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短編

無気力吸血鬼と俺が〇〇である件について

作者: 小鳥遊 悠治

 高校の帰り道。俺はそいつと出会ってしまった。

「おっ、ちょうどいいところに良さそうなのがいたー」

「えっ? 俺のこと?」

 電柱のそばに立っている美少女の白い髪は腰のあたりまであり、半開きになっているあかひとみは血に近い色をしており、うちの学校の制服を着ている。

「俺になんか用か? 道に迷ったのなら交番に行った方がいいぞ」

「えっとねー、私、明日から君の学校に行くんだけど学校までの道が分かんなくてさー」

「なるほど。つまり、俺に学校までの道を教えてほしいということだな」

「そうそう」

「そうか、なら話は早い。さっそく案内す……」

 その時、俺は人生で初めて壁ドンされた。

「えっ? ちょっと……これはいったい?」

「おっ、これは当たりかな? いやあ、なんかさー、さっきから君からおいしそうなにおいがするんだよねー」

「は、腹が減っているのなら、うちでなんか作るぞ? 何が食べたい?」

「……うーんとねー、今すぐ君を食べたいなー」

「す、膵臓すいぞうを食べたいのか?」

「それは映画になったやつだねー。でも、私が食べたいのはそれじゃないよー」

「じゃ、じゃあ、いったい何を……」

「私はねー、君の血を吸いたいんだよー」

「……俺の血を……吸いたい?」

「そうそう」

 えーっと、こいつは何を言ってるんだ? 俺の血をいますぐ吸いたい? た、たしかに、俺はO型だから誰に献血しても……って、そういう問題じゃない!

 人間が他人の血を欲するだと? 冗談じゃない! それじゃまるで……。

「吸血鬼みたいじゃないか? そう言いたいんでしょー?」

 こ、こいつ、俺の考えていることを見抜きやがった! こいつは明らかに只者ただものじゃない! というか、人じゃない! こんな化け物が日本にいるなんて聞いてないぞ!

