朝 ④
「夢だ、疲れてるんだ。俺は疲れているだけだ!!!」
自分に言い聞かせると、カバンを取りに行くことに決めた。
何もいない、何もいないと思いながら、もしも、さっきの女がいた場合、なめられないようにしなくては……と気合を入れながら、ドアを勢いよく開けた。
「はああぁ!!!」
威嚇しなければという一心で、気づけば叫んでいたが、そこに女の姿はなかった。
玄関のドアを開けてすぐキッチンなので、カバンは目の前に落ちていた。
ただ、閉まっている冷蔵庫とその付近、床、落ちていたカバンは血まみれになっており、あたり一帯は生臭い。
コンロ横のスペースにはやはり、水滴でびっちゃりとなった調味料やお茶などの飲料がきれいに並べられたままだった。
夢じゃなかった……
そうは思いながらも、慌てて血まみれのカバンを拾い、革靴を履いた。
ベッドのある部屋は玄関から見て正面にある。
だが、戸が閉まっていて中の様子は全くわからない。とても戸を開け、部屋の中の状況を確認する勇気などない。
その時だった。
「ぎゃぁー、嫌ぁあー、やめてー……!!!」
低い女の叫び声がした。
そして、ドタッ、ドタッ、と重い音がし始めた。戸の向こうの部屋だ。
この声は先ほどの女のものだろうと思った。それと同時に、もう一人、誰かいるとも感じた。
女は苦しんでいる。
もしかしたら……もしかしたら、自分の味方がいるのではないだろうか。あの女を退治してくれているのかもしれない。
誰だろう……もう一人、誰がいるのだろうか……
見たい……!!!
さっきまでの戸を開ける怖さより、部屋の中に誰がいるのか、何をしているのか確認したいという気持ちの方が、大きくなっていった。
もう血まみれだし、靴を履いたままあがろう、カバンは忘れないように……
竹田さんは妙に冷静になった。
部屋の中の女と何者かに気づかれないように、今度はそっと玄関ドアを開けると、血まみれのカバンを外に出した。また注意深く静かにドアを閉める。
小さく、よしっと気合を入れた。
強気に不意打ちを狙うあの気持ち、自分は決して負けないぞという気持ちで、革靴で戸の前に立つと、思いっきりバンッと開けた。
「はっ……あっ……!!」