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30分小説

怒り

作者: 雨月 嶽

俺は非常階段で仰向けに倒れていた。

俺は別に、寝転がる趣味は無い。

もうひとつ言わせてもらえば、右の頬が赤く腫れているのがわかる。

何故か、答えは簡単だ。


―――ケンカに負けた


その一言に尽きる。

理由は単純明快、俺が臆病だったからだ。

そう、臆病だった……

言い訳にすらならない。

そして、俺には力があった。

ケンカに勝つための技量があった。

それなのに負けた。

あいつらに負けたわけじゃない。

己の臆病さに負けた。

怖かった。

彼女に戦う姿を見られるのが。

また、おびえた目で見られるのが怖かった。

結果彼女はあいつらに連れて行かれた。

彼女は俺を守るために自らを差し出した。

彼女に、彼女の心に俺は負けた。

悔しいなんてもんじゃない。

彼女は強かった。

目に見えて震えていたのに。

涙をその瞳に湛えていたのに。

あいつらよりもはるかに勝っていた。

俺よりもはるかに強かった。


……ニクイ


他の何よりも、あいつらに負けたことよりも、彼女に守られた事よりも、


……ハズカシイ


己が、いかに無力で弱かったかを思い知らされた。


……クヤシイ


己の心の弱さが、同じ過ちを繰り返すかもしれないと、恐れていた自分がこの上なく


……ニクイ、ハズカシイ、クヤシイ


だから、今度は勝つ。

あいつらに勝つことはもちろん、彼女にも、そしてなにより自分に、


勝つ


この、形容しがたいモヤモヤもイライラも全て己の臆病風を押さえ込むために使う。

抑えるは己の臆病さ


安全を捨てろ、さもなくば失う


行使するは己の力


恐れるな、静かに憤れ


されどその憤りは己に向けろ


勝つ


その一点にのみ、心を向けろ


勝つと……

いや、負けないと決めた。

彼女の笑顔を守るために、俺はいくらでも汚れよう。

心に決めた

もう後戻りは出来ない。


反省は終わりだ、己の無力さを呪うのも、己の力も恨むのも、全て後回しにする。

全ては、負けないために。



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