朝 ①
あぁ、今日も朝が来てしまったなぁと少し憂鬱な気持ちで、竹田さんはベッドの上で身を起こした。
わぁーはぁーとあくびの中にも気合を入れた声を出し、大きく伸びをする。
安く購入した遮光カーテンからはさわやかでいて、そして強めな朝の日が透けていた。エアコンの冷房をつけるにはまだ早いかもしれないが、少々蒸し暑さを感じる。
窓を開けようかと勢いよくカーテンを開けた。
カーテンが揺れるその風にのって、なんだか妙な臭いがする。
何か、むせかえるような緑の臭い、夏の山の中で大雨が降ってあがったときの、植物と土の臭い。それに獣のような臭いもまざっているような気がする。
決して気持ちの良いにおいではない。カーテンも窓も、昨日の夜から一度も開けてはいないのに。それに昨晩は雨も降ってはいないだろう。
外は関係がなく、カーテンが臭いのかもしれない。眉をひそめながら窓を開けてみた。
暑くなりかけのもわっとした空気が入ってくる。すると、何故かさっきまでの嫌な臭いは急にわからなくなった。
そのまま何気なく網戸越しに視線を落とす。
この窓から下を見ると、住んでいるマンション入り口にある、赤い自販機が目に入るのだが、珍しく、その自販機の前にロングヘアーの女性が立っていた。
今朝は暑いし、飲み物を買うのもおかしなことではない。
だが、なんだか様子が変なのだ。
いつまでたってもボタンを押すわけでも、しゃがんでジュースを取るわけでもない。そして、体はずっと前後に揺れているように見える。
竹田さんは目が離せなくなっていた。
そのうえ、窓に手をかけた状態で、まるで金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。
三階下の自販機前で、女はずっと揺れている。揺れはどんどん激しくなっていく。
どれくらいの時間がたったのだろうか。
もう何十分もたっているように感じられた。女を長く見すぎたせいか、最初はひたすら怖かったのだが、今はただただ、ぼーっと眺めている。何の感情もない。
耳元でブチっという大きな音がした。
驚いて、意識がはっきりすると同時に、下の自販機前では女の首が血だまりの上にごろん、ところがっていて、こちらの方を向いていた。
女と、がっちりと目が合ってしまった。
女はとても苦しそうな表情をしている。また苦しいという感情の中に、恐怖も大きく含まれているように見えた。
彼女は望んでこうなったわけではなく、何者かによってこうなってしまったのだろうというように……頭の中に一瞬よぎる。