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ヴァリクラの英雄

日は天高く昇っており、木陰で昼寝をするには最適の気温と風だった。

長く続く戦争の合間で、一瞬だけ訪れるこの平和なひと時は、日々前線で戦っている騎士にとって最高の時間である。

しかし、その時みる夢もが最高とはいえない。

思い出したくもない過去が、瞼の裏の漆黒の世界で描かれることもある。

「・・・。」

騎士はゆっくりと目を開けた。

木に背中をあずけて眠っていた。目前に鞘に収められた大きな剣を支える手が見える。

「フォン隊長?」

女性の声が聞こえた。

しかし、まだ完全に起きていない騎士長は返事をしない。

「フォン!!!!」

耳元で名前を叫ばれた。

「!」

ホワイトアウトしかけるのをこらえて意識を無理やり現実に引き戻す。

あのまま夢見心地でいたら本当に気絶しかねなかっただろう。

「起きた?」

女性は少々トゲのある言い方をする。

「あぁ・・・。」

騎士長フォンはゆっくりと腰を上げた。

「その神経を疑うわ。」

「なにがだ?」

「ここは戦場よ!?

いくら拠点とはいえ、ちょっと気が緩んでない?」

「睨み合いをしているだけだろう?

そんなに緊張感を高めてもギスギスするだけだ。」

フォンは言い捨ててテントへ戻ろうとする。

しかし、女性は捨てられた言葉を拾う。

「それが一国の兵士を預かる騎士長様の言葉?

確かに今は睨み合いの状態だけど、いつ敵が奇襲をかけてくるかわからないじゃない!!」

「今の状況で仕掛けてくるのはバカな軍師かアホな騎士長か気のたった女だけだ。」

「あのね・・・私は進軍しないことに怒ってるんじゃないの!

騎士長が分けのわからないことを他の兵士に任せて居眠りしていることに怒ってるの!!」

「わけのわからないこと?」

フォンはテントに入りながら尋ねた。

女性はそれを追いかけてテントに入りながら答えた。

「どうしてさっきから騎士たちに柵の点検とかテントの設置場所を微妙にずらさせてるの?」

「それだけか?」

フォンはイスに座って周辺地図を広げる。

「いいえ、一番云いたいのは、昨晩から一部の小隊が見当たらないんですけど?」

「ちょっと仕事を頼んだ。」

「仕事?」

「仕事。」

フォンは入れてあったコーヒーを飲んだ。

入れてから大分時間がたっていたので、すでにコーヒーは冷えている。

「仕事ってなに?」

「今何時?」

「聞いてるの!!?」

「まぁまぁ。」

フォンはコーヒーをテーブルに置きながらなだめる。

「・・・えぇと、今は13時23分。うわ!アンタ4時間も寝てたの!?」

後半は聞かず、フォンはテントの外に出た。

女性があわててそれを追いかけた。

「フォン?」

「さて問題です。

俺は昨日の14時からテントを微妙にずらすように言いました。

今どれくらいずれたでしょう。

わかるかな?魔道隊体長リーデニス殿?」

「え?えぇと・・・3m?」

「正解。」

「それが何?」

「じゃあもうひとつヒントだ。

ここに陣を張ってから何日たった?」

「1週間。」

「最後のヒントだ。

敵に関する有名な情報は?」

「敵はアーデラス。魔道戦術を得意とする。・・・ぐらいなんだけど?

あと漁業が盛んだとか、それくらいしか・・・・。」

「・・・わからないか?」

「??」

「魔道士の君ならわかるだろう?

遠距離魔法において、数CMの誤差は重大だと。」

すると突然、陣の端が爆発した。

それは遠距離の風魔法だ。

風魔法に巻き込まれたテントや柵は簡単に吹きとんだ。

「相手はバカな軍師か?それともアホな騎士長か?」

「何云ってるの!?早く衛生兵を!!」

しかし、フォンはリーデニスを無視して移動をはじめた。

「ちょっと!見捨てるの!!?」

「壊れたテント回収したってしかたないだろ?」

「バカ!!あそこにはまだ兵士が居るじゃない!!」

「柵の点検はテントの中身を移すためのカモフラージュ。

もぅあそこには何も残ってはいない。」

「え?」

リーデニスは呆気に取られる。

陣の目前がユラユラゆれている。

ここは草木が生い茂っている。さっきの風魔法でゆれても不思議ではない。

しかし、それにしては妙だ。

「奇襲が失敗したのを悟ったんだろう。

あそこには最初にわかりやすく火薬を運んだからなぁ・・・。」

風魔法の影響で気流が変わり、陣全体に風が吹く。

もし、火薬を運んでいなかったら、今頃陣は火の海だ。

舞い上がる風に髪は誘われる。

「魔道部隊に前方好きなところへ炎魔法を発射させろ。

全軍!魔道部隊の攻撃後、前進しろ!!」

フォンは声を上げていった。

「魔道部隊詠唱開始!!!」

リーデニスは叫んだ。

そして炎魔法が前方の草むらに放たれる。

ところどころに炎を舞い上がり、隠れていた兵士達は散り散りになった。

そこへ騎士が突っ込む。

兵士達は混乱する中、同胞の断末魔を聞いてさらに乱れる。


〜アーデラス軍・本拠地〜

「ご報告します!魔道隊の風魔法は失敗!

