第18話 同部屋の相手
最後に進行役が閉式の辞を述べて、海軍航空祈動学校の入校式は終了した。
来賓の方たちが退出後、俺たちは再び小講堂に集められ、教官から明日以降のスケジュールについて聞かされた。
明日から早速、講義と訓練が始まるらしい。
「それと最後に。本日の入校式をもって、お前たちは正式に祈動学校の生徒になった。これからは訓練生として扱うので、教官の指導に従い、校則の遵守を忘れるな。」
教官から念を押される。
その言葉を聞いて、入校生たち――いや、訓練生たちは気を引き締め直し、この日は解散となった。
解散後、みんなで男子寮へと戻る。
俺は、近くを歩いていた訓練生に声をかけ、これからの講義や訓練に関する話をしながら歩いていると、あっと言う間に寮についた。
「明日から頑張ろうな!」
「ああ、お互い、立派な航空祈動士になろう。」
他の訓練生たちとは寮の入口で挨拶をして分かれ、それぞれの部屋へと向かった。
俺も自分の部屋に向かい、扉を開けて中に入った。
すると、俺の部屋の相方がすでに到着していた。
入寮時には会えなかった、その相手を見て驚く。
――なんと、あの神崎だった。
先ほどの堂々とした答辞を聞いた後なので、思わず背筋が伸びる。
俺は、答辞を褒める言葉を心の中で用意し、神崎に話しかけた。
「かん―――」
すると、俺の言葉に被せる形で、神崎が口を開いた。
「貴様、あのとき、なぜ手を挙げなかった?」
「―――!?」
き、貴様!?
俺は、人生で初めてそのような呼び方をされ、思わず口を閉じてしまった。
それにあのときって――入校式の前に集まった小講堂で、入校生答辞の立候補者を募ったときの話か。
「――まさか、立候補制だとは思わなかったんだよ。」
俺は面食らいつつも、かろうじてそう返した。
「受け身だな。」
神崎に即答される。
受け身って……確かに、手を挙げるのは遅れたけど。
そこまで言われるほどか。
「貴様以外の全員は、すぐに手を挙げただろう?なぜか分かるか?」
「………………」
俺は、答えることができなかった。
「みな、自分の責務を自覚しているからだ。自覚し、その責務を果たそうと、覚悟をもって祈動学校に入校している。」
答えることができないまま、神崎の言葉だけが、無音の部屋に響き渡った。
「だから皆、全てを成長の機会と捉え、貪欲に吸収しようとする。」
そう、厳しい言葉を突きつけられる。
「先ほどの答辞。あれは、俺の嘘偽りのない本音だ。祈動士は、選ばれし存在だ。選ばれたものは、選ばれなかった者たちを――力無き者たちを、守る義務がある。」
祈動士の、義務……。
「そして、先人たちの――死んでいった者たちの意志を継ぎ、彼ら、彼女らが守りたかったものを護らなければならない。後を託された者として、その命に報いるためにも。」
俺は、何も、言い返せない。
「もし、お前が何の義務も覚悟も抱かず、ただ流されるがまま、この場にいるのなら――」
神崎は、まるで剥き出しの刀のような、恐ろしいほど研ぎ澄まされた眼差しで、俺のことをじっと見つめている。
「――物見遊山の客は不要だ。祈動士なんて、辞めてしまえ。」
そう告げて、神崎は自分の机に向かって歩いていった。
――俺のことは、一度も振り返らずに。




