組の若い男女の戦士が、天空より光の神であるノヴァを呼び寄せ、暗黒の破壊神シヴァと、その下僕を封印したと、そして、その時の勇者達こそが、わがマイア国の古き祖先と、伝説ではされているのです」
「それじゃ、あれは神様だとでも言うのかい」
若いスタッフの一人が、先日都市に現れた怪物が、神だというライアの話にあきれ、嘲笑したが、ライアの一瞬、鋭く光った視線に見据えられ、次の言葉を飲み込んだ。
「光神ノヴァを含め、重機神の姿そのものが、神というわけではありません。あの巨人は、単なる器であり、それらに神が宿っているということなのです」
「敵のあの怪物も皆、同じ様なものなのか?」
「昨日、この海上都市を襲ったのは、『邪神ハーネット』と『雷神ルフラン』。どちらも暗黒の破壊神であるシヴァの下僕として伝えられていた重機神…。まさか、伝説の重機神が本当にいたなんて、私自身にも信じられない事なのですが…」
「封印を解いたのは、そのゲルバリオス将軍なのだな」
「おそらく…」
山崎長官の問い掛けに、ライアは頷くと、再び語り出した。
「シリス星の戦争の時、伝説の重機神を復活させる事が、検討され、暗黒の破壊神とその下僕が封印されたとする遺物が収集されたのです。そして軍部では、封印を解く事が研究されたのです。でも結局、それは不可能のまま、戦争は終わりました。今になって思えば、
ゲルバリオス将軍は、その後、重機神を復活させる方法を見出していたに違いありません。そして私を含め、王家を滅ぼす機会を伺っていたのでしょう」
ライアは、そう言うと、しばらく下を向き、押し黙ったが、再び語り出した。
「確かに光神ノヴァは、我がマイア国の伝説の救世主。お母様からもらった、このペンダントが、ノヴァを異空間から呼び出すための装置だったなんて…。確かに了の言うとおり、ノヴァの力ならデストラクションを破壊できるかもしれない…」
しばらく静まりかえった一同だったが、その沈黙をライアが再び破った。
「でも、デストラクションの防備は未知数です。ノヴァにしても、その力が絶対というわけではないでしょう。味方はなるべく多い方が…」
「うーむ…」
ライアの言葉に頷いた山崎長官は、正面を振り返り語った。
「諸君、聞いての通りだ。この事態は、我々アースマリーナの手には追い切れない。私はすぐにユニフアース本部に、この事を報告し、
すぐにもデストラクション破壊のための方策を練ってもらう。君達は、くれぐれも、この事態を外部に漏らさない様にしてくれ。こんな事が知れ渡ったら、世界中がパニックになるのは、目に見えているからな。」
会議室に集まったアースマリーナのスタッフは、半信半疑ながらも、迫り来る脅威に、息を飲みながら押し黙っていた。
ライアは、手すりにもたれ、海上都市の彼方に見える海を、一人で見詰めていた。
ここは、メインタワーの最上階のさらに上にある屋上だ。見晴らしはもちろん良いが、風が強く、彼女のコバルトブルーの長髪が、風にあおられなびいていた。
「お母様、バズー…。」
記憶を取り戻したライアは、一人感傷に浸り、目を伏せていた。
そんな彼女の肩に、背後から突然手がかかった。
「キャッ!」
ふいに肩に触れた手に、びっくりしたライアは、思わず振り返った。
「何してんだ、こんなところで?」
「了…。」
ライアの肩に手をかけたのは、他でもない了だった。了は、そのままライアの隣に行くと手すりに手をかけた。
「考えてたの…」
「考えてた…?」
ライアの言葉に真剣な眼差しで、了は相槌を打った。
「ゲルバリオス将軍が、移民船ガルバを支配している限り、私には帰る場所がない。お母様に言われた様に、地球の人達に事実を知らせたけれど…。」
しばらく無言で海を見詰めていたライアは、了の方を振り返った。心なしか、彼女の瞳は震えている。
