第8話 空に愛されし才能
「――そして、“黒キ影”は死亡すると、その名の通り影のように消え去りますが、核だけは残るのです。本来、死亡した“黒キ影”の核は咒力の出力が弱くて使い物にならないのですが、ある特殊な処理を行うことにより、本来の1/10程度の力を引き出すことができる技術が確立され――」
「―――あ、あの!!」
その後も延々と説明を続ける試験官に対し、悪いとは思いつつも口を挟んだ。
「はい?どうしましたか?」
「あの、そろそろ適性検査を始めたいようです……」
ちらっと目の前の試験官の後ろに目をやると、そこには呆れたような顔でこちらを見ている、他の試験官たちの姿があった。
さらにその後ろには、白衣を着た人たちの姿もある。
6時間もの試験になるので、おそらく体調が悪化した際に備えて医療スタッフを配置しているのだろう。
「――失礼しました。どうやら、みんなを待たせてしまったようですね。」
「いえ、こちらこそ!色々と教えていただきありがとうございます!」
俺は慌てて御礼の言葉を口にした。
その後、試験官から体調が悪化した際は遠慮なく申告するように念押しされ、その他の注意事項を案内された後、いよいよ航空祈動士の適性検査がスタートした。
「では、適性検査を開始します。30秒後に装置を起動させますので、自然体で待機してください。」
その試験官の言葉からちょうど30秒後、赤い水晶が明滅し始めた。
すると、前回と同じ高揚感が全身を支配し、俺はほぼ無意識に近い形で宙に浮いていた。
「おおっ」と周りにいる試験関係者から声が上がる。
――心が満たされる
――この世界に来てから、ずっと感じていた不安感が綺麗になくなる
――今なら何でもできそうだ
俺は試しに、その場で身体の上下を入れ替えてみた。
頭を下に、足を上に。
天井が下になり、床が上になる。
次は、縦に8の字で飛行してみる。
回転に合わせて、景色が目まぐるしく入れ替わった。
――自由だ。
空を飛ぶ鳥は、これほどまでに自由なのだろうか。
そう思いながら、好奇心の赴くままに色々な態勢を取っていると、試験官が手にした書類が床に落ちたことにも気付かず、真顔で俺のことを見ていた。
俺と目線が合う。
気分が高揚していた俺は、思わずピースサインで、それに応えた。
6時間の検査はあっと言う間に終わった。
結論から言うと、俺は航空祈動士としての適性ありと判定された。
いや、適性ありというよりも――
「最初からあそこまで自由に飛べる受験者を初めて見たよ。6時間経っても顔色一つ変えないしね。君は、航空祈動士になるために生まれて来たのかもしれない。」
そう、試験官は太鼓判を押してくれた。
これで海軍航空祈動学校に行ける。全寮制ではあるけれども、心の支えである姉ちゃんと同じ街で暮らすことができる。
そして、祈動の才能を生かして、“黒キ影”で苦しむ人たちを、姉ちゃんを守るんだ――
俺の心の中を、喜びと期待が満たした。
俺が航空祈動士の適性検査に合格し、地元の横須賀にある海軍航空祈動学校への入学が事実上決まったことを報告すると、仕事から帰宅した姉ちゃんは、まるで自分のことのように喜んでくれた。




