第11話 2つの連隊
輸送機から降下した第一航空祈動連隊は、連隊長である東雲を中心に集結し、飛翔を続ける。
下は見渡す限り一面の海。
頭上には、わずかな雲がたなびいていた。
「日下部、鴻上、劉、それぞれの隊員は揃っているな!」
「「「はっ!!」」」
連隊長たる東雲は、部下の3名に無線で声をかけた。
「これより方位60度で飛翔し、予定空域にて第五祈動連隊と合流する。いつ敵に遭遇してもおかしくない。周囲への警戒を厳にし、何かあればすぐに報告せよ。」
そう部下たちに指示を出した上で、彼女自身も周囲への警戒を始めた。
ほどなくして日下部から無線が入る。
「連隊長、前方から戦闘機の集団が接近中です。帰投中の友軍機かと。」
「私も確認した。先発した第一陣だろう。」
前方から空中迷彩を施した友軍機とすれ違う。
一瞬の交錯だったため視認できなかったが、戦闘機のパイロットは狭い機内で敬礼をしていた。彼ら彼女らに、後を託すかのように。
――その機体には、焼け焦げた跡が痛々しく残っていた。
「彼らの健闘に報いねばならん。先を急ぐぞ。」
「はっ!!」
さらに飛翔を続けると、またしても不思議な光景が広がっていた。
その進路上に、彼ら彼女たちと同じく、生身で空中に留まっている集団がいたのだ。
その数は同じく50名ほどで、着用している軍服や武器も同じものだった。
やがて、飛翔を停止して向かい合う。
互いに敬礼を交わしてから口を開いた。
「ご無沙汰しております。御影連隊長。」
「こちらこそ。壮健そうで何よりだ、東雲連隊長。」
東雲が少しだけ笑いながら口を開く。
「頑丈なのが取り柄の連隊ですからね。サイパンに来てからこっち、四方八方が演習場みたいな環境ですので、毎日暴れまわっています。」
「ははは、まさに自分の目で見てきたかのように頭に浮かぶよ。我が連隊にも元気を分けてもらいたいくらいだ。」
それからさらに二言、三言会話した後
「――話は積もるが、ここは戦場だ。作戦の詳細について話し合おう。」
「同意です。」
お互いに真剣な顔に切り替えて続ける
「単刀直入に言うが、今回の“黒キ影”の本体討伐は貴隊に任せたい。」
「――理由を聞いても?」
東雲は少し意外そうに聞き返した。
「もちろんだ。理由は2つある。1つは新入りの問題だ。我が隊は今年、例年より多くの新入りを受け入れてな。まだ所属して日も浅く、正直に言ってタイミングが悪すぎる」
思わず御影の後ろに目をやると、そこには明らかに緊張に身を固めている隊員が数名いた。
「そして2つ目は――」
そこで御影はいたずらを仕掛けるように、ニヤリと笑った。
「君と最後に手合わせをしてからだいぶ経つ。噂は嫌というほど聞いているが、あの娘っ子がどれほど強くなったか、ぜひ拝ませてもらいたい。」
「それは――」
東雲も顔を崩す。
「――実に、戦い甲斐のある理由ですね。」
「だろう?」
二人はひとしきり笑った後、顔を真面目なものに戻して言葉を交わす。
「承知しました。我が第一連隊が“黒キ影”の本体討伐を行います。」
「助かる。では我々第五連隊が道を開こう。」
その後、作戦の詳細について話し合った後、それぞれの隊に戻っていく。
「喜べ!聞こえただろうが、我々が“黒キ影”の本体討伐を引き受けることになった。」
隊員たちから「おおっ!!」とどよめきが走る。
“黒キ影”には、本体と分体の2種類が存在し、“黒キ影”は例外なく、1匹の本体と、無数の分体で構成されている。
そして、本体を討伐することで、その“黒キ影”の群れに所属する分体は全て連鎖的に消滅する。
逆に言うと、本体を討伐しない限り、その“黒キ影”の脅威は去らないという意味でもある。
そして、“黒キ影”の本体討伐は、祈動士にとって最も危険であると共に、最も名誉な仕事でもあった。
「今から詳細の動きを説明する。」
東雲は御影と打ち合わせた内容を共有し、隊員たち一人一人の顔を見渡した。
「それでは敵を発見次第、作戦を開始する。」
そう宣言し、第一航空祈動連隊と第五航空祈動連隊は、共に飛翔を再開した。




