空腹感
異常な空腹感に襲われて目を覚ました。
部屋の中は薄暗く、差し込む光もない。まだ、深夜なのだろう。
ふたたび眠ることができればよかったのだが、空腹にたえることができそうになかった。
ボクは、ベットから起き上がり、カーテンの隙間から顔を出す。
庭には大きな木があり、この部屋は二階にある。そのおかげで部屋の窓の外に木の天辺が来る。
深夜の暗闇の中で、たっぷりと緑の葉っぱを蓄え青々と輝いて見えた。
ちょうど手を伸ばせば届く位置だ。
窓をすこしだけ開ける。
手を伸ばし、数枚の葉をちぎった。そして、クチへ運ぶ。
緑黄色野菜のような特有の苦みのなかに、わずかばかりの甘みが感じられた。
じっくりと租借をして飲み込む。
もう一枚――と手を伸ばす。
だが、すぐにその手を引っ込めた。
窓の外の、視界の端になにかが映ったのだ。
カーテンの陰に隠れて外を観察する。
よくみると家の塀に人が隠れていた、この家の玄関を見張っている。
こちらにはまだ気がついていないようだ。
「夜襲だッ!!!」
家の中へ向かって叫び、ボクは急いで机の引き出しからスイッチを取り出す。
黄色と黒色の斜めストライプのふちどりがされた大きく丸い押しボタンの付いたものだ。
そのうえには、間違って押さないようにプラスチックのカバーがされている。
思い切り殴りつけてカバーを叩き壊し、その勢いのままスイッチを押した。
とたんに家じゅうに大音量の警報が響き渡る、家の窓やドア、換気扇に至るまで、すべて外部とつながる場所はシャッターが下りた。
部屋を出て階段を下りる。
居間では、父はパジャマの上から西洋甲冑を身にまとい、母はシーツ一枚を体に巻きつけていた。
逃げる準備は万端のようだ。
「家の外に奴らがいるよ父さん」
「わかってる、こっちだ来い」
母は手をヒラヒラさせて寝室へ戻り、ボクと父は台所へ向かう。
一足先に台所にはいった父が大きな食器棚を蹴り倒した。そこに隠し扉が現れた。
扉をひらくと内部は、先の見えない真っ暗な坑道だった。
坑道へ父が駆け込む、追うようにしてボクも後に続く。
隠し扉を閉じるのと同時に、玄関の扉が蹴破られ人間がなだれ込んでくる音が聞こえた。
「お前らごときにオレが捕まえられるわけないだろ」
西洋甲冑をガッシャンガッシャン言わせて走る父が高らかに笑った。
――ここで父を転ばせたら自力では起き上がれないだろうな。
ボクは父の足へ自分の足をからめてみた。