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航空祈動聯隊、敵ヲ討テ。 〜並行世界の日本は戦争を回避した。でも代わりに、超能力と銃と刀で怪物と戦っている!?〜  作者: 神田川 秋人
第2章 空を仰ぐ雛鳥たち

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第21話 黒キ影対策論(1)

■まえがき


 第21話〜第24話にかけて、主人公が教官から講義を受けるという形式にて、この作品の世界観の説明が行われます。


 「座学なんて要らねえ!!俺は早く身体を動かしてぇんだ!!」という肉体派の方は第25話からお読みいただければと思いますが、世界観が分かるとこの作品をより一層楽しめますので、よろしければぜひお付き合いください!





 入校式が終わってから3日が経過した。


 朝6時に起きて、夜10時に寝る生活にはまだ慣れないが、今のところなんとか食らいついている。


 朝食後に運動場で国旗掲揚こっきけいようを行い、訓練生全員で礼をしたあと、午前中の講義に移動した。


 今日からいよいよ、『黒キ影対策論』の講義が始まる。


 “黒キ影”――俺が元いた世界では、漫画やアニメ、ライトノベルなどの創作物でしか存在していなかった異形の怪物。


 日本は世界の中でも“黒キ影”の被害を抑えている方だと言われるが、日本海を渡ってすぐの向こう側、中国大陸では、帝国陸軍を含めた大陸同盟軍と“黒キ影”が地獄のような戦いを繰り広げていると聞く。


 この世界における日常とは、戦場と薄皮一枚で隔てられているだけなのだ。


 俺は、春にしては寒い朝の空気を肺いっぱいに吸って、頭と体を冷やした。




 『黒キ影対策論』の講義は、俺が元いた高校の視聴覚室のような、映写機やプロジェクターが備え付けられた講義室で行われる。

 プロジェクターと言っても、ここは1970年代の世界なので、皆が“オーバーヘッドプロジェクター”と呼んでいる、俺も初めて見る謎の機械のことだけど……


 講義室の中に入ると、ターシャが日高ひだか白井しらいと話しながら、並んで席に着いていた。


 無事に仲良くなったようでなによりだ。

 俺に気がついたターシャが手を振ってきたので、軽く手を挙げて応える。


 俺がそのまま講義室の奥に進んでいくと――


志道しどう、おはよう!」


 後ろから声がかかった。

 振り返って返事をする。


「おう、おはよ!鳴海なるみ。」


 ニコニコと人の良さそうな笑顔をした男子訓練生が、そこにはいた。


「いよいよ『黒キ影対策論』だねー!僕たち祈動士きどうしにとっては、とても重要な講義だし、集中しないと!」

「そうだな。」


 この鳴海という男は、入校初日の夜、自由時間に俺が神崎かんざきと二人きりになるのがどうにも気まずく、男子寮に併設されている談話室で時間を潰そうとした際に偶然出会った。


 俺が談話室に向かうと、すでに鳴海がそこにいて、小説を読んでいた。

 本好きの俺としてはその小説のタイトルが気になったので、鳴海がひと息ついたところで話しかけ、色々と意見交換するうちに仲良くなったのだ。


 いつまでも一人だと、今度は逆に俺がターシャに心配されてしまう。


 そうして鳴海と話していると、すぐに教官がやってきて、『黒キ影対策論』の講義が始まった。






「“黒キ影”――それはコアと呼ばれる赤い水晶を体内に持ち、咒力じゅりょくと呼ばれる未知のエネルギーを用いる生物の総称である。」


 教官はそのように切り出した。


「君たちも知っての通り、“黒キ影”が初めて確認されたのは、1941年12月8日のハワイ諸島だ。そして、今日に至るまでの36年間、人類は常に“黒キ影”の脅威にさらされ続けてきた。」


 そこで、教官は手にチョークを持って続けた。


「ちなみに、“黒キ影”という呼称は、当時ハワイの真珠湾に停泊しているアメリカ太平洋艦隊を奇襲しようとしていた帝国海軍が、いざ真珠湾に到着してみると、既に米軍は奴らの攻撃で壊滅状態となっており、その際に連合艦隊司令長官に向けて発せられた『()()()ノ攻撃ニヨリテ、米軍太平洋艦隊壊滅セリ』という電報から来ている。」


 あ、そうだったのか。

 きちんと由来があったんだな。

 誰かが適当に名付けたのかと思っていた……


「そして、ひとくちに“黒キ影”と言っても、本体と分体の2種類がいる。そして、分体についても、上位分体と下位分体に分けられる。本日の講義では、まずはその点を君たちに教えたい。」


