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第2夢

身を切るような冷たい風に、俺は肩を縮こまらせた。


俺の、研究。俺の、夢。

俺のすべてがそこにはあった。

そして今、そのすべてが無くなった。


ケーキを売る女性の声。街をごった返す人々の足音。店先から聞こえる軽やかなメロディー。

どれもみな自分とは関係のない物事だ。



小さいころ、自分は何者になるのだろうと想いを馳せた。

人に夢を与える仕事がしたい、そう思うようになった。

いつしか文字通り、「夢を与える」人間になろうと決意した自分がいた。

大学では医学を学んだ。精神科医になるつもりだった。

院を出たのち大学の附属病院へ移り、臨床的な研究を進めていた。

『人が見る夢には、どのような意味があるのか。』

『人体にどう影響を与え、精神にどう作用するのか。』

『任意の夢を見ること、見せることは出来ないのか。』

『夢による治療は行えないのか。』


まさに夢のある仕事だと、俺は信じていた。夢による治療でうつ病患者の症状を和らげたり、成人病を予防したり。そんなことができればこの世界の医学が変わる。そう確信していた。


だが、世間の考えは俺のそれとは違っていた。

『夢の研究?そんなものに金を使って欲しくない。馬鹿げている。そんなもので病気が治るわけがない。』

厭世的だなぁと思う。本当に夢がない。


だからこそ、決定的な研究成果をあげ、夢療法に対する世間の認知と理解を底上げする必要があったのだ。そして実際、研究はかなりうまくいっていた。ある条件下において患者に任意の夢を見せることが出来ることを証明できたし、見せた夢による効果だと期待できるデータをいくつも取ることができた。


勝ったと思った。倫理的な問題は山積みなうえ、賛否両論になることは火を見るより明らかだったが、少なくともこの療法と、そして「夢」そのものに人々の意識を向けることができる。



浮足立つ思いで論文をしたためていた。



その矢先。

簡素な文章によりこの研究の停止命令が下された。

どうして、なんで、何故。単純な疑問に頭は氾濫していた。

俺は上層部に何度も食い下がったが、聞き入れてもらうことができなかった。

たった一枚の紙切れが、たった数百の言葉が

俺の夢を粉々にしてしまった。




回想から顔を上げぐっと歯を食いしばると、反動で涙が零れた。

負けて泣くなんて何年ぶりだよ、まじ小学生かっつの…。


こんな惨めな様を誰かに見られたくなくて、ネオンから逃げるように人気のない路地へと入った。



場所を変えて同じことを再びやればいい。そうさ。もう一度、何度だって。認められるまで。

前原の言うように「なにも死ぬわけじゃないんだから。」




なにも、死ぬわけじゃ、




___________________________________


現代日本,東京,

12月22日,

19時37分57秒,

凍結した路面をスリップした乗用車が、うら若き青年を直撃,

青年は即死

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