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パワーストーン!  作者: 心眼
1/1

きっかけは、やたらと重い変な石。

この世の中には、パワーストーンという開運グッズがあるそうだ。


なんでも、それを所持すれば運がよくなったりするそうだ。

大小、様々なご利益があったりすると、いわれている(・・・・・・)みたいだ。


たが、これがどうも胡散臭い。


効能は書籍やネットの情報で調べてみるとまちまちだ。

意味合いが180度も違ってたりするし、情報の混乱が見て取れる。


そして、これが困ったことに、物の本とか、ネットの情報に記載している効果はいずれも、いわれている(・・・・・・)で締められている。


確約すると何か不味い事でもあるのだろうか?


ここで俺は考えた。


絶対を保証するものではないのが、この業界のお約束だと理解する。

そんなありがたい物が、ホイホイ買えるのがおかしいと思わなければならない。

不確定で曖昧な幸運は金では買えないのだ。理屈ではそうだ。


ああ、そうそう、自己紹介を忘れていた。


俺の名前は、山田太郎だ。

何処にでも居る35歳のオッサンだ。


家族構成は俺一人だ。


両親は俺が20歳の頃に死に別れた。

交通事故だった。

原型を留めない程に大破した車を見てしまった。


なるほど、これはあかんやつだ。


当然、中に居た両親は無事では済まなかった。

不思議な事に涙は出なかった。


俺の他に兄弟もいない。

天涯孤独の寂しい人生を歩んでいる。


両親は、少々の土地と農地、それに保険金。

そして、何時建てたのか分からない古臭い家。

何が入っているのか怖くて調べていない、少し大きめの蔵を残してくれた。


一人で住むには広い家だった。

今では仕事道具とか趣味で集めた本、それを収納する本棚。

それから、大小様々な機器があるおかげで狭く感じてしまう。


親類縁者は皆無だ。

だから、面倒な遺産狙いもいなかったのが幸いだった。


35歳にもなって独身なのは察してくれ。

シャイではにかみ屋なんだよ、俺は。


中学を卒業してすぐ働き始めた。

ある程度極めたら、職を変えたりしていたっけ。


仕事は……まあ、なんでも屋だ。

肉体労働が主で、ありとあらゆる技術を所持している。

所謂、資格マニアだ。そこそこやれる自信がある。


俺一人で家を建てられる技術を所持しているのが自慢だ。


大工、内装、土方、電気、ガス、足場、板金、なんでもござれ。

土いじりも好きだし、工芸関係も得意だ。農業もやれたりする。


物作りは素晴らしい。何故なら結果が出て残るからだ。


例え俺がくたばったとしても、物が残るなら価値があるだろうと思う。

何処かの誰かが俺の作った物を使って貰えると思ったらワクワクする。

どうせ残すならクオリティーを求めたい。だから日々精進している。


物作りに対しては、少々拘りがある。

およそ肉体関係に冠するスキルは、ある程度自信があるつもりだ。


趣味は調べることだ。

なにか気になることがあれば調べて納得しないと気が済まない性格だ。

趣味が仕事になってしまうのが難点と言えば難点だ。

物作りに拘るから寝食を忘れて没頭してしまう癖がある。

少々、神経質だが、これはこれで仕方がない。


閑話休題


パワーストーンの話に戻る。


主に水晶系が人気であり、水晶でもルチル(針入り)などが高価である。


本来なら水晶に混じり物があったら、それは屑石扱いで価値がないと思うのだが、この業界では屑石でも立派に価値を見出す依代があるそうだ。


天然物が最も尊ばれるが、人工的に細工した物でも何故か御利益があるというたまげた代物だ。正直、眉唾物である。


だいたい、科学万能のこの時代に、こんなオカルトグッズがあるとは甚だ疑問だ。こんな物が売れるのだから、この世は不思議に満ちている。


そういえば……


パワーストーンといえば、ダイヤモンドもルビーも、金も白金だってその部類に入る。元は石だから、立派にパワーストーンだ。


いずれも高価で希少部類に入る物は鉱石から得られるのだ。


論理の飛躍だが……


ウラン鉱石も、パワーストーンといえばパワーストーンだ。

加工すれば原子力を生み出し発電に使える。


戦力的に使えば、物理的に破壊するエネルギーを発する危険な代物なのだ。極端に言えばし、地球を破壊することさえ可能だから大変な代物だ。


勿論、安全に使用すれば、安定したエネルギーを得られるが、暴走すればとんでもない悪夢を現実に見るハメになること請け合いである。


いずれも石なのだ。石が作り出すエネルギーは侮れない。

物理的に効果がある石は認めよう。これは認めるしかない。


だが、その他の石はどうなんだろうか?主に開運関係は?


