リア充は俺の理解を越えてくる
「アイキス」
それは現在話題沸騰中の魔法少女に巻き込まれる系ハーレム日常コメディファンタジー美少女萌えラノベの事だ。……ジャンルが広すぎる? 最近の萌えアニメは大抵こういうものだから仕方が無い。
簡単なあらすじはこうだ。
僕は晴無 中! ひょんなことから魔法生物に襲われちまった俺は魔法少女に助けられて実は俺は魔力を無限に持つ無限魔法源泉の能力があるのが分かっちまった! 俺を守る為に魔法界からきた6人の魔法少女と同居する事になったんだが……⁉︎ 魔法少女に巻き込まれる系ハーレム日常コメディファンタジー美少女萌えラノベ! アイキス! 毎週火曜夜25:30からアニメ化も始まるぜ!
ちなみに25:30というのは午前1:30のことである。
兎にも角にもこのアイキスとは少なくともこいつのようなリア充が読んでいていい本ではない。むしろ最も軽蔑するであろう種類のものだ。
「舞ちゃーん……、えへへ……」
どうしようこのリア充キモい。俺よりキモい。
「……とりあえずお前どうしたんだ? 前までそんなオタクじゃなかっただろ」
「俺はただアイキスの素晴らしさを知っただけだ! それだけなんだ!」
「お、おう?」
そんなに必死ってどんだけ好きなんだよ……。
「お前だって好きだろ、アイキス!」
「いやぁー……それほどでもないかも」
俺が好きなのは萌えよりも燃えだ。更に言うならロボットだ!
「ほ、ほぁぁあぁ⁉︎」
「人語を話せ人語を」
お前はブルース・リーか。
ってかほら変顔しないのあっちに座ってる女子高生がなんか見ちゃいけないもの見た顔してるじゃん。
「あんっなに素晴らしいラノベをなんで読まない! ほら、1巻から5巻まで貸してやるから」
そう言って鞄から本を5冊取り出す修也。普段から持ち歩いてんのかよ……。
「おいおい待て待て! 一気にそんなに渡されても読めるかって! 大体もうすぐ修学旅行だろ?」
「勿論修学旅行にも持っていくに決まってるだろ?」
「おい、ちょ、待てバカ!」
んなことしたら大変な事になるに決まってんだろうがアホ! 女子はビックリしてトラウマになりかねないし、男子だってリーダーを失ってカオス状態。何よりも修也がイジメに遭う危険性だってある。スクールカーストというのは上は脆く、下は強固に出来ているんだからな!
兎に角、だ。
「おい、その趣味の話って他の誰かにしたか?」
「ん? ああいや、お前が初めて」
「じゃあもう誰にもしない方がいい! 分かったか?」
「お、『だーれにも内緒、なっいしょっのはっなし!』ってヤツだな⁉︎」
ネタはやめなさいっ。ちなみに魔法少女舞が言った言葉である。
それからバスに揺られて10分弱。俺と修也は他愛ない話(アイキスが8割だったが)をして過ごした。
「あ、俺このバス停だわ。じゃあな!」
「お、おい! 趣味の話、絶対にするなよな!」
「分かってる分かってるー! じゃあなー」
全く、能天気な奴め……。絶対に重大性に気付いてないな……?
ふぅ、と座席に深く座りなおして息を吐く。あいつと話しているとなんというか毒気を抜かれるような気がする。そこがあいつが人気な理由なんだろうか。
「……アイキス、帰ったら少しだけ読んでおこうかな」
そんなことを思ったりする帰り道なのだった。