知らない花。
「この花すごく綺麗だね」
帰り道のひまわり畑の前で
彼女はそう言って笑った。
「え、ひまわり知らないの?」
僕は驚いた。
ひまわりを知らない人なんか見たことがなかった。
花に疎い人でも小さな子供でもひまわりはしっていると思っていたから。それくらい有名な花だと思う。
「うん、始めて見た。名前は少し聞いたことあるけどね!」
うーん、と首を捻らせて彼女はいった。
彼女の名前は朝倉涼子。僕の仲のいいクラスメイトである。
「ふーん。テレビとか見ないの?」
テレビを見ていれば目に付くはず。
そう思い僕は言った。
すると彼女は笑って
「見るに決まってるじゃん!私テレビっ子だから。」
「え、なのにひまわり知らないの?」
今の季節は夏。テレビを見ているのなら嫌でも目に付くはずだ。なのに彼女はひまわりを知らなかった。
「うん、もしかしたら知っていたのかもしれないけどね」
彼女はまたくすりと笑う。
言っている意味がわからなかった。
知っていたというのはどういうことなのだろう。
この時の僕は彼女のこの言葉の意味を深く探ろうとは思っていなかった。
「何言ってるの。ひまわりはもういいでしょ。早く帰るよ。」
いつまでもひまわり畑を見て立ち止まっている彼女に僕は言った。
なんとなくあの言葉の意味を探ってはいけない気がした。
「わからなくていいもーん。わかってるよ!」
僕が冷たい目で見ていたからか彼女は口を尖らせた。
そして僕を走って追い越していく。
「坂道なんだから危ないよ。」
僕はそう言って彼女の元へ早足で向かった。
今思えばこの時から彼女は既に苦しんでいたのかもしれない。
彼女を家まで送り届けた僕は花屋に寄っていた。
どうしてかは自分でもよくわからないけど無意識に花屋に来ていた。きっとひまわり以外の花も知らないであろう彼女に花を教えたかったのかもしれない。
「なにかお探しですか?」
うろうろしている僕を見かねてか店員さんが話しかけてきた。
「まあはい。」
目的すら良くわかっていない僕は曖昧な返事をしてしまった。そりゃそうだ。無意識に来てしまったのに探すも何も無い。
「どんな花をお探しでしょうか?」
おどおどしている僕に対して店員さんは愛想よく聞いてくれた。
「えっと、花言葉が素敵な感じ……ですかね?それで結構有名なやつ。」
とりあえず彼女に見せるためのものなのでマイナーなものではなく有名なものにしようと思った。
きっと彼女のあの様子だと花言葉も花の名前もわからないことが多いだろうと感じた。
「わかりました。しばらくお待ちくださいね」
そうにこりと笑って店員さんは奥へ行ってしまった。
花を買って彼女にあげる、なんて
どこかのドラマみたいだと思った。
ロマンチックにも程があるだろう、と
でも、それでも僕は
ひまわりを見た時の彼女の笑顔が忘れられなかった。
花屋に来たのはまた彼女のあの笑顔を見たいからかもしれないな。なんて僕にしては乙女チックなことを頭に思い浮かべていた。