ツルギのボヒョウ
フォン達は迷いの森を抜け、イカスネ村の宿を取った。
ここイカスネ村には世界でも有数の温泉の観光名所である。
ヴァリクラの南東からシュリベラの全土にかけて巨大なアラネスカ造山帯が連なっており、
数多くの活火山とともに温泉が涌いている。
=イカスネ村・黄金温泉亭=
「なるほど、確かにいいところだな。」
フォンはウルムに案内され、イカスネ村の温泉宿の一室で羽をのばしていた。
「そうですね、温泉も気持ちよかったですしね。」
リンネは宿を取って早々に露天風呂に入っていた。
「だろだろ?
ここの女将はオイラの家の古い親戚でさ、たまにここの風呂に入れてもらってるんだ!」
「ん?っということは、ここの女将は貴族ということにならないか?」
「ん〜、よくわかんねぇけどさ、なんか色々あるらしいんだよなぁ〜。」
「いいじゃないですか、
今日はゆっくりしましょう。」
リンネの提案におとなしく従う。
わざわざ宿を取ってまで神経を使っていては先が持たない。
「それじゃあ俺も湯に預かるとするか。」
フォンが部屋を出た。
〜翌朝〜
=イカスネ村・北門=
「準備はいいな。」
フォンは村の門前で荷物を確認する。
「お薬に、食料、水・・・・・はい!全部いいですね。」
「んじゃあ目指すは王都シューデン!!」
ウルムが大声で歩き出した。
=迷いの森・南口=
「さて。」
フォンは気を引き締める。
「このあたりにはラーホネットはないから、レネゲイルあたりは簡単に抜けれるだろう。」
「え?」
ウルムが意外そうな声をだす。
「兄貴達、上を抜けてきたのか?勇者だな・・・。」
「ん?どういうことですか?」
「この森のには地下通路があるんだよ。
こっちこっち!」
ウルムは獣道へと入っていく。
フォン達はその後に続いた。
=王都シューデン・外門=
森の地下通路を抜けた先は王都のすぐ近くの坑道だった。
「おそろしく早く着いたな。」
フォンは呆れ口調になる。
朝早くに出発し、翌日の夕方に王都につく予定だったが、出発したその日の昼過ぎには到着した。
「ここは元々貴族が国外に亡命するときに使ってたらしいんだ。」
「すごい!さすが国の情報を扱ってた貴族の末裔ですね!」
リンネは感心する。
「まったくだな。
この門のは通路で城までつながっている。」
そういうとフォンは門の外れにある小さな隠し扉を開く。
「なんか・・・隠し通路ばっかだな・・・。」
「そんなもんさ、世の中なんてな。」
3人は通路へ入っていった。
=シューデン隠し通路=
中は薄暗い一本道だった。
盗賊用の罠もいくつかあり、それを解除しながら進む。
外と完全につながっていなかったため、虫一匹存在しない。
ほどなくして、城下町の一角へ出た。
=王都シューデン=
「ここから先は俺が行く。」
「そんな!兄貴一人だなんて・・・。」
「ここから先は危険だ。
道を知らないならなおさらだ。」
「でも!!」
「ウルム君。」
リンネがウルムの肩に手をやる。
「姉御・・・。」
「私たちじゃあ足手まといだから・・・ね?」
「・・・・わかった。」
リンネはフォンを見る。
フォンは表情で<すまない>と謝る。
それがわかったのか、リンネは微笑む。
「そうだ、ついでだからコレを買っておいてくれ。」
フォンはメモを渡した。
それは、リーデニスが欲しがっていた宝石だ。
いつもはそれほど物を欲しがらないリーデニスが、やけにほしがっていた物だった。
「了解です。騎士長殿!」
リンネはいつもの笑みのまま敬礼する。
「行ってくる。」
フォンは隠し通路へ進んだ。
=王城=
「・・・。」
フォンは見張りが居ないことを確認して通路を入る。
あの晩、リーエーに見せられた記憶を頼りに通路を進む。
場所は魔具倉庫、そこへ行けば何かがわかるかもしれない。
ほどなくして魔具倉庫にたどり着く。
鍵を壊して中に入る。
そこには血痕以外何もなかった。
「もし、生きているなら・・・地下監獄か・・・。」
フォンは倉庫を出た。
突然、目の前に兵士たちが現れた。
「人殺しの次は窃盗ですか?」
そこに立っていたのは。
「シルヴァ・・・・やはりお前も・・・。」
文部大臣シルヴァが兵士たちの中心に立っていた。
「勘が良いのか頭が回るのか・・・さすがに鋭いですね。あなたは。」
「悪いがまだ確認することがある。」
フォンは鞘ごと構え、目前の兵士をなぎ払う。
「追いなさい。」
シルヴァはフォンを指差す。
兵士たちがフォンの後を全力で追いかける。
しかし、兵士達は重い鎧を着けているのに対し、フォンはコートと軽い服装だ。
さらに体力の差もあり、フォンはすぐに兵士たちを振り切った。
それでも息は上がる。
しかもここは敵のテリトリーだ。
他の兵士たちと鉢合わせになり、出会った全員を気絶させる。
「はぁはぁ・・・くっ。」
しばらく走った後、フォンはようやく監獄までたどり着く。
扉を打ち破り、階段を下りて牢獄を抜ける。
牢獄のさきは魔法牢獄。
部屋全体に魔法陣がはってあり、魔導師を閉じ込めておく場所だ。
フォンは魔法牢獄の扉を破る。
魔法陣が輝いている。
この魔法陣は対象を決定しないと効果を発揮しない。
魔法陣の光の向こうに鎖につながれた人影があった。
「リーデニス・・・?」
フォンはゆっくり歩み寄る。
剣を鞘から抜き、鎖を断ち切る準備をする。
魔法陣の中心にくると、剣の能力により魔法陣が解除された。
光がゆっくりと地に引いてく。
そしてその人影は肉眼ではっきりわかる姿になっていく。
「リーデ・・・ニス・・・。」
フォンは剣を床に突き刺し、ヒザを着く。
そこにつながれていたのはリーデニス・・・・の死体だった。
あの夜見た服装のまま、あちこちを切り刻まれている。
「リーデニス・・・。」
荒い息遣いでフォンは、リーデニスの亡骸をすがるように見つめる。
兵士たちが部屋に流れ込んでくる。
兵士達はフォンの腕をつかむ。
「リーデニス!!リーデニス!!!!」
フォンは亡き恋人の名を呼び続けた。
「リーデニス!!!!!!!!!」
兵士たちはフォンを魔法監獄から連れ出す。
剣が、まるで墓標のように突き刺さっている。
「フォン元騎士長の身柄を拘束しました!」
兵士はシルヴァに報告する。
「明朝の公開処刑まで牢獄に入れておきなさい。」
「は!」
兵士は敬礼すると走り去った。
「ヴァリクラの英雄・・・最期はあっけないものですね。」
「・・・・。」
フォンは牢獄の片隅で冷たい床を見つめている。
もう、何時間もたつ。
すでに、小さな窓からは月が見える。
コツコツと誰かが歩いてくる。
その足音はフォンの牢獄の前で止まる。
フォンはゆっくりと顔を上げた。
「・・・・貴様・・・。」
にらみつけるようにその男を見る。
「・・・。」
男はゆっくりと腰に手をやり、鍵を取り出す。
そして、無言で扉を開けた。
「着いてこい。」
男の顔が月明かりに照らされた。
「どういうつもりだ・・・ケリシリス。」
結構いい感じに話が進んでいる気がしますですよ。はい。
焦らずゆっくり、良い内容を更新していこうと思います。
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