1-2
|/゜U゜| 「準備、整いました」
(=゜ω゜)「じゃあ、始めよう」
|/゜U゜| 「早く来たものからここへ」
頷くと、男は即席の机を指差した。
一人が前に来ると、男は懐から紙を取り出し話し始める。
( ^ω^)「聞こえないお」
机から一番離れた場所に陣取ったブーンにはその内容までは聞こえない。
前傾になったり、少しだけ机に寄ってみたりと試しているうちに二人の会話は終わり
男が何かを紙に書き込むと、二人目が呼ばれる。
順に呼ばれ、少しの会話を終えると何かを紙に書き、もう一人の男のもとへ行く流れのようだ。
もう一人の男のもとへ促された村人は軽く頭を下げ、少し距離を開けて腰を下ろす。
(´∀`) 「何を話してるんだモナ」
二人はそれを言い合いながら呼ばれるのを待つ。
同世代の村人と接点がほとんどなかったため、顔を見た覚えはあるが名前は知らない。
加えて、二人の男の視線もある。
名も知らぬ者達に、話の内容を聞く事にとうとう二人は踏み切れなかった。
( ^ω^)「いよいよ、次だお」
(´∀`) 「ここで、下手なこと言えば、きっと兵士になれないモナ」
( ^ω^)「それは困るお。これ以上迷惑はかけられないお」
(´∀`) 「そうだモナ。でも、無礼があれば……あの腰の刀でズバッといかれたり」
|/゜U゜| 「次の者」
( ^ω^)「はいですおっ」
ブーンはモナーよりわずかに早くここに着いてしまった事を呪いながら、机の前へ立つ。
( ^ω^)「……立派な刀だお。人一人くらい真っ二つにできそうだお」
刀の柄には美しい飾りがつけられている。
紫と白の紐が柄から垂れ、男が動くと二色の紐が絡み合って解ける様は蛇のように見えた。
|/゜U゜| 「ではここに、名前と出身を」
( ^ω^)「はいですお」
ブーンは声が裏返っていたが、そんな事を気にする余裕はなかった。
震える手でできるだけ綺麗に文字を書こうと、ぐっと腕に力を込めた。
|/゜U゜| 「……ん」
男が小さく声を漏らす。
反応したブーンが顔を上げると男と目があった。
|/゜U゜| 「いや……、文字が書けるのか。さっきの三人は書けなかったが」
( ^ω^)「書けますお。小さい頃に教えてもらったおかげだお。でもそのせいであんまり遊べなかったお」
|/゜U゜| 「そうか。お前の歳で文字が扱える農民など、そうそういないだろうに」
( ^ω^) 「ですお!だからブーンを兵士に雇うと、大変お買い得だお」
ブーンの緊張はさっきまでと比べると大分解けていた。
( ^ω^)「あと出身って、ブーンはこの村の出身だお」
|/゜U゜| 「あぁ、どこの民かを書いてくれ。よく分からなければ親のもので構わない」
( ^ω^)「あぁ……、そう意味ですかお」
ブーンの暮らす国「総」
元は一つの国であったが、ある時を境に三つに別れていた。
南に「安房」、北西に「下総」、北東に「上総」
それぞれの国は自分達は別々の民であると主張し、総を統一しようと三つ巴の戦をほんの五十年前まで繰り広げていた。
その戦で多くの人が死に、物が減った。
元々の戦力が拮抗していた三国は、どこか一つが大勝する事は無く
ただ各々の国力が削られていった。
陸続きの三つの大国、南西の「武」、東の「野」、北の「盤」がそれぞれに内乱を抱えていたため
国力の弱まった「総」が侵略される事は無かったが、逆に他国へ協力を求めることもできず
延々と三つの民族による戦は続けられていった。
五十年前に「総王の息子」が疲弊しきった三国の長を集め、再び一つの「総」を再建した。
その過程にはどこの民も、ただ生活を苦しくするだけの戦にうんざりしきっており、
「各国の代表」を名乗る者達が自国内、たとえ自分の屋敷の中であっても身の危険を感じ始めた事。
「総再建」に賛同する多くの民と、それを率いる「総」から離れなかった忠臣達によって
構成された「総軍」が、三国のうちのどの軍よりも力を持った事。
これらを最たる要因として「各国の代表」を名乗る者達の打算により「総」は再び一つとなった。
だが、五十年では三つの民が再び一つの「総の民」になるには十分ではなかった。
息子が、恋人が、夫があの国との戦で殺された。
そんな思いはいつまでも残り続け、誰もが望んでいたはずの総の再建が成った後も
民族間の溝は残り続けていた。
( ^ω^)「さて困ったお。騎士さんと違う出自なら間違いなく出世は望めないお」
商人の付き人はどんなに優秀でも、親方と違う出自では暖簾を分けてはもらえない。
これはこの時代、子供でも知っている常識であった。
|/゜U゜| 「ん、どうした?」
( ^ω^)「いえ、なんでもないお」
ブーンは平静を装い、男へ作り笑顔を向ける。
( ^ω^)「おっおっ」
男の着物の胸元が少しはだけ、さっきまで右胸に見えていた小さな花の刺繍、その裏側が目に入った。
表となんら変わらぬ美しい模様が裏側にも浮かび上がっている。
表裏、どちらから見てもほとんど変わらない刺繍の飾りつけ。
( ^ω^)「上総だお!」
そういうとブーンはカナ文字で書き記す。
念のため書き終わったところでできるだけ自然に視線を上にやると男の顔には特に不満の色は見えなかった。
|/゜U゜| 「では、次の者」
(´∀`) 「緊張するモナ」
( ^ω^)「……上総だお」
モナーの方を向いて小さく呟くとブーンはもう一人の男の辺りへ向かった。
おそらくモナーには今の言葉は聞こえていなかったが、ブーンは言わずにはいられなかった。
二人で騎士になる。その目的がこんなつまらない事で叶わなくなるなどとても我慢ならなかった。
(´∀`) 「下総モナ」
モナーは最後の質問にそう答えると小刻みに震える手で書き記す。
少し離れた場所からはブーンが祈るような視線を送っていた。
|/゜U゜| 「──次の者」
男の意外な声にブーンは机に釘付けになっていた視線を引き剥がし、
モナーは体を勢い良く反転させる。
( ´_ゝ`)「はい」
机に進みだした男を二人は知らなかった。
歳はおそらく同じくらい。細身の体になかなか整った顔立ちと白い肌。
およそ場違いな風貌である。
(´∀`) 「今の時期、この村にやってくる物好きなんているもんかモナ」
モナーがどっかりと腰を下ろした。
( ^ω^)「そこにいるお、三人も」
考えたところでわからない。二人はすぐにそこへ至ると、黙って青年の姿を見続けていた。