名前のない祈り
prologue
──ねえ、覚えていてくれるかな。
この世界で、
わたしはたしかに生きていた。
でも、
もし誰も思い出してくれなくなったら、
それはもう、
生きていたって言えないのかもしれない。
──それでも。
わたしは書き続けた。
夢を、未来を、
あなたたちの笑顔を。
日記帳のページに、
ひとつずつ丁寧に書き込んでいった。
何度も、何度も、
それが叶うようにと祈りながら。
そうするとね、
不思議なんだけど
未来はほんとうに、
その通りになっていくの。
だけど代わりに、
書いた夢がひとつ叶うたびに、
わたしのことは
周りから少しずつ消えていった。
声も、名前も、思い出も。
それは、たぶん、
そういう力なんだと思う。
願いを叶える代わりに、
“わたし”を手放していく。
だからきっと、
最後のページの願いが叶ったときには、
もうこの世界に、
わたしのことを覚えてる人は
いなくなるんだろうな。
──でも
それでもいいって思えたの。
なぜって、
日記帳の最後のページに残っていたのは……
あの子が
笑っていてくれる未来だったから。
だから、もう大丈夫。
もしも、この祈りが……
世界のどこかで、
たったひとりでもいい。
ほんの少しでも、
あなたの心に届いていたなら。
それだけで
きっと──