ポイズンミスト
「はい、これが今回の台本ね。」
女の子が青年に一束の書類を手渡した。
「・・・ちょっと待て。」
「ん?ボクが作った脚本に何か文句でもあるの?」
「冒頭でこんなセリフ云わないといけないのか!?」
「あったりまえじゃ〜ん♪」
女の子は手を突き出して親指をたてた。
「〜〜〜。」
青年は頭を抱えた。
=アルヴァニカ大聖堂前=
「ここで薬を買ったら出発だ。」
フォンは薬屋の前で振りかえって云った。
「船が出んのは夕方だろ?それまで自由行動でよくないか?」
ウォンカが手をヒラヒラさせながら云う。
「心配だ。」
「何がですか?
別に迷子になるようなことはないと思いますよ?」
リンネが一歩前に出る。
「そうじゃない。
待ってても災難がきそうなものを・・・別行動をとったらよけい展開が嫌な方向に向きそうだ・・・。」
「確かに・・・。」
ウルムが賛成する。
「ここ最近、事件ばっかりでしたからねぇ〜。」
フォンはそのまま店へ入っていった。
その時、町中が紫色の霧に覆われていく。
「フォンさん!」
リンネの叫び声にフォンは慌てて振り返る。
目の前で人々が倒れていく。
「うっ・・・気分悪い・・・。」
ウォンカが手で口を覆う。
「ちっ。」
フォンは腰のカードケースから一枚のカードを取り出した。
それを地面に叩きつけると魔法陣が形成された。
「ここに入れ!」
魔法陣の中には霧が入ってこない。
「ここまで大掛かりだと、準備にそうとう時間かかってるだろぉ〜なぁ・・・。」
ウルムが魔法陣の前を漂う霧を見ながら云った。
その一言にフォンはハッとする。
「そうか・・・フォーデングリフはこれを隠すためのカモフラージュか・・・。」
フォンは可能なかぎりあたりを見渡す。
所々の隅に魔法陣が見える。
「してやられたな・・・。」
「あの。」
「ん?」
「これ、どういう魔法陣ですか?」
「すまない、そこまではわからない。」
ウォンカが会話に割ってはいる。
「これ多分酸化魔法だな。」
「酸化魔法?」
「あぁ、鍛冶師なら最初に覚える下級魔法だ。
別名ポイズンミストって言うんだがな。
鍛冶師はこの魔法をリサイクルの時に使うんだよ。」
「リサイクル?」
「あぁ、一旦剣とかに使われてる鉄を酸化させるんだ。
そしたら朽ちる。そんで剣に宿されてた魔法が消えるんだ。
魔法かかったまま他のと混ぜると何が起きるかわからないからな。」
フォンは聞き終えると町の人に目線を向ける。
「その酸化魔法で人が倒れたりするのか?」
「云ったろ?別名ポイズンミストだって。
死にはしないけど、結構長い間失神状態になるな。」
ウォンカはハンマーを構える。
フォンとウルムも武器を構えた。
いつどこから敵が襲ってくるかわからない。
シーラもいつでも詠唱できる構えをとる。
リンネは一人であさっての方向を見ていた。
しばらくして勝手にポイズンミストが引いていく。
アルヴァニカ大聖堂の屋根の上に人影がちらつく。
「誰だ!?」
ウォンカは叫んだ。
「我が名は疾速の雷神ルーベン。
我が天命により、汝らに裁きを与えるものなり。」
「・・・・。」
「・・・・。」
「・・・・。」
場が凍りついた。
ウォンカは呆れたように口火をきった。
「あんた・・・それ云ってて恥ずかしくないのか?」
「・・・・。
軍師殿の脚本になければ言わないさ・・・!」
「軍師?」
ウルムが弓を下ろしながら聞く。
あの一言で全員の殺気は消えたのだ。
「はい!そんなわけでミフレコンデスの軍師!シャーリーちゃん登場!!」
屋根の上で小さな女の子が飛び出してくる。
「うわ!」
女の子は屋根から滑り落ちそうになる。
すかさずルーベンは彼女を支えた。
「おんな・・・・のこ?」
「ひど!
これでも18歳だよぉ〜!!」
シャーリーはスッと体制を立て直す。
「えぇ!オイラより年上!!?」
ウルムは素直に驚く。
外見はどっからどう見ても10歳前後だからだ。
シーラと同い年にしか見えない。
「それで?一体何が目的だ?」
フォンは冷静に質問する。
シャーリーはキョロキョロあたりを見渡す。
「ん〜・・・なんていうかですね。
そこの少年Aをさらいに来たのですよ。」
シャーリーはウルムを指差した。
「!!!」
「は?なんで?
