第24話 航空祈動士運用概論(2)
間に休憩を挟んだあと、航空祈動士運用概論の講義が再開された。
「………………」
俺は、先ほどの教官の言葉が頭に残り続けていた。
分かってはいたけれども、やはり“黒キ影”と戦う際は、様々なリスクが付き纏うのだと再認識した。
本当に、命がけの世界に足を踏み入れたのだ。
「では、祈動指数の話が終わったところで、帝国海軍航空祈動連隊と、それを構成する航空祈動士が、具体的にどのような態勢や運用で“黒キ影”に対峙しているか説明したいと思う。」
教官が話し始める。
「まず、帝国海軍航空祈動連隊は全部で6つある。」
これは俺も知っている。
この世界に来てから祈動学校に入学するまでに、新聞や書籍などで学んだからだ。
教官は黒板に以下の内容を板書してくれた。
第一航空祈動連隊(神奈川県横須賀市)
第二航空祈動連隊(広島県呉市)
第三航空祈動連隊(長崎県佐世保市)
第四航空祈動連隊(青森県大湊市)
第五航空祈動連隊(京都府舞鶴市)
第六航空祈動連隊(沖縄県那覇市)
「知っての通り、航空祈動連隊の存在意義は、ハワイ諸島から侵攻してくる“黒キ影”を西太平洋で迎撃することにある。この任務を完遂するため、帝国海軍では常に1個祈動連隊が前線のサイパン島基地に常駐し、2個祈動連隊が西太平洋で臨戦状態で待機する運用を行なっている。そして、実際に“黒キ影”の侵攻が確認された際は、展開している3個祈動連隊の内、2個祈動連隊で迎撃を行う。」
俺の元いた世界では、日本の敗戦に伴いサイパン島はアメリカ領土となっていたが、この世界ではそもそも日米間で戦争が行われていないため、サイパン島を含む南洋諸島は引き続き日本の信託統治領という扱いになっているらしい。
「残りの3個祈動連隊は、訓練や整備のため、日本本土で待機となる。これは、もし西太平洋での迎撃が失敗し、“黒キ影”が本土周辺まで侵攻してきた場合における、第二次迎撃要員としての役割も兼ねる。なお、サイパン島基地への駐留任期は1年間で、各祈動連隊が交代で行う決まりとなっている。」
教官はそう補足してくれた。
「さて、少し話は反れるが、わが国の航空祈動士運用を語る上で欠かせない、大前提となる戦略がある。それが大包囲戦略、またの名をGreat Enclosure戦略だ。」
教官はそう言って、チョークを持って話し始める。
「諸君も知っての通り、帝国海軍が担当する戦線は環太平洋戦線となるが、なぜ環太平洋と呼ばれているか分かるか?」
――確かに、西太平洋戦線と呼ぶ方がしっくり来る気がする。
「答えは簡単だ。日本はアメリカ、オーストラリアと共に、ハワイ諸島にいる“黒キ影”がこれ以上、勢力範囲を広げないよう共同対処する方針を取っている。」
教官は黒板に太平洋周辺の地図を描いた。
「これは、仮に“黒キ影”が一度でも太平洋の外に進出してしまうと、そこを拠点として勢力を拡大し、ドミノ倒し的に太平洋沿岸の全ての国が脅威に晒されるという考え方に基づいている。」
教官は、ハワイ諸島から全方位に伸びる矢印を、日本やアメリカ、オーストラリアが共同で防いでいる図を描いた。
まるで、ハワイ諸島を円の中に閉じ込めるかのように。
「この考え方を大包囲戦略と呼び、それを実現するための枠組みが、日本とアメリカ、オーストラリアによる環太平洋同盟(TPA/Trans-Pacific Alliance)である。例えば、日本とオーストラリアの中間海域に“黒キ影”が侵攻した場合、この同盟に基づいて日本とオーストラリアが共同で“黒キ影”を討伐することになる。」
帝国海軍の航空祈動士として、大前提の知識となるため覚えておくように。
そのように、教官は念を押した。
「話を戻すが、次に航空祈動士と“黒キ影”の戦闘が、どのような手順で行われるかを説明する」
教官はそう話して、黒板に次のように書いた。
一、哨戒中の祈動士が“黒キ影”の接近を感知
二、サイパン島基地および空母から戦闘機を出撃させ、下位分体を迎撃
三、輸送機または空母から航空祈動士が出撃し、上位分体を迎撃
四、祈動指数が決戦領域に達したところで本体討伐
五、本体討伐により、“黒キ影”の核の活動量が弱まり、祈動指数が大幅に低下するため、戦闘不可領域にまで祈動指数が低下して飛行不能になる前に戦域を離脱
六、あらかじめ決めておいた合流地点において、潜航待機していた潜水空母に着艦して帰還
「ざっとこの流れになる。」
――なるほど、直前の講義で祈動指数について習ったが、これは確かに重要そうだ。
「航空祈動士にとって、“黒キ影”の本体討伐が最優先任務となるが、その後に無事に帰還することが、本体討伐と同じくらい重要ということを覚えていてほしい。もし潜水空母と合流する前に、戦闘不可領域まで祈動指数が低下すると――」
訓練生全員が息を呑む
「――最悪の場合、飛翔が維持できなくなって海に墜落、そのまま海の藻屑と消えることになる。」