「ねえ了、地球の人達から見たら、私達、異星人って事になるわよね。さっきの人が言ってたみたいに、地球の人達は、ガルバの中にいる私の国の人達がどうなってもいいと思ってるのかしら…。」
再び、海を見やるライアは、呟く様に小声で語った。
「ゲルバリオス将軍のやろうとしている事は、
なんとか阻止したい。でも私、地球の人達を簡単に信用しすぎたのかもしれない」
「ライア…。」
「ゲルバリオス将軍も、地球の人達も、皆自分勝手、人間なんて皆、自分だけ良ければって考えるのかもね。フフッ、私だってそう。私も、自分の復讐のために、地球の人達の力を利用しようとしてるだけなのかもしれないもの」
ライアが、そう言った瞬間、了はライアの手首を握った。思わず振り返ったライアの瞳には、了の真剣な眼差しが映った。
「よせよ、そんな考え方は」
了は、少し怒った様に眉を寄せ、ライアに語った。
「君は、お母さんに言われた様に、地球人類との平和共存への橋渡しを、ちゃんとやろうとしているじゃないか。けっして復讐のためなんかじゃない」
「了…」
自分を見詰める頼りなげなライアの顔を見た了は、ちょっとためらい、表情を和らげた。
「それに、もっと俺達地球人を信じて欲しいな。さっきの事だって、別に悪気があって言ったわけじゃない。ただ考えが浅かっただけの事さ。」
「でも…」
「俺の言う事が、信じられないのかい」
了は、優しい口調で問い掛けると共に、真剣な眼差しをライアに送った。
思わず赤面して、ライアは、後ろを振り返った。
「了の言う事を信じないわけじゃない…。むしろ、了の言う事を私も信じたい…」
ライアは、肩を震わせていた。風が、彼女のコバルトブルーの長髪をなびかせた。
ライアは振り向くと同時に、了にすがり寄った。
「了、本当は私、怖いの!。ゲルバリオス将軍もそうだけど、それ以上にマイア国の皆が、
地球の人達の手で滅ぼされるんじゃないかって…」
地上にいるマイア国の民は、ライア一人だ。
記憶は戻ったが、彼女はまた別の孤独感。そして改めて意識する地球人に対する不信感といったものに苛まれ、心が激しく動揺していた。
ただ彼女には、ノヴァの操縦パートナーである了がいた。了は、地球人ではあるが、現時点でライアが唯一、心を開いて話せる相手だった。
「ライア…」
了は、震えながら抱きついている彼女の肩をそっと抱き締めた。
数多くの計器類が立ち並び、多くの兵士が、忙しそうにコンソールパネルを操作している。
部屋の中には、数多くのテレビモニターがあり、そこには、今建造中のデストラクションの各セクションが映し出されていた。
ここは、ガルバの中心にある中央管制タワーのメインブリッジであり、それは王家の宮殿の真上に存在していた。
このメインブリッジの入り口扉が、開くと同時に、デストラクション建造責任者であるマーグ大佐は、すぐ飛んできた。
「デストラクションの建造進行状況は、どうなっておる」
「はっ」
入ってくる早々、デストラクションの様子を聞くゲルバリオス将軍に対し、マーグ大佐は、やや緊張しながら、手近の部下に指示を出した。
するとすぐに中央の大画面には、デストラクション全体の設計図がカラーグラフィックで表示された。完成している部分は白、未完成の部分は赤で表示されている。
「ふむ、約八十パーセント完成か…。だが安心はしておれん」
「と申しますと」
マーグ大佐は、眉を寄せると、ゲルバリオス将軍の次の言葉を待った。
「マーグ大佐、転送されたセシリアの記憶データから、ノヴァが確認されたのだ」
「ええっ、なんと、あの伝説の重機神、『光神ノヴァ』が…」
将軍の言葉に、マーグ大佐は驚いた。
「ノヴァの封印は、王妃の持つペンダントだということまでは、わかっていたのだが…」