 教官は、講義室の前方にある黒板に、チョークで次のように文字を書き始めた。




 “黒キ影”の分類


 本体:群れの中に必ず1体だけ存在する。

   ・既存兵器は一切通用しない。


 分体:群れの中に多数存在、次の通り分類される。

   ・上位分体:祈動士のみ討伐可能。

   ・下位分体:祈動士以外でも討伐可能。




「まず分体についてだが、上位分体と下位分体に分類される。と言っても、これは人類側が便宜上、分類しているに過ぎない。その線引きは簡単だ――下位分体には、銃弾や砲弾、誘導弾ミサイルといった既存兵器による攻撃が有効だが、上位分体にはほとんど効果が見込めない。」


 教官はそう話した後、黒板に背を向けて、チョークを置いてから訓練生たちの方を向いた。

 

「これは、“黒キ影”が持つコアの大きさによるもので、下位分体のコアはそれほど大きくないため、操れる咒力じゅりょくも弱く、既存兵器でも集中して運用すれば十分に殺傷可能だ。」

「一方で、上位分体はコアが大きいため、操れる咒力じゅりょくが大きく、祈動士による祈動力を伴った攻撃でないと有効打にならない。」


 そうだったのか。


 てっきり、“黒キ影”には全ての既存兵器が効かないと思っていた。

 世間でも誤って認識している人が多そうだ。




「そのため、君たち祈動士が相手をするのは、基本的に上位分体となる。下位分体については、空爆や火砲、戦車、戦闘機などの通常兵器による攻撃で予め数を減らし、祈動士が上位分体との戦闘に集中できる状態にもっていくのが定石じょうせきとなっている。」


 次に、教官は黒板に書かれた『本体』という文字を指した。


「次に本体だが、こいつは“黒キ影”の群れの中に必ず1体だけ存在し、他の“黒キ影”を率いる首魁ボスのような役割を担っている。他を圧倒する非常に大きなコアを内包しており、その分、強大な咒力じゅりょくを行使することができる。」


 教官はそう説明して、黒板に『既存兵器は一切通用しない。』と書き込んだ。


「“黒キ影”の本体は、その莫大ばくだい咒力じゅりょくにより強力な斥力場せきりょくばを展開できるため、既存兵器の類は一切通用しない。討伐できるのは、祈動力で咒力を中和できる祈動士に限られる。」

「………………」


 俺を含めた訓練生たちは、自らに課せられた重責を噛み締めるかのように、静かに息を飲んだ。


 教官は講義を続ける。




「そして、これが極めて重要な点だが、“黒キ影”は本体が討伐されると、その群れに所属する分体も全て消滅するという特性がある。裏を返すと、“黒キ影”の本体を討伐しない限り、分体はやがて再生産され続けることになる。」


 それは、めちゃくちゃ厄介だな……。

 本体を倒さないと、いつまで経っても脅威は無くならないのか。

 

「そして、ある程度時間の経過した“黒キ影”の本体は、まるで細胞分裂のように、別の群れを率いる本体を産み出し、“黒キ影”の支配領域を広げようとする。これが、人類の領土に対して、定期的に“黒キ影”の侵攻が発生する仕組みだと言われている。」


 一連の教官の説明を聞いて、まるでありのようだな――という感想を抱いた。


 蟻は、巣が成熟すると、女王アリが次の女王アリとなる個体を産み出し、その新しい女王アリが巣を飛び出して、外に新しい巣を作って繁殖するという。

 そして蟻は、巣の中の女王アリが死亡すると、新しく働きアリを産み出す存在がいなくなるため、やがて巣ごと滅びるという。

 女王アリを本体、働きアリを分体とすると、まさに“黒キ影”の生態に近い。


 そして、教官は俺たち一人ひとりの目を見て告げた。




「つまり、君たち祈動士の最終目標とは、いかなる手段を用いてでも、この“黒キ影”の本体を討伐することにある。」


 確かに、そういうことになる。


「だが、まさに言うはやすく、行うはかたしというやつだ。“黒キ影”の本体は、先ほども説明したように強力な斥力場を展開しており、祈動力をもってしても中和は困難を極める。やがて別の講義で習うだろうが、基本的に“決戦領域レッドライン”と呼ばれる、祈動士の力が最大限に発揮できるタイミングでしか討伐できないと考えてもらって良い。」


 決戦領域レッドライン


 なんだそれ――と思ったところで、ちょうど講義終了のチャイムが鳴り、そのままこの日の講義は終わりとなった。




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