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朝 ③

 

 冷蔵庫の中のものがすべて外にあるのなら、では今、冷蔵庫には何が入っているのだろうか……


 恐る恐る冷蔵庫の前に立ち、扉に手を伸ばした。


 開けたくはなかった。


 だが確認しなければいけない、そんな気がした。

 

 目をぎゅっとつぶって、ドアを力強く引いた。


 同時に、ぶわっと生臭いにおいが広がった。


「うっ……」


 ドアを持つのと反対の手で鼻と口を覆う。


 竹田さんは目を見開き、ゾッとし、固まった。


 冷蔵庫の中には血だらけの、おそらく女と思われるものがいた。


 居た、というよりはギチギチに詰まっているという感じだが。


 腕の位置、足の位置、顔の位置……とにかく全ての位置がおかしく、絡み合っている。


 直感だが、この冷蔵庫の中の女は先ほどの自販機前に立っていた女と同じだ、とわかった。


 恐怖のあまり固まっている間に、女は器用にも、その絡み合った体を動かしながら少しずつ冷蔵庫の中から出ようとしている。


「はっ、あっ……!!!」


 息のような声を必死に吐き出しながら、自身を奮い立たせると、勢いよく冷蔵庫のドアを閉めようとした。


 バンッと大きな音がした。


 ところが、それはドアが閉まる音ではなかった。



 ギチギチに詰まった女が前に進みながら、同時に、内側から押し返し、ぶつかった音だった。


 竹田さんは腰を抜かし、後ろにしりもちをつき、座り込んだ。ガタガタと震えが止まらない。


 血だらけの女はズルズルと、こんがらがった状態のまま、はいずり出てくる。べったん、と冷蔵庫から落ちる。


 座り込んだ竹田さんの怯える顔を覗き込むように、女は顔を近づけた。


 震えながらも、女の顔から目をそらすことができない。


 突然、女が低い声で言った。


「必ず今日も帰って来いよ。待っててやるからよ」


 白目をむいてゲラゲラと大声で笑いだした。


「ああぁっ! はあぁー!!!」


 竹田さんは叫びながら裸足で、すぐ近くの玄関ドアから外へ飛び出した。


 全身ではぁはぁと息をしながら、しばらくの間、閉まった玄関ドアを見つめる。



 カバンと靴がなければ会社に行けない。


 だんだん落ち着いてくると、今までのことはすべて、夢だったように感じる。


 現に今は何もない。疲れがたまって変な夢を見てしまっただけ。

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