「すると、あのライア王女が…」
「おそらくは、そうだろう。小娘一人と思っていると、命取りになりかねん。いずれにせよ、地球人類に我々の存在は、明らかになったと考えるべきであろう」
しばらくの間、沈黙が流れた。
「マーグ大佐、我々の存在が知られ、ライア王女が地球人類に協力したとなると、事は深刻だ。とにかく、やつらが来る前に、デストラクションを完成せねばなるまい」
「はっ、全力をあげて作業にあたります」
言うが早いか、マーグ大佐は、現場の指揮をするため、自分の持ち場に戻って行った。
「ライア王女、地球人ども、このデストラクションさえ完成すれば、こちらのもの…。目に物見せてくれるわ…。クックックッ…。」
ゲルバリオス将軍は、正面のモニターに映し出されたデストラクションを見詰め、不気味な微笑みを浮かべると、メインブリッジを後にした。
ライアが、自分の過去をアースマリーナのスタッフの前で語ってから、既に六日が経っていた。山崎長官は、この一件をユニフアース緊急特別会議の席で発表し、ユニフアース本部は、パニック状態となっていた。
しかしながら、具体的な方策は見つからず、時間だけが経って行った。こうしている間にも、デストラクションが起動し、世界を破滅に追いやるかもしれない。
そして最終的に得られた結論は、ノヴァと共に戦闘潜水艦部隊をデストラクション破壊に向けると同時に、それが失敗した時のために、対デストラクションのために開発を進めている超強力な水中核ミサイル『ネメシス』
を建造する事であった。
対デストラクション用の兵器、戦略熱核弾頭『ネメシス』の威力は絶大だった。
通常の核ミサイルに比べ、推進力がはるかに高く、海中でも高速で推進する。また破壊力は水素爆弾十個分に匹敵する絶大な破壊力を有しており、その上さらに電磁バリアーにより未然に破壊されるのを防ぐ機能もついていた。
しかし、ネメシスの使用は、最後の手段だった。なにしろ、水素爆弾の十倍程も破壊力があるのだ。これならデストラクションに直撃しないまでも、その機能に損傷を与え、発射を阻止することは可能だろう。さらに、敵の本拠地である移民船ガルバも多大な被害を被るに違いない。その後、別の攻撃部隊を送れば、壊滅的な打撃を受けている敵は、ひとたまりもないだろう。
だが、それでは罪もないガルバ内の一般市民が巻き添えとなってしまう。
大気圏突入にも耐える強固な外郭を持つガルバではあるものの、付近で発生した、この核爆発にどこまで耐えられるかは疑問である。
さらに、これ程の核兵器を使用すれば、その放射能汚染も大変なもので、付近一帯のかなりの広範囲が、長期間死の海と化すのは避けられないだろう。これはアースマリーナの主義に反する。
すなわち、ネメシスの使用は、ライアにとっても、地球人にとっても、たとえ、デストラクションの破壊に成功しても、多大な犠牲を伴わねばならないのだった。
この件に関して、ユニフアース国際連邦の決定に対し、アースマリーナの山崎長官は、激しく反対したが、ノヴァと戦闘潜水艦隊によるデストラクション破壊作戦だけでは、万が一の時、手遅れとなるため、やむを得ない事であるというのが、ユニフアースの結論だった。
アースマリーナの長官室のモニターに、ルークミラーの顔が映し出されていた。
「山崎長官、一つ頼みがあるのだが…」
「なんだね、ルーク総司令…」
ユニフアースのルークミラー中将は、今回のデストラクション破壊作戦の総司令官に任命されていた。
「実は、ノヴァに発信機を取り付けてほしいのだ」
「ノヴァに発信機を…?」
