それぞれの正義
=王都シューデン=
フォンとケリシリスは闇夜の王城を走る。
もと来た隠し通路を走る。
「まて!」
「どうした?」
フォンはケリシリスを呼び止める。
「城下町に用がある。」
「そんな時間はない。
おまえは一刻も早くここを逃れろ。」
「あんたに指図されるいわれはない。」
フォンは扉に走りよる。
「・・・。5分だ。」
フォンは扉を勢いよく開く。
「わ!」
「きゃ!」
開けた瞬間にリンネとぶつかった。
「すまない。」
「フォンさん!
よかった!無事だった!」
「兄貴、遅かったじゃないですか!!」
「すまない。」
フォンはもう一度謝る。
「リーデニスさんは・・・?」
リンネは注意深く聞く。
「・・。」
「ごめんなさい・・・。」
「何故あやまる?」
「だって、私が確かめようなんて・・・また、フォンさんにつらい思いをさせてしまいました。」
「そんな!姉御は悪くねぇ!オイラが変なこといったから・・・。」
「お前たちのせいじゃない。
ウルムは貴重な情報を教えてくれた。
リンネが言わなくとも俺はここへ戻ってきている。」
「まだか?」
扉からケリシリスが現れる。
「・・・。
行こう、ここにはもう用はない。」
「はい。」
「うん。」
フォンは通路に戻る。
その後ろを三人が追いかける。
=イカスネ村=
フォン達は坑道の隠し通路を抜け、イカスネ村まで戻ってきた。
ここまでほぼ全力で走ってきたため皆息が上がっている。
まだ、夜は明けていない。
「・・・。
!!!!」
フォンはイカスネ村の門を過ぎたところでケリシリスの胸倉をつかんで壁に叩きつける。
「ぐっ。」
ケリシリスは息を詰まらせる。
「フォンさん!」
フォンは険しい表情でケリシリスに問いかける。
「おまえに聞きたいことがある。」
「おまえの推測の半分は間違っている。」
「何?」
フォンは表情を変えない。
「おまえに俺が何を考えているのかわかるのか?」
「わかるさ。」
「わかるわけがない!!」
もう一度ケリシリスを壁に叩きつける。
「っ・・・!
わかるさ。
あんな派手な逃げ方しておいて、ノコノコ王都に戻ってきたのが証拠だ。」
「どういう意味だ?」
「リーデニスの死因・・・あれは魔法によるものだ。」
「・・・。」
フォンはゆっくりとケリシリスを離す。
「確かにリーデニスはひどい仕打ちを受けたようだ。
それは君が一番よくわかっているだろう?」
「結論を教えろ・・・。」
「・・・リーエー以外に・・・あるいはリーエーの裏に何かが居る。」
「どういうことですか?」
リンネがわってはいる。
「リーエーは魔法を使えない。
そして、知れているかぎりでは、リーエーの周りに魔法を使える人間はいない。」
「なぁ。」
ウルムは前に出る。
「アンタさ・・・どっちの味方なんだ?」
「・・・そうだな。騎士長派だ。」
「では何故ウソの診断書を書いた?
俺が知っている内容では・・・俺に斬り殺されている。」
「あぁ、時間が必要だった。
おまえにこの事実を教えるために。
リーエーに命令された。
あそこで首を縦に振らなかったら殺されていただろう・・・。
結果的に、おまえが王都に戻ってきてくれたのは正解だった。」
闇の向こうにチカチカ光がちらついている。
「追ってか・・・後をつけられていたようだ。」
ケリシリスは腰のレイピアを引き抜く。
「ここは引き受ける。」
「おまえ・・・一体何がしたい?」
「云っただろう。
俺はおまえ派だ。
・・・国境の向こうにアドランスという医者を志す軍師が居る。」
「!!」
「リンネ?どうした?」
「いえ・・・何も・・・。」
「・・・。
それで?
