第28話 祈動士の武器
祈動学校の生活にもすっかりと慣れてきた5月中旬、十数回目となる祈動戦闘訓練の教練が行われた。
祈動戦闘訓練とは文字通り、“黒キ影”と戦うための、祈動を用いた戦闘訓練のことである。
祈動学校には様々な講義や教練があるけど、ある意味で一番重要な教練と言えるかもしれない。
「よし!本日は“祈動刀”を用いた訓練を行う。」
そう訓練生たちへと告げたのは、空中機動演習の担当でもある黒川教官である。
右眼の黒い眼帯がトレードマークの彼女は、元・海軍航空祈動士のため、実戦力が問われる祈動戦闘訓練についても教官を担当している。
そんな黒川教官は、祈動刀なる武器について説明してくれた。
「復習も兼ねて確認するが、君たち祈動士が用いる武器のことを“祈動兵器”と呼ぶ。これは文字通り、通常兵器とは異なり、祈動力を宿すことのできる特殊な武器のことだ。」
初回の祈動戦闘訓練の際、黒川教官から教わったことを思い出す。
祈動兵器とは、“黒キ影”を討伐した後に残る核を材料にした特殊兵器の総称で、鋼鉄や鉛、アルミ合金といった通常兵器の素材とは異なり、祈動士が放出する祈動力を伝導または蓄積する性質がある。
そして、祈動兵器の中で主に使われる武器が“祈動銃”と呼ばれる小銃の形をした武器で、祈動力を込めた弾丸を発射することができる。
祈動力が込められた弾丸は、“黒キ影”が咒力を用いて展開する斥力場を中和して貫通する効果があるため、“黒キ影”にダメージを与えられるという理屈だ。
そして、世界各国における祈動士の武器は、この祈動銃がほぼ全てと言っても良い。
――そう、我らが日本を除いて。
「知っての通り、祈動刀を実戦で配備・運用しているのは我らが日本のみとなる。これは、祈動刀が強力な武器であると同時に、敵の至近距離にまで肉薄する必要があるため、運用が非常に難しいことが理由だ。」
黒川教官は続ける。
「そして祈動刀とは、他の祈動兵器と同じく、刀身に“黒キ影”の核を材料として混ぜ込んだ刀のことだ。これが実物になる。」
そう言って、黒川教官は一振りの刀を手に持った。
それは、見た目は完全に日本刀であり、質実剛健を絵に描いたような、無骨な黒い鞘に納められていた。
「祈動兵器は基本的に、より多くの祈動力を込められる武器が有利となる。そして、込められる祈動力は、核を使った武器の大きさに比例する。そのため、祈動銃に関しても大口径のものが有利となる。」
黒川教官の言う通り、祈動銃を大型化した“祈動砲”と呼ばれる、複数名で運用する大型兵器も一応は存在しているようだが、あまり使用されていないと聞く。
その理由を、黒川教官は説明の続きで教えてくれた。
「しかし、何も考えずにひたすら大きくすれば良いという物ではない――なぜなら、大きな武器を運用するということは、祈動士の命である空中機動力が失われることになるからだ。」
そういうことだろう。
“黒キ影”の動きは俊敏なため、こちらも祈動を用いた高速機動で対処する必要がある。
その機動力が失われるということは、冗談抜きで命に関わる。
「また、祈動銃にしても祈動砲にしてもそうだが、基本的に発射後は弾丸が祈動士の手元を離れるため、弾に込められた祈動力は弾着まで徐々に減衰していく。遠距離からの攻撃が“黒キ影”に通じ難いのはこれが理由だ。」
なるほど。
遠距離から祈動砲を並べて、飽和攻撃――みたいなことは難しいのか。
そう考えると、祈動というのは中々に扱いが難しい力だな……。
すると、黒川教官は、そこでなぜか少しだけ愉快そうな顔になってから説明を続けた。
「我らが先輩たちは考えた。祈動銃を大口径にすると運搬や空中機動が大変になる。かといって、より攻撃力を増すためには、核をたくさん使った大きな武器が欲しい。」
そして、まるで落語の落ちを語るかのように宣言した。
「そこで我らが先輩たちは閃いた――そうだ、日本刀の刀身を核にしてしまえば良い!と。」
……我らが先輩、脳筋過ぎません!?
いや、理屈は分かるけども。
確かに、銃弾に比べたら刀身の方が体積は圧倒的に大きいし、祈動力を用いれば、刀を振り抜く速度も銃弾に負けないスピードが出るだろう。
やったことはないけど、たぶん敵に刀を突き刺して、直接祈動力を体内に流し込むという荒技もできる――気がする。
しかしその分、先ほど黒川教官が言っていた通り、“黒キ影”に肉薄する必要がある。
遠くから銃で攻撃するのと、どちらが危険かは言うまでもない。
「ちなみに、日本が祈動刀の運用開始をアメリカに告げた時の反応が、これまた伝説的な語り草でな……お前たちも話のネタになるから覚えておけ。」
黒川教官は笑いながら、ことの顛末を教えてくれた。
『アメリカさん。我々日本はとんでもない発明をしました!大口径の祈動銃よりも強力で、かつ空中機動力も損なわない新兵器です!』
『なんとなんと、日本さん。それは一体、どのような祈動兵器なのですか?』
『特別に教えてあげましょう、アメリカさん。それは、“黒キ影”の核を刀身に使った祈動刀という兵器です。これを握り締めて敵に肉薄し、超至近距離で斬り伏せるのです!』
『HAHAHA!! That's a nice Japanese joke!!(ハハハ!それは面白い冗談ですね!)』
『……………………』
『HAHAHA!!…………』
『……………………』
『HAHA……………』
『……………………』
『HA………………』
『…………Really?(まじで?)』
「まあ、こんなやり取りがあった訳だ。」
黒川教官は笑いを噛み殺しながら説明してくれた。
いや、アメリカさんも、そりゃ冗談だと思いますよ……
しかし、事実として、この祈動刀を決戦兵器として運用している我らが帝国陸軍と帝国海軍は、世界でも屈指の“黒キ影”討伐率を誇る精鋭軍団であることは間違いない。
この“ど根性精神”を聞くと、自分が約50年前の日本――それも軍隊に来てしまったことを痛感するのであった。