「なにしろ、デストラクションがまともに活動を開始すれば、世界の破滅だ。ノヴァがデストラクションを破壊出来るという保証はどこにもない。だからノヴァがもし敵の手に落ちる様な事があれば、ライア王女には申し訳ないが、容赦なくネメシスをデストラクションの位置に叩きこむ。一応全ての潜水艦にも、こちらの発信機を取り付けるが、なにしろ敵の戦力は未知数だ。こちらの潜水艦隊は、デストラクションに到達できるかどうかもわからない。」
「うーむ、もし、ノヴァを含む艦隊がデストラクションを破壊出来れば良いが、発信が全て消えた場合は、デストラクションの位置へネメシスを即座に、発射するというわけか…」
山崎長官は、額に油汗を流しながら唸った。
だが実際そうなったら、他に手の打ち様がないのも事実だ。
「まあ、そうならない事を私も祈ろう」
そのまま通信を切ろうとしたルークを山崎長官が止めた。
「ルーク、ネメシスの完成は、いつ頃なのだ」
「三日後、そちらの作戦開始時には、いつでも発射できる態勢を整えておく。心配無用だ」
「そうか…」
山崎長官は、出来ればネメシスを使って欲しくないという思いから、力ない返事をした。
「では、発信機の件、宜しく頼む」
ルーク総司令は、そう言うと、通信モニターから消えた。山崎長官は、映像の途絶えたモニターに、しばし惹かれた様に見入っていたが、額に手を当て溜息をついた
「了とライア王女、今は、あの二人に全てをかけるしかない。」
山崎長官は、そう呟くと、窓から見える遠くの海を見詰めるのであった。
それから十日後、明日はいよいよ敵の所へ決戦を挑もうという前夜だ。アースマリーナのある海上都市には、ユニフアースの最新鋭の戦闘潜水艦が集まっていた。
この晩、了、ライア、了の妹の真美、そして桐嶋少佐の四人は、山崎長官にディナーへ招待されていた。なにしろ、了とライアは、明日出撃したら、もう戻ってこられないかもしれないからだ。
ライアは、ともかく了が、なぜ出撃せねばならないか疑問に思うかもしれないが、覚醒したノヴァに最初に乗った人間が、ノヴァに登録され、そのままでは他の人を受け付けないという事、またライアのサイコパワーを十分に引き出すためには、彼女と息がぴったり合っていないといけないという理由からであった。
もちろん二人が生きて帰ってこないなどという事は、だれも考えたくはなかった。だが、対デストラクション用に準備されている戦略熱核弾頭ネメシスの事も、二人は知らない。
それを知れば、ライア王女が動揺するのは、目に見えているため、山崎長官は、アースマリーナ内部にも、この事実を伏せていたからだ。
一方、山崎長官は、先日の戦いで傷ついたノヴァを、修理できるならという理由で、ライアを説得し、数日前にノヴァを呼び出した。
しかしながらノヴァは、既に完全に自己修復されており、問題はないことがわかった。
だがルークから頼まれた例の発信機を取り付けるため、決戦前夜に、再びライアに呼び出させていたのだ。ただライアには、発信機の事はふせてあり、アースマリーナ本部と通信するための端末を取り付けるという事で、話をしていた。
彼女と了を食事に誘いだしたのも、発信機の取り付けを二人に気づかれたくないという事もあったに違いない。
海上都市で最高のレストランに、四人を招待した彼は、手短に挨拶をすませると、四人に食事を進めた。
「わーい、おいしそう。真美、ここで食事するの夢だったんだ」
兄と明日、今生の別れになるやもしれないというのに、真美だけはあいかわらずキャピキャピだ。
「こら、あんまりはしゃぐんじゃない。他のお客さんもいるんだから、恥ずかしいだろ」
「だってー、あ、そーいうお兄ちゃんだって、フォークとナイフの持ち方が反対だよ」
「あら…」
真美に言われて気づいた了は、あわててフォークとナイフを持ちかえた。明日の事で気が動転していたのかもしれない。
