迷いの森の狩人
イスカネ村はアーシャ村から南東に進んだ場所に位置する。
そこへ行くには国内最大級の樹海<ラーホネットの森>を抜けなければならない。
このラーホネットの森は別名迷いの森と言われており、まったく同じように育つ大木<ラーホネット>がみだらに立ち並んでいる。
「ここは息がつまるな・・・。」
フォンは鼻を押さえながら云った。
「そうですか?」
「あぁ・・・臭わないのか?」
「ごめんなさい、私今風邪気味で、鼻が利かないんです。」
「そうか・・・ある意味そのほうが幸せかもしれんな。」
ラーホネットは悪臭とまではいかないが、独特の臭いを放つ。
ラーホネットの木は魔具を作る際にはかかせない木だ。
それは、ラーホネットが放つ独特の臭いが炎にあらゆる追加効果を与えるからである。
追加効果を与えられた炎で鍛えられる鉄にも、同様の効果が出るのだ。
しばらく進むとラーホネットの森を抜けた。
迷いやすいといっても一直線に進めば迷うことはない。
それでも、この森が迷いの森と言われるのはこの樹海の第二層<レネゲイルの森>が存在するからである。
レネゲイルの木はラーホネットとは逆に、個々がまったく違う育ち方をする。
入り組まれたこの森は一直線に抜けることができない。
しかも、このレネゲイルはラーホネットの臭いを感知すると動き出すのだ。
風向きが悪ければ、この森を無傷で抜けるのは不可能である。
幸い、今日は風はない。
しかし、今放たれている体臭はラーホネットのソレだ。
鼻の利くレネゲイルに近づけばどうなるかわからない。
慎重に進む必要がある。
「ち・・・。」
案の定、ところどころの木が動く。
道行く道は姿を変え、何通りもある迷路のゴール地点はまだまだ先だ。
「なんとかならないのか・・・。」
「あの、あのあたりの木は枯れているみたいですよ?」
「そうか、極力枯れているところを進むか。」
枯れたレネゲイルの上を進んでいく。
長い時間を経て、二人はレネゲイルの森を抜けた。
あとは最終層である森を抜けるだけだ。
この森は様々な木が立ち並ぶ、いわば普通の森だ。
足元はドロドロの泥だが、レネゲイルの森よりも歩きやすい上にラーホネットの森よりも清々しい空気が漂う。
「おぉ!」
突然、上空から声が響いた。
「誰だ?」
フォンは静かに剣に手をやる。
すると、木の上から誰かが降りてきた。
手には、弓がある。
腰に矢束をぶら下げている。
「オイラ、フォン騎士長にあこがれてたんだ!
あんた、フォン騎士長だろ!?」
その少年はキラキラした目で云った。
「そうだが・・・。」
「やっぱりな!オイラの目は節穴じゃなかったぜ!!」
少年ははしゃぐと、いきなり額を地面につけた。
「頼む!オイラを隊にいれてくれ!
あ、いや・・・入れてください!!!」
「いゃ・・・。」
「嫌?」
「そうじゃなくて・・・だな・・・。」
フォンは戸惑う。
すべてが突然すぎて、穏便に話を進めるにはどうしたらよいのかさっぱりわからない。
「君、名前は?」
「すまねぇ、オイラはウルムってんだ。」
「ウルム君ね。私はリンネ、よろしくね。
どうしてウルム君はここに居たの?」
「オイラホームレスでさ、ここがオイラの家なんだ。」
「ホームレス?
家出したのか?」
「いや・・・オイラの家族は殺されたんだ・・・でも!フォン騎士長が仇をとってくれたんだ!!」
なるほど、とフォンは納得した。
怨敵を打ち滅ぼした恩人なら、自らをその配下に加えてくれと頼むには十分な理由だ。
「・・・。」
フォンはしばらく考え込んだ。
この手の事は、たとえダメだといっても無駄だ。
しかし・・・。
「俺は今や殺人犯だ。」
「知ってるさ!オイラはフォン騎士長のファンっだぜ!?」
ファンって・・・。
と小さくツッコム
「でも!オイラ、騎士長がリーデニスさんを殺すなんて思えないんだ!
