第5話 オタク系妄想女子のひみつの聖域
21歳。私の日常は、二次元でできている。
スマホの中の推しキャラが、私の全て。
三次元の現実世界?……まぁ、そうね、
たまに宅配が来るくらいかな。
その日も、ベッドでスマホを眺めてたら、
ある広告に目が釘付けになったの。
「え、何これ!?このデザイン、
まさか〇〇(推しキャラ名)の
あの部屋着に激似じゃない!?」
ふわふわのレースに、胸元のリボン。
これはもう、二次元から飛び出してきたとしか!
「……やばい、これは買うしかないのでは……?」
でもね、冷静な私もいるわけ。
(いやいや、これはあくまで二次元。
私が着たところで、どうなるの?
ていうか、こんなの誰に見せるんだ?
私、腐女子だし。現実の男とか無理なんですけど!)
葛藤が、私の頭の中で激しいバトルを繰り広げる。
でも、**「推しと同じ空間にいる」**という誘惑。
これが、私の理性をじわじわ溶かしていく。
「……ううっ、これは、研究費なのじゃ!」
ついに、ポチッ。
画面が切り替わった瞬間、心臓が爆発しそうだった。
「ひぃぃぃ!やってしまったのです……!」
指先が震える。
でも、この背徳感と、推しとの繋がり。
なんですか、この至高の喜びは!?
数日後。
ピンポーン♪
「きたっ!なのです!」
玄関で受け取ったのは、
予約してた限定版フィギュア。
「おおおっ!神々しい!」と拝み倒す。
ドアを閉めて、「これで私の聖域は盤石なのです!」
くるくる回る。
午後。
ピンポーン♪
「……っ!!」
今度は胸がドクドクうるさい。
(これ……まさかベビードールですと!?)
「はーいっ!」
玄関を開けると、さっきと同じお兄さん。
にっこり。「○○さん、お荷物ですー」
「あ、はい、ありがとうございます、なのです」
軽くて小さな箱。なのに、**私のオタクセンサーが、
かつてないほどの高まりを感知していた。**
部屋に戻った瞬間。
「きゃああああああっ!!」
箱を抱えてぴょんぴょん飛び跳ねる。
ベッドにポスン!ゴロゴロ、
クッションを抱きしめる。
ぺりぺり…カサカサ…。箱を開けると、
ふわっとピンクのフリル。
「……っやばい、再現度高すぎなのです!
これは神!」
そっと肩にかけると、冷たいレースがひやっ。
「ひゃっ…」思わず声が裏返る。
鏡の前でくるり。
「……っ!」
そこにいたのは、憧れの推しキャラ……
じゃなくて、私なんだけど、
なんだかちょっと、あの子に近づけた気がした。
この感覚、尊い……!
ベッドにダイブして、足をバタバタ。
興奮で体中の血が沸騰してるみたい!
このまま、推しの世界にダイブしたい!
そのとき――
ピンポーン♪
「…………へ?」
(また宅配!?何かしら、なのです!?)
でも、ベビードールで気分がハイになってた私。
ふわふわした頭で深く考えずに、
推しキャラになりきったテンションのまま
玄関へダッシュ!
ガチャッ。
「○○さん、こちらもお荷物ですー」
「あ、ありがとうございますなのですっ♡」
にこにこ受け取って、受領のサインをカキカキ。
その時――
お兄さんの視線が、ふっと下に滑った。
私の肩から胸へ、ひらひらのピンクのフリルを
一瞬だけ見て、気まずそうにパッと目を逸らす。
(……えっ)
ズクン。心臓が一拍遅れて大きく跳ねる。
「え?今、まさか……?
お兄さん、私を、推しキャラと間違えたのですか!?」
顔が一気にカーッと熱くなる。
冷や汗がドッと噴き出した。
「あ、ありがとうございましたなのですっ!!」
どもって頭を下げると、顔から火が出そう。
慌ててドアを閉める。
カチッ。
玄関の鍵が閉まった途端。
「……………………………………ひぃぃぃ……」
ゆっくり自分を見下ろすと、そこには
ひらひら揺れるピンクのフリル。
「…………………………きゃああああああああああああああああああああっっ!!!」
頭を抱えてバタバタ玄関にしゃがみ込む。
(やばいやばいやばいやばいのです!!
私、これ着たまま宅配受け取ってしまったのです!?
お兄さん絶対見た!!絶対気まずそうだった!!
うわああああああ~~~~っ!!
まさか三次元の人間に見られるとは!屈辱なのです!)
部屋に駆け戻って、ベッドにダイブ。
クッションを抱きしめてバフッと顔をうずめる。
「もうやだ~~~~っ♡なのです!」
声が裏返って、泣きそうで、でもちょっと笑ってしまう。
恥ずかしい、消えたい、でも……!
鏡に映るベビードール姿の私が、
やっぱりめちゃくちゃ可愛い。
(……でも、これ、推し要素高くない?
誰にも言わないし、これも私の一面なのじゃ!
むしろ、新しい萌え……!)
顔を埋めたまま、胸の奥がドキドキ止まらなかった。
この調子で、次の話も進めていきましょうか?