そんな了を見て、ライアも緊張がほぐれ、笑顔を見せた。
そんな時だ、金髪の軍服を着た三人の男性が、山崎長官に気づき、近寄って来た。
「おお、ここにいらっしゃるのは、アースマリーナ長官のミスター山崎ではないですか」
「おお、レイモンド司令」
声をかけられた山崎長官は、立ち上がり、挨拶をかわした。
長官に声をかけて来たのは、今回の約三十隻に及ぶ戦闘潜水艦の艦隊司令官である『レイモンド司令官』だった。
「こちらが、ひょっとして、例の娘さんですか?」
レイモンド司令官は、純白のイブニングドレスを着た、コバルトブルーの髪をした美しい少女を見やった。
「はじめまして、ライアと申します」
「ほう、山崎長官の持ってきた資料の写真以上に、実物は美しい方ですね」
レイモンド司令官は、まじまじとライアを見詰め、そう語った。
「こんな美人がたくさんいるなら、なんとしても我々の手でデストラクションを破壊して、平和解決したいものですなあ。できればネメシスの発射は避けたいですね」
このセリフを聞いた瞬間、ライアの眉がピクッと動いた。
「ネメシス…って、なんの事です」
急に緊張した表情になったライアに、レイモンド司令官は、ネメシスの事に関して、口を滑らせてしまった事に後悔したが、もう遅かった。居合わせた若い別の隊員が、その内容を語ってしまったのだ。
「え、知らなかったんですか、対デストラクション用に、建造された『戦略熱核弾頭ネメシス』の事ですよ。もの凄い破壊力があるから、デストラクションに直撃しなくてもその機能を停止するくらいは、出来るんじゃないかと思うんですよね」
「戦略熱核弾頭ネメシス…」
ライアの顔が青ざめた。
脇に居た山崎長官は、レイモンド司令官の腕を引っ張ると、その場から離れた。
「戦略熱核弾頭…」
再び呟いたライアは、ふらふらっと席を離れた。
ライアの様子がおかしい事に気づいた了も、席から立ち上がり、ライヤの方へ近づこうとした。
「イヤー!」
「ライア!」
突然叫んだライアは、レストランの出口に向かって駆けだした。了があわててその後を追う。
「了!」
続いて桐嶋少佐が、了の名を叫んで立ち上がった。
了は、一瞬立ち止まり、振り返ると、そこには、悲しげな瞳を向けた一人の女性としての桐嶋美夜が立っていた。
しかし、今はライアが心配だ。了はすぐに正面を向くと、ライアの後を追いかけ始めた。
レストランから出て行った了を確認した桐嶋少佐は、冷静さを取り戻すと、またテーブルに腰を下ろした。
その横顔は、言いようのない程、寂しげだった。そんな彼女の様子を見ていた真美は、心の中で呟いた。
(美夜さん、ひょっとして、お兄ちゃんの事…)
そう思って振り返った真美の目には、まだたくさん残っている高級料理が映った。
「まっいいか。どーせ死ぬ時は、皆死ぬもんね。生きてる内に楽しまなくっちゃ」
そー言うと真美は、テーブルの上の料理を、一人で食べだした。
一方、そんな真美を見て、桐嶋少佐も、微笑みを取り戻した。
レストランから外に出たライアは、エレベーターに乗ると、一階のボタンを押した。
しまるエレベーターの扉ごしに了の姿が見えたが、ライアは、そのまま後ろを向いてしまった。
了が、辿り着いた時は、既に遅く、エレベーターは、下に向けて移動を開始し始めた。
「チッ」
唇を噛みしめた了は、すぐ隣のエレベーターに飛び乗ると、一階のボタンを押した。他の階で降りたとしても、建物の外に出るには、一階のホールを通らなければならない。幸い一階のホールは見通しが良いから、降りてくればすぐわかるだろう。
了は、苛立つ心を抑えながら、エレベーターのランプを見詰めていた。
一階に着いたライアは、ホールを抜けると、外に向かって駆けだした。ライアは、自分で今の自分の行動が、良くわからなかった。
