BBAクエスト
「くぉらクソガキ!人様のモノ盗みよって!」
子供の頃、近所に怖いばぁさんがいた。
そのばぁさん家の庭にはイチジクの木があって季節になると美味しい実をつける。
それがまぁ、手ごろに取りやすそうでついつい勝手に頂こうとしたその時、臆病で不器用なオレはまんまと見つかり腰を抜かした。
あの時のあのばぁさんの形相ったら、鬼そのモノだった。
以来、人のモノは勝手に捕ってはいけないとつくづく思った。
いや、思ったはずだった。
社会人になりオレは人並みに就職した。
が、根気のないオレは半年でやめた。
バイトを転々とし、たまに再就職するがうまくいかない。
同級生たちは下向きに頑張り昇進するヤツも出てくる。
合せる顔がない。
おまけに先立つものもない。
オレはネットで見つけた「回収・高収入」の求人に応募。
指定された家に赴き金を受け取るだけ。
「平和な人タチからため込んだ金を頂いてて社会的に有意義に使い回すだけだ」
「金は回ってナンボ」
などと説得されオレもその気になる。
オレは面接と入社式でしか袖を通さなかったスーツを着てさっそく指定された家を訪ねる。
弁護士事務所から来た者ですと告げると、おどおどしたばぁさんが出てきた。
「こ、これで息子が助かりますか?」
と、ある銀行の封筒に入ったモノを渡してきた。
ズシリと手応え。中身を確認。
「確かに受け取りました。ご安心を・・」
振り向きざま玄関を出ようとしたら二人の人影が迫ってきた。
「ちょっと、聞いていいですか?」
オッサンと比較的若いヤツ。
何気ない顔で迫ってくる。
もちろん作り笑顔なのがわかる。
背筋が凍った。
「じゃぁ、ちょっと・・」
オレは捕まった。
その夜オレは夢をみた。
なぜかオレはため池の側にいて突っ立っていた。
すると池の中から女神だか何だかが出てきて、
「オマエが落としたのはこの札束か、それともこのイチジクか?」
と言ってきた。
「あ、その札束!オレ、オレ、オレ・・」
と必死に手を伸ばす。
・・でもイチジク?なんで?・・
すると女神はいきなり豹変して
「くぉらクソガキ!人様のモノ盗みよって!」
あのばぁさん!あのイチジクばぁさんが!
オレは無様に腰を抜かした。
オレの裁判の日が来た。
国選弁護人に素直に罪を認め償いたいと伝えた。
真面目に無事出所。
支援団体のお陰で働き口も見つかった。
今でもなんとか努めている。
落ち着いた頃オレは人に尋ね、あるお墓の前にいた。
深々とお辞儀。
オレはそっと墓の前にイチジクをおいた。
読んで頂いてありがとうございました。
面白かったら★★★高評価お願いします!
他に短編数本掲載してますのでよろしかったらそちらもぜひ読んでください!w