第14話 水平線の彼方
“黒キ影”本体の討伐を確認した後、東雲は感慨にふける間もなく部下に声をかけた。
「日下部、葛城は?」
「無事に保護しました!」
「よしっ!」
そう確認すると、東雲は第一航空祈動連隊の全員に指示を出す。
「総員!!“黒キ影”本体の討伐を確認!大至急、戦域を離脱する!潜水空母との合流地点へ急げ!」
それを受けて、全員が海面近くまで高度を下げてから飛翔を開始する。
しばらくして――
「連隊長!現在、祈動指数41!白領域まで推定10分っ!」
雨宮が焦りながら報告した。
“黒キ影”が消滅したことで、その核の影響下から外れ、祈動指数はみるみる内に低下していく。
祈動指数30未満――白領域にまで低下すると、祈動力を用いた飛行すら困難になる。
雨宮が焦るのも無理は無かった。
「心配するな、我々なら十分に間に合う!」
東雲は確信した口調で、雨宮を励ます。
その時、少し先の海域に、広い甲板を持つ潜水艦のような、不思議な形をした艦船が待機しているのが見えた。
これが、先ほど東雲が言っていた潜水空母だろう。
甲板には空からでも識別できるよう、日本の国章――日の丸が大きく描かれている。
そして、その甲板には、乗組員が潜水空母から出てきて、制帽を振り回しながら帰還する隊員達を見つめていた。
「各員、順番に着艦せよ!最後の最後で間抜けな姿をさらすなよ!」
東雲は皆に声をかけ、隊員たちは次々と甲板に着地していく。
どれだけ疲れていても、地面に崩れ落ちる者はいなかった。
航空祈動士としての意地か――すぐに東雲の元に集合する。
その瞬間――
「「「うおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
溢れんばかりの歓声が乗組員たちから上がった。
よく見ると、先に帰還していたのか、第五航空祈動連隊の姿もある。
そのまま第一祈動連隊の隊員たちは、乗組員と第五祈動連隊の隊員たちに囲まれて、もみくちゃにされた。
さすがに連隊長には遠慮をするのか、その様子を遠くで眺めている東雲の元に、第五祈動連隊の連隊長である御影が近づいてきた。
「見たところ重傷者は1名か――。“黒キ影”の本体討伐で戦死者も出さぬとは、全く大した女傑に成長したものだ!」
日頃は冷静な御影も、どこか興奮したように話す。
「いえ、これも第五祈動連隊の陽動と、我が隊員たちの奮闘があってこそです。」
ほめられた東雲は一瞬、歳相応の顔になって照れながら返したあと、顔を切り替えて続けた。
「負傷した葛城が心配です。失礼ながら、すぐに医務室へ向かいたく。」
「ああ、そうしてやれ。」
御影も東雲の心中を察したのか、そう言葉を切った。
「では、これにて失礼します。何かあれば、副隊長の日下部にご連絡ください。」
そう告げて、葛城が運び込まれていった艦内の医務室へと向かう。
艦内へ降りようと、甲板の端にある階段へと向かって歩き出し――
――ふと、甲板の端にある手すりのさらに先、目の前に広がる大海原の水平線が目に入った。
そこには、先ほどの“黒キ影”との死闘が嘘のように澄み切った空と、濃く青い海――そしてその境界に、どこまでも続く水平線が広がっていた。
「………………」
ふと、幼い頃、寝る前に父親から、子供向けの冒険物語を読み聞かせてもらうことが大好きだったことを、東雲は思い出す。
――お菓子の国
――機械の国
――巨人の国
――小人の国
――黄金の国
その冒険物語では、様々な世界が登場する。
主人公はそれらの世界を冒険し、仲間たちを集め、知恵と勇気をもって困難に立ち向かっていった。
そして物語の終盤、主人公は黄金の国を支配する悪い龍を退治し、黄金の国の王様から褒美としてもらった金銀財宝で、家族や仲間、周りの人々を幸せにして物語は終わる。
そして、冒険物語の最後は、主人公の言葉で締めくくられた。
『さあ!僕たちの冒険は、まだまだこれからだ!見なよ、あの水平線を。あの向こうには、まだ僕たちの知らない世界がある!みんなで水平線の向こうに旅立とう!!』
主人公は、水平線の向こうで、知らない世界と出会えたのだろうか。
例えば。そう、例えば――“黒キ影”も祈動も存在せず、人類が滅亡の危機に怯えることもない、そんな平和な世界が――
誰にも聞こえない声で、東雲はつぶやいた。
南の海らしい生暖かい風が吹き、彼女の横を抜けていく。
もし、そんな世界があるのなら、私は――
風は、彼女の言葉の続きをさらっていき、水平線の彼方へと消えていった。
【 間章 水平線の彼方 完 】
■あとがき
間章をお読みいただきありがとうございます。
いよいよ、次話(1/23更新予定)から祈動学校編が始まります。主人公である志道にとって原点となる2年間であり、祈動士として、そして人間としての彼の成長が描かれます。
これからどんどんと面白くなっていきますので、ぜひ続きを読んでいただけると嬉しいです!!
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