指名手配
〜ヴァリクラ王城・王室〜
「父上!」
まだ14歳の幼い皇女が皇帝へ駆け寄る。
「フォンさまが殺人を犯したとは本当ですか!?」
「・・・。」
皇帝は黙っている。
「あのフォンさまがそんなことするはずがありません!
ましてや、婚約なさっていたリーデニスさまを殺害するだなんて・・・!」
「ニアス・・・。」
「父上?」
皇帝は皇女の肩に手をそえる。
「あのフォンが殺人などするはずがない。」
その瞳は言葉以上にフォンの無罪を主張していた。
〜アーシャ村〜
「もうお洋服のほうは乾きましたよ。」
「すまない。」
「いいえ。」
リンネは笑顔で畳まれた服を手渡す。
スープを飲んでいた手でそれを受け取った。
「世話になった。」
「もぅ行くんですか?」
「そのつもりだが。」
「そうですか・・・。」
「どうかしたのか?」
「いえ、では。」
フォンが立ち上がるのにあわせてリンネは立った。
「この村から南に下ると・・・。」
「イカスネ村だ。」
「ふふ、私よりも詳しいですよね。」
「いや、土地勘というのは地図上では図れない。
その土地に長く住んでいる者のほうが有利だ・・・戦場でもな。」
「私は・・・ここに住んでまだ数週間ですよ?」
リンネは笑みを絶やさず話す。
そんな少女につい見とれてしまう。
その容姿はやわらかで、日にあたって輝く長い金色の髪は神々しい。
「数週間?」
「はい、私、ここのお国の人間じゃあありませんので。」
「・・・。
違法移住者か・・・。」
「お役人に預けます?」
「今の俺にはそれはできない。」
「あら、どうしてですか?」
リンネは変わらず笑顔だ。
その表情からは、何も読み取れない。
「あんた・・・俺がわけありってわかってたのか?」
「真夜中に走ってくるんですもの。
普通の人じゃ、ないですよね。
でも、私、結構人を見る目があるんですよ?」
「じゃあ、俺はどう見える?」
「ん〜・・・何人も人を殺めてらっしゃいますよね?」
「あぁ・・・。」
「ほら当たった。」
絶えぬ笑顔で話す。
本当に純粋に推測が当たって喜んでいるようにしか見えない。
「あんたには・・・俺が婚約者を殺した犯罪者に見えるか?」
「見えます。」
即答だった。
その言葉を口にしたとき、彼女の笑顔はなかった。
「でも、あなたが直接殺したわけじゃ、ないですよね?」
「どういうことだ?」
「直接殺したのはアナタじゃない。
でも、婚約者のかたが殺されたのはアナタのせいではないのですか?
ヴァリクラの英雄さん?」
「俺の・・・せい?
・・・いや、そもそも俺が誰かわかっていたのか?」
「もちろんです。」
その言葉をきっかけに、リンネに笑顔が戻った。
「・・・。」
「どうか、なさいました?」
「いや・・・それじゃあ俺は行かせてもらう。」
「そう・・・ですか。」
リンネはなぜか寂しそうになる。
そして、はるかかなたを見つめる。
「それではお別れですね。
さようなら。」
笑顔で、しかし、寂しそうに云う。
「あんたも気をつけろ。」
「ありがとうございます。」
フォンはゆっくりと南へ足を進めた。
〜アーシャ村・南の門前〜
何かが引っかかる。
それは、このまま村を出てはいけないという第六感からの忠告。
ふと、後ろを振り返る。
村人が活気に満ちている。
この村では農業が盛んだ。
ここの市場には新鮮な果実が置かれている。
すると、一人の若者が走ってくる。
「大変だ!!王都から軍が!!!」
フォンはそれを聞いて駆け出した。
〜アーシャ村・北の門前〜
「貴様・・・この国の者ではないな。」
「あら、よくお分かりになられましたね。」
「その服・・・ガンデスか・・・。」
3人の兵士のうち、一番後ろの兵士が答える。
その兵士がリンネの前に立つ。
「国籍手帳をお持ちですか?」
「申し訳ありませんが、それは持っていないです。」
「そうですか・・・では、ご同行願います。」
「重なって申し訳ないのですが、私はここから動くつもりはありません。」
「この国では公務執行に賛同しない異国者は切り捨てることができてしまいます。
