リボンを結んで
窓から柔らかな朝の光が差し込み、
香坂ユイの部屋を包み込んでいた。
薄いカーテンがそよ風に揺れ、
淡い光が家具や壁に温かな影を落とす。
制服に着替え終えると、
そっと机の引き出しを開けた。
そこには、まだ開封されていない
ピンク色のリボンがしまわれている。
慎重にリボンを取り出し、
丁寧に包みを開けた。
柔らかな布の感触が指先に伝わり、
胸が少し高鳴る。
スマホの動画をチラリと見ながら、
深呼吸をして、リボンをそっと髪に添えた。
ピンクに2本の白いラインが引かれた
リボンの中心には、
金色の星のチャームが揺れて、
光を受けてキラリと輝く。
慣れない手つきで何度か動画を確認しつつ、
少しずつリボンを髪に編み込んでいく。
不器用ながらも、
完成に近づくたびに笑みがこぼれた。
──できた。
鏡に向かって優しく微笑んだ。
◇
駅前のベンチ。
少し早く着いたのか、
雪城ネネはスマホを見ていた。
彼女の銀色の髪は
いつものように片編み込み、
そしていつものリボンがつけられている。
ネネは顔を上げる。
そこに立っていたのは、
同じように片編み込みに
リボンを飾ったユイだった。
ふたりは顔を見合わせて、
やわらかく微笑み合う。
同じ髪型、同じリボン。
長い旅を終え、
やっと心も揃ったような気がした。
ユイが少し恥ずかしそうに
手を差し出す。
ネネが、その手をとった。
指が、ゆっくりと絡まり
やがてしっかりと結ばれる
制服の裾が揺れる
リボンがそっと風をはらむ
手をつないだままゆっくりと歩き出す
ひとつになった影が
朝の光の中に伸びていった──
* * *
君に届かない、この世界で。
── 完 ──