だいたい希少な石は、発展途上国だったり、あまり治安の良くない国から産出するのがほとんどである。


それに、パワーストーンを産出する国っていうぐらいだから、そこに住む人々はやたらと運が良くなったり大金持ちだったりするのが道理なのに、実際はそれほどでもない。


何処の誰だか知らないが、屑石に価値を見出したペテン師がいたはずだ。


この石は開運にとても効果があり、所持すると運気が上がる……ってね。


しかし、需要があるから供給もあるわけで。


今日も危険な採掘場で生命を的に、採掘している底辺の労働者がいるわけだ。


パワーストーンで最もポピュラーな物は、念珠ブレスレッドだ。


天然石を玉にし、それをブレスレッドにする。

それを常に身に着ける事によって効果が期待できるそうだ。


持ち主を認識させる為に、常に身に着ける事が重要であり、自分の願いを染み込ませる。そして石に自分の願いを具現化する為に働きかける。


体験者は、それなりに御利益は得ているそうだ。


そりゃ何人かは偶然に効果を感じた気がするし、実際、石のおかげだと思っていることだろう。


安い物は数百円で買えたりする。

しかし、物によっては、数万円から数百万円の物があったりするのだ。


正直、騙されているぞ……それ。


そんな効果があるのか分からない物に、大事な金を払うのは馬鹿げていると思う。


それなら、そこら辺にある重たい石を拾ってきて、持ち上げたり、下ろしたりを繰り返せばいい。確実に効果が出るから。主に、筋力と、忍耐が。


それこそ、パワーストーンってね。なるほど、言い得て妙だ。


こんな話をしたのは理由がある。

俺はここ数年、他人から見たら変な習慣がある。


俺は重さ約30キロのゴツゴツした、黒くて見るからに歪な形の石を握っている。丸くて黒いのだが、形がとにかく歪で、ゴツゴツとした短い突起がある。


俺は別に巨人じゃないし、身長だって170センチそこそこだ。

そんな俺の手の平の形は極めて普通だし特に珍しくもないと思う。


手の平に収まるサイズのくせに、約30キロもあるのだ。


これがどんな石なのか、どんな種類なのか知らないし興味もない。

大事なことは、小さいくせにやたらと重たい。これが重要だ。


この石は何かの気まぐれで、漬物でも漬けてみようと思って裏の山から拾ってきた。小さいくせに、やたらと重いのが気に入ってしまった。


しかし、気まぐれは気まぐれだ。

漬物は買った方が早いのに気付いた。


途端、無用になったが、何故か捨てるのも偲びず、せっかくだからこれで身体を鍛える事にした。


小さいくせに、やたらと重たいし、ゴツゴツしているから手のツボの刺激にもいい。

手には各々重要なツボがあり、指まで数えたらそれこそ無数にあるのだ。

そこには、身体の各器官、内蔵もそうだし自律神経まで効果がある。

活性化にも効果があり、一見関係なさそうなのに頭痛、腰痛にまで効く。


丁度いいサイズだし、場所を取らないから重宝している。

これはこれで、拾えた幸運を感じたりもする。


そいつを持ち上げたり、下ろしたり、放り投げては受け止めたりする。

頭の上でクルクル回したり、ついでだから、指先一つで持ち上げたりもする。

暇さえあれば無意味に鍛えている今日この頃。


天然の自然石だから、上手く持つにもコツが要る。

同時に、ゴツゴツした突起は手の平、指に適度な刺激を与えてくれる。


クルクル回すとなれば、それなりの身体操作とテクニックも必要だ。

今では愛着さえある大事な石となってしまった。


結果、おかげさまで、それなりに筋肉がついてしまった。

約30キロの石の重さは、すっかり平気になってしまった。


35歳の少々くたびれた身体は、ツボ刺激のおかげで疲れ知らずになってしまった。

現在、すこぶる健康で、身体的にはなんの不満もない。


やはり、継続は力なりを実感した

これこそパワーストーンだ!


効果は抜群で、確実に結果を出せる。

自信を持ってお勧めできる代物だと思う。


しかし、それはそれ。


眉唾物でも頼らずを得ない状況になってしまった。

退っ引きならない状況は、俺の拙い常識を破壊する。

無駄な知識や理屈は今は無用だっ!眉唾物でも今は頼りたいっ!


買った。買ったぞ!200万円分のパワーストーン!


仕事をしながら貯めた金が、全部吹っ飛んてしまった。

惜しくないったら、惜しくない。


最初に購入したのはこいつだ!


直径10ミリの限りなく透明な、天然水晶の念珠ブレスレッド10個だっ!


こいつの効能は、浄化、開運、願望成就、魔よけだ。

更にいえば、心を清める、肉体を清める、魂の純粋化だ。


強いヒーリング効果も期待できるし、運を開いてくれそうだ。

その他いろいろあるが、強力なブースト機能も期待できる。

ある意味、万能な効能を持つと、いわれている(・・・・・・・)そうだ。


俺は、自分でいうのもなんだが、性格が物凄く捻くれている。

汚れに満ちたクソ野郎だと自分で思っている。

このクソみたいな性格と、クソみたいな魂には必要な石だ。


右手首に2個、左手首に2個。

右足首に3個、左足首に3個を装着する。


これで10個の天然水晶ブレスレッドを装着した事になる。


1個に、20玉の天然水晶がブレスレッド状態となっている。

俺は10ミリの限りなく透明な天然水晶の玉を200玉も身につけた事になる。


う~ん……なんとなくだが、身体中が、いや、魂が浄化されている気がする……な。

俺の中の訳の分からない不思議な力が増幅された気がする。


いや、まあ……なんとなくだが。


次はこれだ!

