第30話 空に舞う
遠藤の次に常盤とも模擬戦を行ったが、こちらも開始30秒ほどで決着を付けることができた。
悪いが、俺の勝利である。
「うっわー。広瀬くん、強すぎるって。さっきの遠藤くんとの模擬戦を見て、私なりに対策を考えたつもりだったんだけど……」
常盤が悔しそうにしているが、俺も決して驕り高ぶったりはしない。
常盤がそうしたように、先ほど遠藤と会話した内容を取り入れて、射撃のタイミングなどを工夫したつもりだ。
「黒川教官に比べれば――って、俺みたいなひよっ子が比べるのも失礼か。俺もまだ未熟だよ。」
空中機動演習の際に見せてもらった黒川教官の空中機動は、はっきり言って訓練生とは別次元だった。
もはや何機動と呼べば良いのか分からない複雑な動きにより、気が付けば運動場の端から端に移動し、空中から消えたと思ったら目の前の地面に直立していた。
マジで、黒川教官の空中機動は瞬間移動としか呼べないぞ……
しかし、そんな黒川教官でも、“黒キ影”との戦闘で右眼を負傷したのだ。
俺ごときが驕り高ぶっている暇など、どこにもない。
祈動銃を用いた模擬戦も、いよいよ最後のペアとなった。
俺の相手はもちろん、最後に残ったターシャである。
「ふふ、志道くん。お手柔らかにお願いしますね。」
「そんなこと言って、ターシャも空中機動が得意なこと、俺は知っているぞ。」
俺は少しだけ苦笑いしながら答える。
訓練生の同期21名のうち、他のやつらには申し訳ないが、空中機動において頭1つか2つくらい飛び出ている訓練生が3人いる。
俺とターシャ――そして、忌々しいことに神崎である。
俺は、ターシャと神崎以外には、余程のことが無い限り負けるつもりは無いが、ターシャと神崎だけはどう転ぶか分からない。
気を引き締め直して臨もう。
「では、最後の模擬戦を開始する――」
黒川教官がホイッスルを咥えた。
俺とターシャは、お互いに100mほど離れた場所で互いを見つめ合っていた。
ずいぶんと離れているように感じるが、祈動で加速すれば一瞬である。
そして、模擬戦開始の合図を待った。
『ピィィィィ―――!!』
ホイッスルの音が聞こえた瞬間、最大加速でターシャに接近する。
だが、向こうも同じ考えだったのか、衝突しそうになり慌てて互いに進路を変える。
俺は上に、ターシャは下に。
俺は、位置エネルギーも利用しつつ、下を飛行するターシャにペイント弾の雨を振らすが、ターシャは地面すれすれを飛び、S字機動で全て回避する。
――やっぱり、ターシャは別格だ。
他の訓練生であれば、現在の技量で同じことをすれば、地面に激突して模擬戦は終了していただろう。
しかしターシャは、地面から1mくらいの位置を保持したまま飛ぶことができている。
そして、まるで燕返しのように進路を180度変えて、再び俺の方に接近してきた。
ターシャが持つ祈動銃が光る。
「―――くっ!!」
今度は俺が地面に向かって飛翔し、ペイント弾を回避する。
そして、地面を蹴り上げるかのように進路を反転させ、ターシャの真下から射撃を行う。
しかし――
「嘘だろ!?」
ターシャは、まるでその場で踊るかのように身体を最小限の動きで移動させ、ペイント弾を躱した。
それは、まるで蝶が舞うかのような、優雅な動きだった。
不用意に接近する形となった俺に、ペイント弾のお返しが来る。
ターシャほど優雅ではないが、俺もその場で宙返り機動を行い、かろうじて射線から逃れることに成功した。
あと50cmズレていたら直撃していた。
そして、ここに至って、俺はターシャのさらなる才能に気がつく。
「射撃センス、良すぎだろ……!」
空中機動は互角か、俺の方がやや上だが、射撃センスは間違いなくターシャの方が上だ。
俺は、事前に予想していたよりも遥かに難敵であるターシャを前に、ゆっくりと口角を上げた。