何故その名をだす?」
「あぁ・・・実際会ったことはないが、少々文通していた仲でな、おそらく手助けになるだろう。
ガンデスのミレルという港町だ。」
フォンは歩き出す。
「信じていいんだな?」
「あぁ・・・約束してくれ。」
「?」
「この国を・・・・頼む。」
「アンタもな。」
フォンはもう振り返らず、歩き出した。
「あの・・・ケリシリスさん。」
「何かな?」
「お元気で・・・。」
「君の名前は?」
「リンネです。」
「・・・そうか・・・何の因果だろうな・・・君は?」
ケリシリスはウルムを見る。
「ウルムだ。」
「ウルムか・・・。
二人とも、フォンを頼む。」
リンネは一礼してフォンを追いかけた。
その後をウルムが慌てて追いかける。
「ケリシリス・・・。
そうですか・・・あなたが元騎士長を・・・。」
「ほぉ・・・シルヴァ自ら来てくれるとは・・・光栄だ。」
ケリシリスはシルヴァにレイピアを向ける。
それをさえぎるように兵士が一歩前に出た。
「犯罪者を・・・いえ、生け贄を何故?」
「その話を持ち出すか・・・なるほど、この兵士達はリーエー派か。」
シルヴァが眼鏡をかけ直す。
「この国をリーエーは正そうとしている。
何故あなたはソレがわからないのです?」
「この国の英雄を奈落の底へ突き落とすことが正しいのか?」
「物事に犠牲はつきものです。
国は皇帝にあらず、そして、皇帝は国にあらず。
国は国、皇帝は皇帝。
なのに、この国は一人の将に頼っている。
それはほかならぬ皇帝だ。
リーエーは、国のあるべき姿を取り戻そうとしているのです。」
「その代償が国の基盤を築いた英雄の処刑か?」
「たった一人の犠牲が国の繁栄へと導かれる。」
「一人?すでにリーデニス嬢を殺害し、皇帝陛下の殺害をも目論む貴様らがよくそんな口をきけたものだ。」
「国のため、しいては一億四千万人の国民のためです。
あなたに彼らの幸せを妨害する権利が?
この国は腐敗しかけている。リーエーはそれを正すために動き出している。
どちらが正義かよく考えなさい。」
「ひとつ同意しよう。
この国は確かに腐敗している・・・。
皇帝陛下に忠誠を誓えないクズが一国の大臣なのだからな!!!」
ケリシリスはレイピアに刻まれている紋章を発動した。
レイピアが光だす。
「反乱が正義なら、世は末だな!シルヴァ!!」
「反乱ではない!革命です!何故それがわからない!!?」
シルヴァは下がる。
兵士たちがケリシリスに詰め寄る。
『死神の使い魔よ、その姿を武器とし、陽炎に操られ肉を引き裂け!!エターナルシャドウ!!』
兵士たちの影がレイピアの光を受けて浮かび上がる。
そして影から無数のトゲが現れ、兵士に突き刺さる。
「ぐあぁぁ!」
魔法を受けた兵士は激痛のため気絶する。
「その紋章・・・・正気か?
それは・・・まさか!!」
「ほぉ、さすがに賢者と言われるだけのことはあるな。
そう、これは術者の命を源とする紋章。
大義はフォンにある!!
この国には邪魔者が多いだけだ!
供にこの国の未来のために消えようか!我が友よ!!!」
「やめろ!やめろ!!」
『我は汝にささげよう、この身を、この魂を・・・すべてを飲み込む暗黒の世界の礎として・・・!!』
「全員さがれ!!」
シルヴァが慌てふためくの見てケリシリスは笑む。
『開かれよ!虚無の扉!!ディメンショ・・・・・ぐ!!」
ケリシリスは最後まで詠唱することができなかった。
その胸には刃が3本突き出していた。
ケリシリスは倒れこむ。
吐血し、そのまま息絶えた。
「あ〜あっけね!
ヘボが刃なんてもっちゃダメでしょ!め!」
男は子供をしかりつけるように亡骸に云う。
「・・・リュオか・・・。」
「んもぅ〜リーエーっちが早く行けってっから飛ばしてきたのに手ごたえなさすぎ!
おれっち欲求不満。何かない?」
「元・・・騎士長なんてどうですか?」
「お!いいねぇ!お国の英雄さん?
いいんじゃなぁ〜い?どこどこ?」
リュオはキョロキョロあたりを見渡す。
「この村には居ないでしょう・・・・早めに追いつけば出会えるかもしれませんよ?」
「おっけーーい、あ、でも今日はお休み。
だってぇ〜飛ばしてきたから疲れちゃった。
温泉はいろ〜♪」
リュオは陽気に歩きながら宿へ向かう。
兵士がシルヴァに歩み寄る。
「何者ですか?あいつは。」
「変わり者ですよ・・・。」
シルヴァはケリシリスの亡骸に近寄る。
「あなたと・・・供にこの国の未来を見たかった・・・友よ、我々が正義であることを証明しよう。
天で見届けてくれ。」
シルヴァは王都への帰路へ入った。
今回はここまでの話のヤマみたいなものです。
次の話からまた心機一転していきます。
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