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第6話 倹約家で真面目な努力家の意外な衝動

19歳。私は、学費と生活費のために

バイトを掛け持ちしてる。

だから、無駄遣いは絶対にしない主義。

スーパーの特売品だって見逃さないし、

一円でも安ければ遠くまで買いに行く。


そんな私がある夜、スマホを見ていたら、

キラキラした広告が目に飛び込んできたの。

「え……ベビードール……?」

見たこともない、上品なデザイン。

こんな、自分とは無縁の世界の服。


「……でも、可愛らしいわね……」


一瞬だけ、心が揺れた。

(いやいや、馬鹿なこと考えてないで。

こんなものに使うお金があるなら、

貯金に回すべきでしょ。将来のために!)

理性が強く叫ぶ。でも、心のどこかで、

「たまには、自分にご褒美をあげても……」

そんな小さな声が聞こえてくる。

セール中って書いてあるし、

「ルームウェアとしても使える」って

レビューも見た気がする。

何度もカートに入れては消し、

消してはまた入れ直した。

**「無駄遣い!」「贅沢品!」**って

自己嫌悪と戦いながら、

**「でも、一度だけ……」**

その誘惑に抗えなかった。


「……っ、今回だけだから!」


ついに、ポチッ。


画面が切り替わった瞬間、心臓が跳ね上がった。

「はぁ……やってしまったわ……」

普段は堅実な私が、まさかの衝動買い。

背徳感に押しつぶされそうだけど、

なぜか、少しだけ胸が高鳴るのを感じた。


数日後。


ピンポーン♪


「きたわ!」


玄関で受け取ったのは、

まとめ買いした日用品。「ありがとうございます」

ドアを閉めて、「これで今月も節約できたわ」

と、いつもの私に戻る。


午後。


ピンポーン♪


「……っ!!」


今度は胸がドクドクうるさい。

(これ……まさかベビードール…!?)


「はーいっ!」


玄関を開けると、さっきと同じお兄さん。

にっこり。「○○さん、お荷物ですー」

「あ、はい、ありがとうございます」

軽くて小さな箱なのに、**私の全財産を

そこに詰めて渡されたかのような、

ずっしりとした罪悪感に襲われた。**


部屋に戻った瞬間。


「……っはぁ……」


箱を抱えて、そのままベッドにそっと置く。

落ち着かない。手が震えるわ。


ぺりぺり…カサカサ…。箱を開けると、

ふわっと水色のレース。


「……っやばい、写真より素敵だわ……」


そっと肩にかけると、冷たいレースがひやっ。

「ひゃっ…」思わず変な声が出た。


鏡の前でくるり。

「……っ!」

そこにいたのは、今まで見たことのない、

少しだけ華奢で、どこか儚げな私。

これが、私……?

その姿に、戸惑いと、ほんの少しの喜びを感じた。


ベッドにダイブして、顔をクッションに埋める。

興奮で体が熱い。


そのとき――


ピンポーン♪


「…………へ?」


(また宅配ですって!?何かしら?)


でも、ベビードールに夢中で頭がふわふわしてた私。

深く考えずに、冷静さを保ちつつも、

新しい自分に浸っていたテンションのまま

玄関へダッシュ!


ガチャッ。


「○○さん、こちらもお荷物ですー」


「あ、ありがとうございます」


いつものように丁寧に対応し、サインをカキカキ。

内心は冷や汗ダラダラだけど、絶対に動揺は見せない。


その時――


お兄さんの視線が、ふっと下に滑った。


私の肩から胸へ、ひらひらの水色のフリルを

一瞬だけ見て、気まずそうにパッと目を逸らす。


(……えっ)


ズクン。心臓が一拍遅れて大きく跳ねる。

「まさか……今、見られた……?」

顔が一気にカーッと熱くなる。

恥ずかしさで、目の前がチカチカする。


「あ、ありがとうございましたっ!!」


どもって頭を下げると、顔から火が出そう。

慌ててドアを閉める。


カチッ。


玄関の鍵が閉まった途端。


「……………………………………はぁ……」


ゆっくり自分を見下ろすと、そこには


ひらひら揺れる水色のフリル。


「…………………………っ、最悪だわ……!」


頭を抱えて、玄関の壁にずるずると座り込む。

(やだ、やだ、やだ!


 私、これ着たまま宅配受け取ってしまったわ!?


 お兄さん、きっと見てしまったのね!?

 気まずそうだったもの!!


 バイト代、これにつぎ込んだのに、

 こんな恥ずかしい思いをするなんて……!!)


部屋に駆け戻って、ベッドにダイブ。

クッションを抱きしめてバフッと顔をうずめる。


「もうっ、ありえないわ……!」


声は出さない。静かに、深く息を吐く。

恥ずかしい、消えたい、でも……。


鏡に映る、水色のベビードール姿の私が、

なぜか、少しだけ誇らしげに見える。


(……まあ、いいわ。誰にも言わないし、

たまには、こういう無駄遣いも……アリなのかも。)


顔を埋めたまま、胸の奥がじんわりと

温かくなるのを感じていた。


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