きっと、誰かが罪を擦り付けたんだ・・・。
そうだな・・・リーエーとかは、騎士長のこと恨んでるけど・・。」
「!!!」
「ん?フォンさん?
どうしました?」
「ぃゃ・・・・ウルムと云ったな。」
「はい!」
「俺はおまえの保護者じゃない。
着いて来たいならそうしてくれてかまわない。」
「本当ですか!!?
やったぁぁぁぁぁ!!!!」
ウルムははしゃぎまわる。
「どうかしましたよね?」
リンネはフォンの顔を覗き込む。
「リーエー・・・・ソレを含む大臣達や皇帝陛下の本名は公表されていない。
それを知っているということは・・・。」
フォンは後ろを振り返る。
追っては来ていないようだ。
どうやらあの三人がうまくごまかしてくれているようだ。
「ウルム。」
「はい!なんですか?騎士長!!」
「ぁ・・・そのまず、騎士長はやめてくれ。」
「どうしてですか?」
「ぃや、変換しづらい・・・じゃなくて、俺はもう騎士長じゃない。
フォンでかまわない。」
「じゃあフォンの兄貴と呼ばせてください兄貴!!」
「(さっそく呼んでるじゃないか・・・。)
あぁ、それでかまわない。
ところで、リーエーの名をどこで知った?」
ウルムはフォンの前にビシッと立つ。
「オイラの家は元々貴族で、国の裏の情報を扱っていたんだ。
だから、少なからずオイラもそれに目を通しているんだ。」
「そうか・・・。」
「いつでも聞いて下さい!オイラが覚えていることならなんでも話やす!!」
「じゃあ・・・リーエーとつるんでいるヤツラに、どんなのが居る?」
「つるむ?」
「仲良しって意味よ。」
さりげなくリンネがフォローする。
「あぁ!え〜と・・・シルヴァとかケリシリスとか・・・・。」
「・・・。
そうか。」
「どういう方々なんですか?
そのシルヴァとかケリシリスって人。」
「シルヴァは文部大臣。ケリシリスは王族医師だ。」
(シルヴァとケリシリスなら、嘘の診断書も作れる・・。
もしかしたらリーデニスは・・・。)
フォンは歩き出した。
「行こう。」
「ちょっと待ってください。」
リンネはフォンを呼び止める。
「そのシルヴァって人とケリシリスって人ならリーデニスさんの嘘の診断書が書けるのでは?」
「確かに、文部大臣と医者なら・・・。」
ラルムは腕を抱え込む。
「わかっているさ。」
「では、王都にもどらないのですか?」
「・・・。」
「兄貴!もしかしたらリーデニスさんを救えるかもしれないですよ!!?」
「しかし。」
「しかし、なんですか?」
リンネは前に歩み寄る。
「まだ生きているかもしれないなら、確かめに行くべきです!」
「わかっている。」
「じゃあどうして?」
「この状態で戻るのは自殺行為だ。」
フォンは自分の身体を指差し、反対側の手で袋を持ち上げる。
「あ。」
「食料なし、身体はもぅボロボロだ。
一度イカスネ村で補給してからだ。」
「そぉ・・・ですね。」
先走った行動をした自分を恥じるようにリンネは顔を隠す。
「だったらオイラにまかせてくれよ!
あそこはオイラの第二の故郷なんだ!
いい宿を紹介しやすぜ!!」
ウルムはそう云って進みだした。
「騎士長」って一回で変換すると「喜志町」になるんです><
だから「きし」と「ちょう」で分けないといけないので非常に面倒です。
え?「ケリシリス」って名前の方がメンドウ?
大丈夫!彼(?)は今後滅多に登場しません^^ノ