まぁ理由なんざどーでもいいか。
仲間かどわかそうってんならボッコボコにしてやらぁ!」
ウォンカは再びハンマーを構えた。
「あそこのハンマー君が戦うみたいだよ?」
「そのようだ、俺に勝てるつもりでいるとはな・・・。」
ルーベンは細剣を構え、その切っ先をウォンカに向ける。
「へ!ロリータ引き連れてる変体なんざに負けるか!!」
「カッチーーーン!
幼女ってボクのこと!?
許せない!!ルー君やっちゃえ!!
あ、でも殺しちゃだめだよ?」
「(幼女性愛好家か・・・否定できそうにないな・・・。)行くぞ!!」
ルーベンが一歩歩み出る。
「かかってこいよ!!
こっちには必殺の切り札があるんだ!!」
「切り札?」
ルーベンは踏みとどまる。
「なんせこのフォンはなんでも消しちまうんだからな!」
「馬鹿よせ!!」
「ほぉ・・・。」
フォンは慌ててウォンカをとめようとしたが遅かった。
「おまえもフィールド・オブを持つ者か・・・。」
「・・・だったらなんだ?」
「消す・・・削除・・・フィールド・オブ・デリートか?」
「勝手に思ってろ。」
「そう隔靴するな。
俺はフェアでないと気に食わないのでな、俺のも教えてやる。」
ルーベンは右腕の甲を見せた。
そこに黄色い紋章が浮かぶ。
「俺のチカラは雷撃だ!『疾走しろ!!』」
叫ぶと同時に雷撃が繰り出される。
通常の雷撃魔法は何度も折れ曲がって目標にたどり着く、しかし、コレは一直線に対象へ向かって飛んでくる。
「おまえの使用条件は満たされているか?使わなければ死ぬぞ。」
「ふん。」
まっすぐ飛んでくる黄色い閃光を、フォンは剣で雷撃を退けた。
「あいにく、電撃の扱いは慣れていてね。」
「・・・。
なるほど。」
ルーベンは屋根から飛び降りる。
そしてフォンに斬りかかる。
フォンはそれを受け流した。
そしてしばらく奮闘が続く。
数分の間、静かな町には剣の擦れ合う音が響いた。
そして、その高い金属音を、少女の声がかき消す。
「お〜いルー君!!台本読んだ?
もうお帰りの時間だよ?」
ルーベンは十分フォンから間合いを開くと、ポケットから何回も折った紙を取り出す。
「・・・捕獲失敗・・・って、おまえ最初から成功する気ゼロかよ。」
「えへへへへ、ごめんごめん。」
シャーリーは笑顔で謝る。
「じゃあな。」
「まったね〜〜〜♪」
2人はそのまま消えていった。
「・・・。」
フォンはウォンカに歩み寄る。
「馬鹿が!」「ぐぅぁ!!」
ウォンカの頭上にゲンコツが振り落とされた。
「フィールド・オブはチカラがわかると対処できるんだ!
むやみやたらに敵に教えるな!!」
「そぉなのか!?」
「当たり前だ!!
万物に勝利するチカラなんかあるわけないだろ!!」
そこへリンネが歩み寄る。
「ちなみにその対処方法ってなんですか?」
「俺のとルーキアスのは教えるとこの馬鹿がまた口走りそうだから云わないが・・・いや、ルーキアスはいいか・・・。
とりあえずさっきのルーベンってやつが使ったのはおそらくフィールド・オブ・ライトニング
絶縁物以外の全てに電気を走らせるチカラだ。
物は全て電気の通しやすさが異なる。
電気を通しやすい金属を振りかざせばあいつのチカラは無効化できるんだ・・・・。」
「それで、ルーキアスさんのは?」
「あれか・・・・アイツのは発火物以外には火をつけれないってことさえ知ってればいい。
水とか鉄とかはあいつでは燃やせない。」
「へ〜・・・なるほどなるほど。」
リンネはわざとっぽくうなずく。
「?」
それはウルムへの気遣いだった。
リンネは2人の意識がウルムに向かないようにしている。
ウルムは地面を見つめたまま立ち尽くしていた。
シーラが心配そうに隣で立っている。
「・・・・くそ。」
ウルムは弓を握り締めた。
最近やっと気がついたのですが、どうも私は描写を箇条書きにするクセがあるようですね。
ちょこちょこ修正して行こうと思います。