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女三人寄れば

「誘ったってどういうこと? セイルの手が少し触れただけで顔を真っ赤にしてたのに、生まれ変わって何が一体どうなったの!? ひょっとしてそんなに男に飢えてたの!?」


ライネに詰め寄られて、メルチェは慌てて首を左右に振った。


「そうじゃなくて! ええと、何から話せばいいのかしら。そう! あのね、私、今世ではロルベーア王国の第二王女なの」


メルチェの発言に、ライネはポカンとして口を開けた。


「へ!? ロルベーアの第二王女様って、かなりのお転婆で有名な? 頭が足りないって噂だけれど」


メルチェは溜息を吐くと、「そう、その有名な第二王女よ。つまりは厄介払いされてここに送り込まれたってこと」と言葉を続け、俯いた。


「私は『生贄』としてここに送り込まれて来たのよ。だからね、自分の居場所を、価値を求めた私に、セイルは応えてくれただけなの。彼は私の事なんて微塵も想ってなんかいないわ。悲しくなるくらい優しい人ってだけよ」

「でも、魔王様はメルチェリエの為にドレスを仕立てに来たんだから、好きなんじゃないの?」


セイルはライネに花嫁衣裳の注文をしに来たのだが、流石にそれをそのまま伝えるのは野暮であると気遣い、敢えて濁して伝えた。だが、メルチェは寂しげに首を左右に振った。


「私の為に仕立てたという訳じゃないかもしれないじゃない」


——セイルには忘れられない程に愛した人がいるのだもの。その彼女のドレスを私が勝手に着てしまったものだから、代わりを用意させているのかもしれないわ。


 寂しげに俯くメルチェに、ライネは小首を傾げた。


「ドレスは間違いなくメルチェリエの為に注文した物だよ。そりゃあ、確かに私も相手の顔を見てやるって勢いでついてきたんだけれど、採寸をするって目的が無いと、流石の魔王様だって私を城に招き入れたりなんかしないっしょ。まあ、まさか私が魔王様の封印に加担した『怪力のライネ』だなんて、気づいていないわけだけれどさ。何はともあれ、二人が結ばれたなら、おめでたい事だよ」


 ライネは椅子から身を乗り出してメルチェに満面の笑みを向け、「大丈夫。魔王様はメルチェリエを好きだよ!」と無邪気に言った。

 そもそも前世でのライネは、華奢で小柄なあどけない少女の姿しか記憶にない。それがまさか今世ではこうも妖艶な女性へと変貌を解けていようとは思いもしなかったわけだが、屈託のないこの笑顔は変わっておらず、メルチェはホッとして微笑んだ。


「あ! やっと笑った! 良かったぁ。ずっと元気が無いんだもの、心配になっちゃったよ」

「ごめんなさい。ちょっと色々あって……」

「採寸は少し落ち着いてからにしようね。魔王様が用意した材料は凄く貴重なものだから、絶対に素晴らしいものが出来上がるはずだよ! 私、夢だったんだ。仕立て屋になって、フリューゲルにドレスを作ってあげることがさ! 早く手掛けたくってうずうずしてるもの! そうそう、それで、メルチェリエと魔王様の愛の結晶は、一体どこに居るの? 美男美女カップルの子なら、そりゃあもう可愛らしいんだろうね」


 ライネはメルチェの話す隙が無い程に次から次へと話し続けているが、その姿を懐かしく思いながらも大人に成長したライネに感慨深いものを感じた。


 話を聞く限り、ライネはメルチェよりも五年程早く転生したらしい。つまりは、メルチェが十八歳であるのに対し、ライネは二十三歳なわけで、前世の頃とは年齢が逆転している様だ。

 前世でのライネは、セイルの封印を行った時、十三歳だった。背が低く、身体つきも幼く、口の悪いヘルツェライトからは『怪力まな板娘』と呼ばれており、いつも悔しそうにぷんすかと怒っていた。

 それは今世では挽回したかのように豊満な胸に、色っぽく魅惑的な女性へと成長しているのだから、メルチェが感慨深く思うのも当然だろう。


「転生して再会だなんて、運命を感じるなぁ。なんにしても会えて嬉しい!」


 ライネが満面の笑みを浮かべてそう言うと、部屋の扉がノックされた。

 返事をすると、そおっと扉が開き、くりくりとした大きな瞳をこちらへと向けるハウレスの様子が見える。


「……変な女が居る」


 ハウレスは丸みを帯びた耳を水平にし、警戒した様にそう言ってライネを見つめた。


「わぁ! 猫型の魔族? 可愛いね、創作意欲が刺激される! 隠れてないで早くこっちに来てよ」


 ライネが嬉しそうに言い、ハウレスは尻尾の毛を逆立てて「あたしは猫じゃなくて『豹』なのっ!」と、プリプリと怒りながら部屋へと入って来た。その手をライネは強引に掴むと、じろじろと上から下まで舐める様に見た。


「メルチェリエの採寸はもう少し落ち着いた後の方がいいからさ、その間、あんたで暇つぶしさせてよ! 可愛いから創作のし甲斐があるしさぁ」

(おだ)てても駄目だからっ!」


ハウレスは言葉とは裏腹に嬉しそうに黒い尻尾をピンと立て、丸みを帯びた耳も精一杯に立てている。メルチェはハッとした様に立ち上がると、「私、お風呂に入ろうとしてそのまま戻って来ちゃったんだったわ……」と言った。


「うっかりしていたわ。入って来なきゃ」

「ああっ! ちょっと待って。今は駄目!」


ハウレスがライネの手からするりとすり抜けて、慌ててメルチェを止めるので、当然ながら「どうして?」と、問いかけられた。ハウレスの耳が再び水平になり、落ち着き無さそうに尻尾がゆらゆらと揺れる。


「えっと……その……」

「どうしたの? お風呂で何かあったのかしら」


もじもじとしながら、ハウレスは俯いた。メルチェと共にライネも興味深そうにハウレスを見つめている。


「今、メルチェの赤ちゃんをアガティオンが沐浴させてるから、駄目なの……」

「アガティオンが? どうして?」


世話係が沐浴をさせているというのなら納得だが、セイルの忠実な使い魔であるアガティオンが赤子の世話をするというのは不自然である。


「どうしてって、だって……」


ハウレスは困った様に目を泳がせた後、「兎に角、今は浴場に行ったら駄目だから!」と言って、逃げる様に素早く部屋から出て行った。

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