我が軍は敵陣前にて奇襲を受けております!!」

騎士長を剣を取った。

「ヴァリクラの英雄フォン・カマスティン・・・見くびるつもりはなかったがな・・・。

私も出る!

第2から第5小隊は私に続け!」

騎士長は竜にまたがり戦場を突っ切る。



〜ヴァリクラ軍・本拠地〜

「伝令!敵陣より多数の援軍を確認!!」

「全軍本陣まで撤退。」

「は!!」

リーデニスは納得がいかないと云わんばかりに講義した。

「撤退?」

「撤退。」


ほどなくして全軍が撤退した。

アーデラス軍はこれ幸いと撤退、後ろから来る援軍と合流する。

「これは・・・。

フォン・カマスティン!!出て来い!!私と一騎討ちをしろ!!」


「意外だったな、気の立った女の方だったか。」

フォンはゆっくりと足を進めた。

草むらは焼け、アーデラスの兵士の遺体が転がっている。

「我が同胞のカタキ・・・私が討ち取ってみせる!」

「一騎討ちを申し込まれた以上、不当な行為はいたしません。

後ろをご覧ください。」

フォンは丁寧に後ろを指した。

後ろを振りむいたアーデラスの兵士の士気は落ちた。

見れば、さっきまで居た本陣が燃え上がっていた。

「どういうことだ!?」

アーデラスの騎士長がフォンを問いただす。

「昨晩から伏兵を忍ばせておりまして。」

「貴様・・・!」

「私は無意味な殺しをしたくはありません。

降伏してください。」

「・・・。

全軍、武器を捨てろ。」

アーダラスの騎士長は命令を下した。

その命令に背くものはなく、全員が武器を捨てた。

「しかし・・・。」

アーデラスの騎士長は竜から降りて焼けた地面の上に立った。

「一騎討ちは受けてもらう。

我が同胞がうけた無念、すべて私が引き受ける!!」

「死ぬ覚悟をした相手が、たとえ女であっても手加減はしないぞ?」

フォンはゆっくりと大剣を抜いた。

「アーデラス王国騎士長リバリー・アキュレル・・・参る!!」

リバリーは焦げた土を蹴り上げた。

上から下へ振りかざされた剣をフォンは剣を横にして受け止める。

切っ先を地面に向けて、まだ勢いのある一撃を受け流す。

そして、受け流した体制のまま横から切り込む。

リバリーは抵抗することもできず、横腹に一撃を受けた。

フォンは動きを止めることなく縦に一撃を決める。

そして、そのままヒジを腰の後ろまで引き、右足を軸に構える、剣は地面と平行にあり、切っ先はリバリーの身体の中心を指す。

「龍砲斬!!」

勢いよく突き出された剣から突風が起こり、その突風はリバリーを切り刻む。

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

リバリーは吹き飛ばされ、無残な姿で焼けた地面に倒れこんだ。

断末魔の叫びがまだ燃えていない草むらを揺らす。

「これが・・・ヴァリクラの英雄・・・。」

「強すぎる・・・。」

アーデラスの兵士達は口々にフォンを称えた。

フォンは地面にヒザをつき、剣を地面に突き立て、今日死んでいった者たちへ祈りをささげた。

そして、取り残された兵士たちへ視線を向けた。

「アーデラス騎士長は今死んだ。最終防衛線となっていた本拠地も落ちた。

よって戦争は事実上、終戦となる。

しかし、まだ紙の上では戦争は続いている。

ゆえに、君たちは捕虜扱いとなる。

アーデラスの偉大なる騎士長リバリー殿から預かった君たちの命、故意に傷つけたりはしない。」

そういってフォンは怪我人の治療を衛生兵に任せた。


「・・・。」

「お疲れ様、すごかったよ、あんな一方的な勝利、見たことない。

多分、歴代の一騎討ちの中で最速なんじゃない?」

リーデニスはフォンにコーヒーを差し出す。

「あぁ・・・。ありがとう。」

フォンは差し出されたコーヒーを受け取り、水面を眺めた。

「俺が強いんじゃない。

あの人は死ぬつもりで突っ込んできたんだ・・・あんなもの、すでに一騎討ちどころか、戦闘ですらない・・・。」

コーヒーの水面に写る自分の姿が揺らぐ。

(何故・・・俺はこんなことをしているのか・・・。)

どうでしたでしょうか?

今回は第一話から13年後の話です。

次回はまぁ・・・戦闘ないですね^^;

特にイベントないです^^;

でも四話はこうご期待!!



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