「そりゃ、私たちは人間に正体を知られないようにひっそり暮らしてるからねー。知らないのは当然だよー」

「なら、なんでお前は俺の目の前に現れたんだ? そのままひっそりと暮らしていれば良かったじゃないか」

「ひどいなー。私たちだって血を吸う以外は普通の人間と変わらないのにー」

「それでも、お前たちは化け物だ。人を簡単に殺せる力を持ってる。た、たしか、この世界の吸血鬼は十字架、にんにく、日光には耐性があるらしいな」

まあ、ネットでチラッと見た情報だけど。

「だったら、どうするのー?」

「そ、そんなの決まってるだろ。俺はお前を捕まえて椅子いすしばり付けてお前の弱点が何なのかを絶対に突き止めてやる!」

 その直後、そいつはもう片方の手で壁に少しヒビが入るくらい力を込めてなぐった。

「えーっとー、残念だけど私たちに弱点はないよー。というか、君は自分の立場をわきまえた方がいいと思うよー」

「こ、こんなことをしても俺はお前の言いなりにはならないぞ!」

「じゃあ、私の初めてを君にあげると言ったら?」

「……え? そ、それでもだ!」

「あっ、今、迷ったね? 本当は私としたいんでしょー」

「う、うるさい! 男なんだから仕方ないだろ!」

「そっか、そっか。でも、私、そういうの嫌いじゃないよー」

「な、何がだよ」

「童貞の君には分からないよ」

「そ、そんなことは関係ないだろ!」

「……ふふふ、でもそろそろ限界だなー」

「な、何がだ?」

「えっとね、もうそろそろ吸血衝動を抑えられそうにないってことだよー」

「う、嘘だろ? こんなところで俺はお前に血を吸われるのか? 冗談じゃない! 俺は帰るぞ!」

「帰れると思う? 君と私は種族が違うから、やめといた方がいいと思うよー?」

「それでも俺は……!」

「俺は?」

「今日発売の新作ゲームを買いに行くんだ! 邪魔するな!」

 その時、彼女は急に笑い出した。腹を抱えて涙を目尻に貯めている。

「な、なんだよ! 何がおかしいんだよ!」

「ふふふふ……いやー、これから血を吸われる人間の言うセリフじゃなかったから、つい」

「わ、悪いかよ」

「ううん、何かの目標に全力で突き進むやつは好きだよ」

「そ、そうか、ならいいんだが」

「そんな君に敬意を評して今回は見逃してあげるよー」

「えっ? 吸血衝動は?」

「え? あー、あれ嘘」

「え? じゃあ、道が分からないってのは?」

「それも嘘だよー」

「なんだよ。じゃあ、今までのやりとりはなんだったんだよ」

「単なる好奇心だよー」

「そうか、じゃあまた明日な」

「うん、またねー」

 こうして、俺は無事に新作ゲームを買うことができたのであった。


 *


 次の日の朝、俺は普通に学校に登校し、一番左の席の一番後ろに座って、のんびりと空を眺めていた。

 予鈴が鳴りクラスのやつらが自分の席に着く。その後、声優の能〇麻美子さんみたいな声を出す眼鏡をかけた担任の先生が教室にやってくる。彼女は数歩歩いたのち、黒い出席簿を教卓に置きながら、こう言った。

「今日は転校生を紹介します! どうぞー、入ってきてください」

 こんな時期に転校生? もう少しで夏休みになるぞ? うーん、まあ、いいや。俺はそんなことを考えながら頬杖ほおづえをつきながら窓の外を眺めていた。クラスメイトの声が教室にごちゃごちゃとした音になって響き渡る。黒板にチョークで名前を書く音が聞こえる。『名前とは人が他者を個別に呼び合う時に使う記号のようなものだ』。たしか小説の『カ○ロウデイズ』にそんなことが書かれてたような気がする。まあ、それはいいとして。名前を書き終わった音がするのと同時に、俺は転校生の方を向いた。この後、俺は後悔することになる。あの時、あいつと目が合わなければ、あんなことにはならなかったのに……。

「どうもー、ライア・ブラッドドレインです。みんなよろしくー」

 白い髪は腰のあたりまでありあかひとみは半開きでうちの学校の制服を着ているその美少女は間違いなく昨日出会った『吸血鬼』だった。


「な、なんでお前がここにいるんだよー!」


 *


「うわああああああああああああああああああ!!」


 気がつくと俺は自室のベッドの上にいた。あ、あれ? 俺、学校にいたはずだよな? その直後、俺は何かの気配を感じた。なんだ? この異様な気配は! 俺が天井を見るとそこには。

「なぜ、お前がここにいる! ライア・ブラッドドレイン!!」

「あちゃー、バレちゃったかー」

 コウモリのように逆さになって天井に立っている美少女がいた。そいつは先ほど俺のクラスにやってきた転校生だった。

「おい! どういうことだ! 俺は学校にいたはずだろ! それに、お前はいったい何者なんだ!!」

 俺がそう言うと彼女は俺におおかぶさった。

「夏休み前にも言ったでしょ? 私は吸血鬼だって」

「じょ、冗談だよな? お前の見た目は確かにアレだが、今の時代に吸血鬼って」

「へえ、信じてくれないんだー。なら仕方ない。今から君の血を吸って証明するしかないねー」

「や、やめろ。そんなことしたら、俺が死ぬ」

「大丈夫、大丈夫。味見程度だから」

「吸血鬼の味見程度なんて当てにならんわ!」

「うるさいなー……あー、もういいや、君を私のものにしちゃおーっと」

「な、何を言ってるんだ? 俺はお前の好きなようにはならないぞ」

「ううん、なるよ。絶対に。『魔眼発動』」

「うっ……」

 一瞬、彼女の目が赤から紫に変わったような気がした。いや、間違いなく変わった。彼女の目の色が変わった直後、俺の体は動かなくなってしまった。一応、呼吸はできているが、指一本動かせない。