私としては、そのようなことはしたくありません。」
「どうして、そんな法律があるのですか?」
「乱世だからですよ。」
「そう・・・ですか・・・。
悲しい世の中ですね。」
「まったくです。」
「・・・。」
「ご同行・・・なさらないのですね?」
「ごめんなさい。」
兵士が剣を鞘から抜いた。
大きな動作で剣を振りかぶる。
リンネはゆっくりと目を閉じる。
「お覚悟を。」
剣は空を切って振り下ろされた。
轟音ともいえる悲鳴のような音が響く。
リンネはその音に驚いて目を開く。
「あなたは・・・!」
「っ・・!」
フォンは鞘で剣を受け止めていた。
兵士は同様している、それを見逃さず剣を押し返す。
「立てるか?」
「え?あ、はい。」
「逃げる準備をしろ。」
「え?しかし・・・。」
「早く!!」
フォンは怒鳴る。
「騎士長・・・。」
「なに?」
「騎士長!!」
3人の兵士はヒザをついた。
「お探ししておりました。フォン騎士長!!」
フォンは構えていた鞘を下ろす。
「騎士長!どうか、王都へお戻りください!」
「どういう意味だ?」
「はい、先日、騎士長が殺人の容疑で指名手配されました。
しかし、我々を含め、多くの者は、それが偽りであると信じております!」
「・・・。」
フォンは鞘を剣に戻す。
「騎士長!王都に戻られ、正当な場で無実であること証明してください!」
「悪いが、それはできない。」
「何故ですか!!?」
すると、いままで黙っていた兵士が口を開く。
「騎士長!あなたが無実であることも、リーデニス殿がハカリゴトによって命を落とされたことも皆が知っています。
しかし、騎士長がそれを公開して下さらねば、我が同胞は・・・。」
「すまない・・・。」
「騎士長・・・何故ですか!!?」
「コレは俺を良く思わない連中がおこした罠だ。
そいつらは・・・あまりにも巨大だ。
今戻っても、証拠がないかぎり、何も変わらない。
俺の処刑は現時点で確定しているも同然だ。」
「騎士長!何を弱気な!!
我らはその怨敵よりも弱小ということですか!!?」
「残念ながらな。」
「しかし、我々は騎士長から受けた恩を忘れてはいません!!
この命、いつでも騎士長にささげる覚悟!!!」
「気持ちはありがたい、しかし、今は戻れない。」
「そんな・・・。」
「しかし、必ず俺は戻ってくる。
それまでお前達は俺の代わりに陛下をお守りしろ。
敵の狙いはおそらく国。
陛下には一応助言してはいるが、ヤツラは陛下を亡き者にせんとハカリゴトを企てるだろう。
だから、俺が戻るまで、どうか陛下を守りきってくれ。」
「騎士長・・・了解しました。」
3人の兵士は立ち上がると敬礼する。
「アシュレッド・バニアス、騎士長閣下の命により皇帝陛下のお守りにの任につきます!」
「ヴォイス・アーノルド、騎士長閣下の命により皇帝陛下のお守りにの任につきます!」
「ミオーノズ・ガルバシュ、騎士長閣下の命により皇帝陛下のお守りにの任につきます!」
「頼む。」
3人の兵士は振り返り、王都へと戻っていった。
「すばらしい上官だったのですね。」
「俺がよかったんじゃない、部下の人柄が良いんだ。」
「そのようですね。」
リンネはクスクス笑う。
「助けてくださって、ありがとうございます。」
「どうしてここを動かなかった?」
「ここは・・・私の生まれた場所、なんです。
死ぬときはここがいいと思って・・・それで。」
「そうか、では行こうか?」
「え?」
「死ぬときはここへ来ればいい、しかし、あんたはまだ死ぬべきじゃない。」
「どうして、そう思うんですか?」
「勘だ。」
「勘?」
「あぁ、戦場では、意外に勘でどうにかなることがあるんだ。」
フォンはリンネに手を差し伸べる。
「俺とともに来てはくれないか?
借りも返したい。」
「・・・。
殺人罪の次は浮気ですか?」
リンネ笑いながら手を取った。
「よろしくおねがいします。」
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