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/^o^7\ 「ちくしょう、騙された」
そう言いながら男がいきなり戸を開けて入って来たのは日が少し傾いた頃。ブーンは眠りについて数刻が経っていた。
(^ω^ )「──なんですお」
ブーンの声は寝起き特有の低さと、不機嫌さが混じっていた。
/^o^7\ 「あの野郎、商談を蹴っ飛ばしやがった」
男はそんな事は気にしていない様で、早口で話す。
(^ω^ )「商談?」
ぼやけた視界を戻そうとブーンは目の辺りをごしごしと擦る。
部屋の入り口の辺りであわただしく行ったり来たりを繰り返すのは、この宿を紹介してくれた商家の兵士だった。
/^o^7\ 「兵士を買うって話だ。くそっ。半分だ。半分を前金で渡していた」
男は責めるようにブーンに怒鳴る。
/^o^7\ 「商人ってのは何より信用が第一。何度かこの街に出入りしているような奴が人一人の売り買いする額欲しさで信用を捨てるなんて割に合わない」
イライラしたように頭を掻く。ブーンはまだ意識がはっきりしないようで、力なく頷いていたが話しが頭に入っていない様だ。
/^o^7\ 「だから前金で半分渡したんだ。なのに、あいつは来ない。今日の昼にあそこで受け取るはずだった」
人を「受け取る」という言葉が気に障ったが黙って続きを聞いていると、どうやら今日「受け取る」予定だった若い兵士というのがどうやらブーンの事だと分かった。
確信は無いが何度か聞いた、ブーンを買った商人の名前を、兵士が憎らしそうに口にしていた。
/^o^7\ 「あの金は、俺が主人から預かったものだ。今日中にあの額で用意できないとなると俺がまずい。何をされるわけじゃないが、間違いなく俺の立場は悪くなる。それはうまくない」
口調は早く、小さくなっていく。
/^o^7\ 「俺はこんなところで躓くわけには行かない」
この兵士にも何か思うところがあるようだったが、今は黙って続きを聞こうとブーンは立ち上がって椅子に腰を下ろす。
/^o^7\ 「それでだ。俺がここに来たのは、君にこんな事を報告するためじゃない」
顔をブーンに向けると精一杯の笑顔を作る。声は賭場の時に少し近づいた。
(^ω^ )「おっおっ」
/^o^7\ 「君は兵士になりたいって言っていたろ」
(^ω^ )「はいですお」
/^o^7\ 「幸いにも。いや、俺にとっては不幸だが、一つ席が空いたんだ。今なら、俺はそこへ君を入れる事ができる。どうだい」
(^ω^ )「おっおっ」
/^o^7\ 「すぐに払える金は残った半分だけだ。だが必ず。必ず残りの金も払う。まぁ、俺が自腹を切るしかないからそう早くには用意できないんだが、でかい仕事が終わったらすぐにでも払うさ」
男はブーンに頼るしか無い事を隠す様に、あくまで提案という形で話をしている。
(^ω^ )「悪くないですお」
どこまで好条件を引き出せるか、試してみたい気もあったがそこは我慢をする。
/^o^7\ 「そうだろ。条件なんかはできるだけ良いものになるように俺から掛け合う。きっと、よその新兵よりもずっといい待遇だ」
近くへ小走りで寄ってくると、作り笑顔の不自然さを消しブーンの手を握ると上下に大きく揺らした。
/^o^7\ 「君が良いというなら今すぐに、屋敷へ行きたいんだが。もうあまり時間が無いんだ」
外はやや赤みを帯びてきたがまだ夜というには早い。だが、男の焦りはすでにぎりぎりだというような感じでそわそわと窓の外を見てはブーンにすがる様な目で話しをする。
(^ω^ )「……行きましょう」
唐突ではあったが、願っても無い話だった。多少驚きはしたが、ブーンにとっては願っても無い。立ち上がり、革袋を掴むと男の方へ進み出す。
屋敷に着くと真っ直ぐ、離れへ向かって歩き出す。
/^o^7\ 「主人には明日紹介をしよう。あの人は気難しくてね。多分今行っても会ってはくれないし、いきなり機嫌を損ねるのは君にとってもよくは無いだろう」
男が振り返った。少し前までの、絶望しきった顔をは打って変わって明るいものになっている。
/^o^7\ 「それから、君の担当は馬房守だよ。兵士として屋敷と騎士を守る事とあとは馬の世話」
(^ω^ )「馬ですかお?」
/^o^7\ 「あぁ、見たことないだろう? 騎士が近くにいないと爺さんくらいの年代じゃないと見た事は無いだろうね」
(^ω^ )「はいですお」
/^o^7\ 「最初は大変だろうけどすぐに慣れるさ。君はこれからここで生活をしてもらうからね」
男が扉を開けると獣特有の匂いが全身にぶつかってくる。
奥で黒い影が動いた。
/^o^7\ 「馬房守ってのはとにかく自分より馬を守らないといけない。もし馬に何かがあったら真っ先に責を問われるのは馬房守だ」
ブーンは横から入ってくる声より、広い馬房の奥の黒い影に集中していた。
/^o^7\ 「あれが君がこれから一緒に生活する馬だ」
影が一気に縦に広がる。
(^ω^ )「おっ」
それが影でなく、全身が真っ黒な馬そのものである事に気がつくのは、目が暗闇に慣れてきた頃だった。
(^ω^ )「襲ってきたりは、ないですかお?」
/^o^7\ 「前の馬房守は襲われたりはしなかったかな。ただ全然馬が言う事を聞かなくてね。結局主人の機嫌を損ねて辞めさせられたよ」
/^o^7\ 「あぁ、でも大丈夫。二年経ってもさすがに、改善されなくてさすがに無理だとなってからの事だからね」
ブーンを驚かせないよう、すぐに男が後に続ける。
/^o^7\ 「あの人は一度金を払ったら、できるだけ買いなおすなんてしたくはないのさ。だから二年以内に扱えるようになれば問題ないさ。じゃあ、今日はもう休むといい。馬は基本的に大人しいからね。襲ってきたりはしないさ。それじゃあ、お休み」
(^ω^ )「……おやすみなさいですお」
体を強張らせて扉の中へ入る。窓は高い位置に四つ有るので月の光があれば真っ暗にならずに済みそうだった。
他に目に付くのは宿屋よりもずっと状態の悪い寝具が一式と椅子と机。柱一本置きに備え付けられた灯りと、馬の世話に使う道具がいくつかだけだった。
奥を見ると馬はもう横になっている。時折、何か短く鳴き声を上げるだけであとは大人しくしていた。
体は疲れきっていたのですぐに横になったが、なかなか眠りにはつけない。
結局のところ、どんな事をしても結果は変わらなかったのだ。そんな考えが頭から離れなず、これまでの事を色々を思い起こす。
不思議とこみ上げて来る笑いをブーンは隠さなかった。
馬が少しだけ体を起こして様子を伺っているのが分かったが、しばらく笑いは止まなかった。
結局、頭の中が落ち着き深い眠りに着いたのは頃には、丸々とした月が完全にその姿を隠そうとしていた。