革のコート
婦人は毎年仕立て屋で革のコートを作ってもらう。
婦人は金にものを言わせ、珍しいコートを集めるのが趣味だ。
「ご主人、今年は誰も持っていない、本当に珍しいコートを作っていただけない?
毛皮は飽きたわ。ミンクもフォックスも、アザラシも虎も持っていますの」
「奥様、クロコダイルはいかがでしょう? 艶々して、ひときわ目立ちますよ?」
「そうねぇ……、ワニ革のバッグなら、どこにでもあるでしょ? ついでに言うなら、パイソンもオーストリッチも牛革も持っているわ。
もっと、皆をアッと言わせる、珍しい革のコートが欲しいのよ」
「分かりました。奥様。一週間後にアッと言わせるコートを作って、お待ちしております」
「宜しくね」
一週間後、婦人が仕立て屋を訪れると、トルソーに見たこともない色のコートが掛けられていた。
「まぁ、素敵。見たことのない色ね。紫色の中に、桃色や茶色が混ざって……。肌触りもしっとりとしている」
「奥様、お気に召したのなら羽織ってみてはいかがです? 」
「そうね。鏡で見せていただける? 」
婦人は革のコートをはおり、鏡の前で回って見せた。
「まぁ! ぴったりと吸い付くような着心地ね。
ご主人、この革は何で出来ているのかしら? 」
仕立て屋は婦人の質問に答えず、一方的に話し始めた。
「奥様、人間の皮膚って素晴らしいと思いませんか?
頭の先から足の先まで一枚の皮で出来ております。
どこにも継ぎ痕がないのですよ?
それに、瞼と尻では厚みが全く違うでしょう。
日に焼ければ黒くなったり、何処かにぶつければ、赤くなったり青くなったり黄色くなったり……」
それを聞いた婦人は、急にコートを脱ぎ捨て、
「お代は差し上げるわ。でもこのコートは処分して」
と、代金を支払い、青ざめた顔で店を出た。
仕立て屋は、婦人が置いていった大量の札束を数えながら
「豚の革は売れないが、高額なお代は頂ける」
と、ニタリと笑った。