ただあの場所にそのまま居る気にはなれなかった。一人になりたいと瞬間的に思い、身体が勝手に行動してしまったのだ。
「待ってくれ、ライア!」
自分を呼ぶ声に、はっとして立ち止まり、後ろを振り返ったライアの瞳に、エレベーターから駆けだして来た了の姿が映った。
「了…」
一言そう呟いたライアだったが、振り返ると同時に外に駆けだした。了は無言で彼女を追っていく。
ライアにとって、別にどこへ行くという当てがあるわけではない。どちらに行こうかと迷い、一瞬立ち止まるとキョロキョロと周囲を見回した。
だが背後から迫る了の事を思い出し、すぐ真正面にある庭園に向かった。
設置された外灯と月明かりによって、庭園の中は、夜の割には明るかった。
了は、あいかわらず追って来る。庭園を横切ると、小さな林があり、ライアは、その中に入って行った。
だが、いくらか入った所で、ライアは木の根に足を取られて転倒してしまった。
「キャッ!」
もともと、イブニングドレスを着ていたので、こんな場所で走る事自体が無理なのだ。
膝から血がにじんでいた。
「大丈夫か、ライア!」
そばに駆け寄った了は、心配そうに彼女に問い掛けた。
「了…」
二人とも、今の追い駆けっこで息が荒い。
「こりゃ、傷口をまず消毒した方がいいな」
了は、その場に膝まづくと、ライアの怪我を見て、そう言ったが、ライアは、答えずにそっぽを向いた。
そんな彼女に、了は声をかけづらかったが、ここはなんとしてもライアを説得する必要がある。
「ライア…。すまない。核ミサイルでの攻撃計画があったなんて、俺もまったく知らなかった」
ライアは、あいかわらずそっぽを向いている。
「でも、レイモンド司令官も言ってたじゃないか、ネメシスの発射はしたくない。平和解決したいって」
ライアの肩は、小刻みに震えていた。
「でも、私達が失敗したら、それが発射されるのね。そうしたら、おそらく私の仲間、マイクロ化して眠ってるマイアの民は全滅する。そうでしょ了…」
振り返ったライアの瞳は、涙で溢れていた。
「そ、それは…」
了は、一瞬言葉に詰まった。
「ごめんなさい、地球の人達から見れば、私達の方から、喧嘩を売ったのだもの、それくらいの事は、自己防衛として、当然考えるわよね」
「ライア…」
「でも、それでも私にとっては、耐えがたい事実だった。出来る事なら、その兵器をノヴァの力で破壊してやりたいくらい…」
二人の間に沈黙が流れた。
「私達の星、シリスも、この地球と同じくらい、いえ地球よりも綺麗な星だったわ。どこまでも続く澄み切った空、緑の大地、美しい海。自然との調和を保ちながら、文明が発達した、平和な星だった。あの戦争さえ起こらなければ…」
ライアは、自分の故郷であるシリス星、そして数多くのマイア国の同胞の事を思い出していた。
「もしも、私達の移民船、ガルバが破壊されてしまったら、私は、この星で、一人になってしまうのよ。そうなったら私、もう生きていけない…」
そう言って、悲しそうに頭を下げたライアの肩に手をかけると、了は優しく語りかけた。
「一人では生きていけないなんて、そんなに弱気になるなよ。君は王女様なんだろ。もっと強くならなくちゃ。そんな事じゃ、明日の決戦に勝てないぜ」
「了…」
二人の目が合った。
「もし、最悪の場合でも、俺は、君に生き残って欲しい。」
自分を見詰めるライアに対し、了は照れくさそうに話始めた。
「最初、君が本当に地球人じゃないって知った時は驚いたよ。真船博士は、地球人じゃないって言ってたけど、君は、そのペンダントのおかげで言葉だって普通に通じるし、俺には、とても信じられなかった。でも、今はもう、君が地球人かどうかなんて事は、まったく関係ないんだ…」