「それじゃあ、いただきまーす♡」

 まずい! このままだと殺される! 彼女の呼気が俺の首筋を撫でた直後、俺は戦意を失った。

「カプッ! チュー!」

 ああ、俺は今、吸血鬼に血を吸われている。ということは、もうすぐ俺は全身の血を吸われて死ぬのか。ああ、短い人生だったなー。まあ、仕方ないか……。

「あー、おいしかった。おっと『魔眼解除』」

 彼女が指をパチンと鳴らす。

「あ、あれ? 俺、生きてるのか?」

 や、やった! さっきまで全く動かなかったのが嘘だったかのように動くようになったぞ!!

「味見程度だって言ったでしょー? 私をなんだと思ってるの?」

「何って吸血鬼だろ?」

「あっ、そんなこと言うんだー。今すぐ君を殺しちゃおうかなー、どうしようかなー」

「お、俺が悪かった! だから、殺さないでください!!」

「はいはい、もういいよー。それじゃあ、やっちゃおうかー」

「や、やるって何を?」

「ん? 何って性行為だけど?」

「……はぁ!?」

「あれ? 言ってなかったっけ? 私がここに来た理由は君を他の吸血鬼に取られないようにするためだよ」

「言ってねえよ! というか、そこまでする必要ないだろ!」

「えー、そうかなー? うーん、じゃあ、キスで我慢してあげるよ」

「いや、それもちょっと……」

「あっ、やっぱり、性行為の方がいいのかな?」

「キスで勘弁してください」

「分かったー」

「や、優しくしてください」

「あははは、それは女の子が言うセリフだよー」

「は、初めてなもんで」

「ふーん、そうなんだ。はい、それじゃあ、口少し開けて」

「えっ? ああ、うん」

 俺が少し口を開けた瞬間、熱くてピンク色でヌメヌメしたものが口の中に入ってきた。

「……!」

 俺は彼女にギュッと抱きしめられた。彼女は満足するまで何度も何度も俺にキスをした。

「……はぁ……はぁ……はぁ……」

「えへへ、君の初めて……もらっちゃった♡」

「誤解されるから、その言い方やめろ!」

「はいはい。よおし、これで君は私の……」

「いやだね。俺はこれからも一人で生きていくんだ」

「うーん、それは無理だねー」

「なんだって? それはいったいどういう意味だ?」

「えーっとねー、私たち吸血鬼の唾液を体内に入れられたら、もう手遅れなんだよ」

「ふん、そんなの映画やアニメの話だろ? そんな非科学的なもの信じられるか」

「じゃあ、私と付き合って。これは『命令』だよ」

「ああ、いいぞ」

 あれ? 俺、今なんて言った?

「それじゃあ、今日からここで同棲しよう。あー、これも『命令』だよ」

「好きにしろ」

 おい、これはどういうことだ!

「楽しみだなー。ね? そう思うでしょ?」

「そうだな」

 俺はいったい、何を言って!

「今日から永遠に続く私たちの幸せな日々が始まるんだね。ということで、これからよろしくね。あ・な・た♡」

「安心しろ。俺はお前を一生手放すつもりはない。だから、ずっとそばにいてくれ。ライア」

 やめろ……。

「じゃあ、私たちの『幸福生活ハーレム』を始めようか」

「無論だ」

 誰か……誰か、俺を止めてくれー!

 こうして、俺は永遠にこの吸血鬼の言いなりにならざるを得なくなってしまった……。

「次はあなたのところに行くかもしれないよー。その時はおとなしく私のものになってね♡」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冒頭の緩い会話からは予想できない結末に驚かされました。 命令内容が雑ではないなら互いが好きかどうかはさておき、満更でもない生活が送れる筈ですが本音を口にも出せない状況が幸せだとも思えないの…
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