直径20ミリの金糸が鬼のように入った、金ルチル念珠ブレスレット2個。


こいつが一番、高価だった。

いやらしいぐらい金糸が呻るように入っている。


どういうわけだか知らないが、2個で100万もしたのだ。

用意した銭の半分が吹っ飛んでしまった。それほど希少なんだろうか?


こいつの効能は天然水晶とほぼ同じだ。

しかし、金の針が入っている分、物凄い効果が期待できる……そうだ。


金針が水晶のパワーを更に高める効果がある為、通常の水晶より強力なエネルギーを持つと、いわれている(・・・・・・)


金運、財運、投機運、勝負運、恋愛運、洞察力アップ、精神力強化。

肉体の活性化、魔除け。


これらを強力に期待できると、いわれている(・・・・・・)


右手首に1個、左手首に1個を装着する。


あれれ……動機がヘンだな。これは心理的圧迫なのか?

こんな変な石に100万だと?おいおい……俺は正気なのか?


……いや、まあ、それはいい、それは。


う~ん……、な、なんとなくだが、身体中が、いや、魂が更に浄化されている気がする……な。

なんとなくだが、身体中に不思議なパワーを直接感じる気がする。なんとなくだが。


100万もしたんだ。

これで効果が出なければ詐欺だぞ……本当に。


次はこれだ!

直径20ミリの、天然ラピス・ラズリの念珠ブレスレッド2個。


とても美しい天然ラピスをまじまじと見る。

このなんともいえない青が好きだ。チラホラと金の星も美しい。

まるで宇宙の深淵を覗いている気持ちになるから不思議だ。


和名は瑠璃で、仏教の世界では極楽浄土を飾る七宝のひとつだそうだ。

大昔から幸運を招く石といわれいるから結構、使われている。


あの、古代エジプトのファラオ()

ツタン・カーメンの黄金のマスクにも使われている。


邪気を退け、正しい判断力を高め、最高の幸運を呼び寄せてくれるとされている。

最古のパワーストーンだ。少なくとも、そう、いわれている(・・・・・・)そうだ。


20ミリの玉が15個を連なる、神秘的な青いブレスレッドを装着する。

右手首に1個、左手首に1個だ。


むむむ……なんだか知らないが、効果があるのかもしれない気分だ。

いや、きっと効果があるに違いない。違いないんだっ!


直径20ミリの結構、美しいタイガーアイの念珠ブレスレット2個。


こいつはギャンブル関係に効果があると、物の本には記載されていた。

そりゃ買うでしょう。やはり、博才の運気は欲しいね。


右手首に1個、左手首に1個を、先の水晶ブレスレットに挟む形で装着する。

これは水晶の増幅を期待してのことだ。


……どうなんだろ?


ちよっと左右の手首がジャラジャラとしてきてちと重たいぞ。

まだ効果は体感していないが、きっと効果が出るだろう。

本当に……出て欲しいな。是非、出て下さい。


直径20ミリの各諸尊の梵字が入った天然水晶ブレスレッド1個。

直径20ミリの四神の意匠が入った天然水晶ブレスレッド1個。


勿論、これは神仏や霊獣の加護を期待しての選択だ。

20ミリの各玉に、仏である、如来・菩薩・明王・天など仏教上尊崇すべき存在の象徴である梵字が彫り込んであるのだ。


そして、四神……即ち、青龍・朱雀・白虎・玄武の霊獣だ。


この四体の霊獣の意匠が彫り込んである。

見るからにありがたくなるブレスレットだ。


きっと、こんな物に頼る邪な俺に、神仏や霊獣が力を貸してくれるだろう。

是非、お願い致します。……あの……怒んないでね。


1カラットのダイヤをはめたプラチナの指輪を右手の中指に。

5カラットのルビーをはめたプラチナの指輪を左手の中指に。

そして、プラチナの鎖に、トップがラピスのティアドロップ大玉ペンダントだ。


どちらも絶大な効果があるというが……まあ、それはいい。

そして、いつもの歪な石を握りながら効果を体感する。


なんとなくだが、パワーが付いた気がするな……なんとなくだが。

これらのアイテムを装備した今、俺は無敵だっ!そうに違いない。


……なんだか疲れた。


精神的な疲労度が増大したのは間違いなく石の効果だと思う。

さすがに、こんな物に金を使ったのは後悔してきた。


おかしなテンションは危険だ。

何事も勢いだけでは駄目だと気付かされた。


まあ、少なくとも何も身に着けないよりは効果はあるだろう。

それに、大事な教訓を身を持って教えてくれた。


【無駄遣いするな】


そして、今日も俺は歪で重たい黒石を握りながら考え込むのだった。


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