了は、そう言うと、ライアの肩をそっと抱き寄せ、彼女の耳元で、ささやく様に語った。
「愛してるんだライア、君の事を…」
「了…」
了に抱かれたライアの目が大きく見開かれ、その瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。そして次の瞬間、ライアは了の胸にすがって、思い切り泣いていた。
月明かりが二人を照らしていた。
明日、地球人類の命運を賭けた戦いが始まるなどとは、到底思えない程、静かな夜だった。
あの後、了は、ライアを林から連れ出すと、庭園の噴水の水で彼女の足の傷を洗い、持っていたハンカチを裂いて応急処置をした。
そして庭園のベンチにライアを座らせると、彼女の気持ちが落ち着くのを待つ事にした。
「いよいよ、明日なのね」
「ああ、君の星の人達を無事救うためにも、デストラクションを、絶対破壊しなければ」
しばらくの沈黙の後、ライアは、了に向かって呟いた。
「ねえ、了…。今夜、私の事…愛してくれない」
「えっ…」
突然の言葉に、了は驚き、自分の耳を疑った。
「明日、出撃したら、もう戻って来られないかもしれない。ノヴァが強力なのはわかるけど、相手はあのゲルバリオス将軍だもの…」
「ライア…」
「もちろん全力で戦うわ。もうそれしか残された道はないし、でも…、それでも不安には違いない…」
ライアは、瞳を震わせながら、真剣な眼差しを了に向けた。
「だから…、その不安を拭い去る意味でも、今夜…」
ライアは、そう言うと、真っ赤になってうつむいた。
薄暗い部屋の明かりに照らされ、ライアが立っていた。ここは海上都市にあるホテルの一室だ。
純白のイブニングドレスが、照明で琥珀色に見える。ホテルの窓から海上都市を眺めている彼女の背後から、了は優しく肩を抱き寄せた。
「愛してるよ…ライア…」
「了…」
振り返ったライアは、静かに目を閉じた。
了は、ゆっくりと顔を近づけると、優しく唇を重ねた。
ライアは、了の背中に手をまわし、了は彼女を強く抱き締めた。
二人には、時が止まったかの様に感じられる時間が過ぎ、唇が離れるとライアは、小声で呟いた。
「しばらくの間、後ろを向いていて…」
ライアにそう言われた了は、素直に後ろを向き、上着を脱ぎ捨てた。
「もう、いいわ…」
振り返った了の前に、一糸まとわぬコバルトブルーの髪をした可憐な少女が立っていた。彼女の雪の様に白い肌は、部屋の照明で琥珀色にそまっているが、瞳を閉じてうつむいている彼女の横顔は、好きになった男性に、自分の全てを見せているという、恥ずかしさと、嬉しさの入り混じった感情で、桜色に色付いているのがわかった。
「綺麗だよ、ライア…」
「了…」
了は、目を細めて、そうささやくと、彼女をそっと抱き寄せ、ベッドの方へ倒れこんだ。
熱い、頭の芯が燃え尽きそうだ。そうライアには感じられた。
男性に恋をし、身をまかせるなどという事は、つい先日、記憶を失う前には、考えもしていなかっただけに、ライアには、今の自分の行動が信じられなかった。
明日は、いよいよ母親の仇、ゲルバリオス将軍との決戦の日。勝てないかもしれない。ひょっとしたら二人とも生きて戻れないかもしれない。でも今、了は目の前にいる。そして、こうして自分をしっかりと抱き締めていてくれる。そう思うと、ライアの胸の内には、熱い物が込み上げて来るのだった。
了の愛撫に身悶えして、ライアは熱い吐息を漏らした。
「ライア…」
「了…」
二人は、互いに見詰め合い、瞳を震わせながら、お互いを呼び合った。
もう何も考えられない。二人は今、身も心も一つに融け合ったのだ。激しく、熱いものが、彼女の中を突き抜け、そして彼女の頭の中は、真っ白になっていった。
次回は、いよいよ最終決戦から感動のラストシーンまでです。




