第1話 白いフリルと、初めての夜
18歳。春から上京し、女子大生になったばかり。
初めての一人暮らしはワクワクするけど、
夜になるとシーンと静かで、ちょっと心細い。
そんな夜はスマホをいじってごまかす。
動画を見ながらポテチをパリポリ、
SNSをぺしぺし。その夜も同じだった。
画面に流れてきた広告に、心臓がドクン。
白いフリルのベビードール。
レースがひらひら舞って、モデルが笑う。
「……わ、可愛い……」
でも、私には似合わない。そう思った。
「誰に見せるわけじゃないし……」
「私が可愛いって思いたいだけだよね?」
スマホを投げてはまた拾い、ページを見つめる。
(でも、こんなの買ってどうするの?
無駄遣いじゃない?バイト代が!
でも、可愛い……着てみたい、新しい私!)
指がそわそわ。
何度も「カートに入れる」を押しては削除し、
ページを閉じてまた開く。
「似合わない」「似合わないってば!」「無駄遣い!」
って理性は全力で叫ぶ。
でも「可愛い!絶対欲しい!」「着たらどうなるの!?」
って感情が暴走する。
「……もうっ!一生に一度の衝動買いだもん!」
ついに、ポチッ。
画面が切り替わった瞬間、心臓がドカーン!!
「きゃーーっ!」クッションに顔をうずめて
バタバタ足をバタつかせた。
たったそれだけなのに、背徳感が半端ない!
でも、このドキドキが、たまらない!
数日後。
ピンポーン♪
「きたっ!」
玄関で受け取ったのは頼んでた文房具。
「ありがとうございますー!」ドアを閉めて
「わーい!また宅配だー!楽しいなー!」
くるくる回る。
午後。
ピンポーン♪
「……っ!!」
今度は胸がドクドクうるさい。
(これ……ついにベビードール…!)
「はーいっ!」
玄関を開けると、さっきと同じお兄さん。
にっこり。「○○さん、お荷物ですー」
「は、はいっ!」
軽くて小さな箱なのに、心臓はズドーン。
部屋に戻った瞬間。
「きゃーーーっ!!」
箱を抱えてぴょんぴょん飛び跳ねる。
ベッドにポスン!ゴロゴロ、クッション抱きしめる。
ぺりぺり…カサカサ…。箱を開けると、
ふわっと白いレース。
「……っやばい、超かわいい~~!想像の100倍!」
そっと肩にかけると冷たいレースがひやっ。
「ひゃっ…」息が止まりそう。
鏡の前でくるり。
「やば、可愛いっ……♡なにこれ、別人みたい!」
自分でも信じられないくらい、とびきりの
笑顔が鏡の中にいた。
ベッドにダイブして足をバタバタ。
興奮で体中の血が沸騰してるみたい!
そのとき――
ピンポーン♪
「…………へ?」
(また宅配!?なに!?)
でも、ベビードールで気分がハイになってた私。
ふわふわした頭で深く考えずに、
さっきの楽しかった宅配のテンションのまま
玄関へダッシュ!
ガチャッ。
「○○さん、こちらもお荷物ですー」
「あ、ありがとうございますっ♡」
にこにこ受け取って、受領のサインをカキカキ。
その時――
お兄さんの視線が、ふっと下に滑った。
私の肩から胸へ、ひらひらの白いフリル。
一瞬だけ見て、気まずそうにパッと目を逸らす。
(……えっ)
ズクン。心臓が一拍遅れて大きく跳ねる。
え?何今の?
「あ、ありがとうございましたっ!!」
どもって頭を下げると、顔が一気にカーッ!
慌ててドアを閉める。
カチッ。
玄関の鍵が閉まった途端。
「……………………………………えっ」
ゆっくり自分を見下ろすと、そこには
ひらひら揺れる白いフリル。
「…………………………きゃああああああああああああああああああああっっ!!!」
頭を抱えてバタバタ玄関にしゃがみ込む。
(やばいやばいやばいやばい!!
私、これ着たまま宅配受け取っちゃったじゃんっっ!!
お兄さん絶対見た!!絶対気まずそうだった!!
うわああああああ~~~~っ!!)
部屋に駆け戻って、ベッドにダイブ。
クッションを抱きしめてバフッと顔をうずめる。
「もうやだ~~~~っ♡」
声が裏返って、泣きそうで、でもちょっと笑ってしまう。
恥ずかしい、死にたい、消えたい……!
でも、鏡に映ったベビードール姿の私が、
やっぱりめちゃくちゃ可愛い。
(……まあ、いっか!誰にも言わないし!)
顔を埋めたまま、胸の奥がドキドキ止まらなかった。