野グソの男 2
彼の話で、もう1つ思い出した話が
あったので書きたいと思います。
彼の名前を仮に田村健児とでも、
しときましょうか?
その田村君がいつものデニーズで私と
話をしている時に
また恥知らずの事を
私に話してきたのです。
『この前○○駅の近くの公園に居た時に
急に腹が痛くなったんだよ』
『アソコなら、何回か使った公衆便所が
あるって、すぐに急いんだけど』
『着いたら、二個ある個室が
両方共使っていて』
彼がそこまで言った時に
『また、野グソをしたのかよ?』と
私が聞くと
寂しそうに、首を左右に振ります。
『漏れそうな自分の存在を
アピールする為に』
『コンコンって、右側の扉を
ノックしたんだよ』
『そうしたら?』私がそう聞くと
『コンコンって、俺はまだ出ないぞって
叩き返してきたから』
『慌てて、隣の個室をコンコンって
ノックしたんだけど』
『そうしたら、ドンドンって、
それこそ邪魔をしたら殺すぞ?って
雰囲気で叩き返されて』
『しょうがなく、どちらかが
出てくるのを待ったんだ』
そう言った、彼の目は寂しそうでした。
『肛門を締めるようにしたまま、
背筋を伸ばしたりして』
『なんとか紛らわしていたんだけど』
そう言った彼の言葉に反応した私が
『だけど?』と聞き返すと
『3分かな?』
『頑張れたのは』
そう言って、遠い目をしました。
『あぁーーー』
『そう言いながら、俺はチカラ尽きたね』
そう本人は格好をつけていましたが
要はトイレの前で、
漏らしやがったのです。
その話を聞いていた時に、
勝手なビジョンが頭に浮かびました。
個室の中で先に用をたしていた人は
“コンコン”って催促していた男が
扉の向こう側で
『あぁーーー』と
吐息を漏らす声を聞いたら、
どう思うのでしょうか?
その状況が頭に浮かびゲラゲラと
私が笑っていると
友人は真剣な眼差しで私を見つめて
『ここからが大変だったんだよ』と
更なる話を私に披露しようとしています。
『その時って仕事中だから、
当然背広を着ているだろ?』
『その時って、薄いグレーの
上下だったんだけど』
『このままじゃ、
ズボンに染みるって、思って』
『急いで、ズボンとパンツを
脱いだんだよ』
そう言っている彼がワイシャツに
ネクタイを締めて
グレーの背広を着たまま慌てて、
フルチンになっている姿が想像出来たが
平日の昼下がり、公園の公衆便所
『誰かに見られなかったのか?』
そう私が聞くと
『個室の中の奴らも気を使ったのか?』
『大丈夫だったよ』
そう彼は自慢気に言ってきましたが
私が個室に入っていたとしても
扉の向こう側には、明らかに
ウンコを漏らしたと思う奴が
“カチャカチャ”とベルトを外して
ズボンを脱いでいるのが予想出来たら
怖くて扉を開けられません。
『急いでパンツを脱いだから』
『ズボンへの被害はなかったんだけど』
『ノーパンで“しまむら”まで
パンツを買いに行くのは辛かったよ』
そう言った彼の言葉に私は驚愕しました。
『お前、まさか?』
そう聞いた私に
『そうだよ、パンツは捨てたさ』
そう言った友人の顔は、
すがすがしい感じさえしています。
ウンコ付きのパンツを捨てた。
最悪、洗って履いたと答えると
思っていた私の予想を遥かに超える、
彼のいつもの行動
『でも、最低限のマナーとして
ゴミ箱に捨てたんだよな?』
そう聞いた私に
『イヤ、トイレにそのまま放置したよ』
そう答えた彼に
『どこに捨てたって?』
そう聞き返した私に
『トウィレットゥ』と外国人ばりの
発音で答えましたが
どんなに誤魔化しても、
所詮ウンコを漏らして
そのパンツを捨てただけであります。
たとえ、どんなに格好をつけて
発音をしても私が知ってる限り、
そんな格好いい発音をするのは
徳永英明が壊れかけた時だけ
『レェィディオ』と言う位だと思います。
脱皮するようにパンツを
置き捨てて行った友人は
『ヘリオス、最近思ったんだけど』
『俺たちみたいに正露丸が効かない人間用に
クスリを作ったら売れないか?』と
彼は真面目に語っていますが
所詮、ウンコ漏らし
半ばあきれ顔で話を聞いている私です。
『業務用の正露丸、ミートボールみたいな
大きさのを作ったら、どうかな?』
腹痛を克服したい彼なりの
アイデアだったのでしょうが
『そんなの、どうやって
飲み込むんだよ?』と言う私の言葉で
すぐに、“しまった”と言う顔になります。
『もう、いいからDVDよこせよ?』
そう言って本来の目的である
彼が秘蔵するブツを貰って、
彼と別れました。
アイツは良い奴だが頭と肛門が
弱いのが ネックだ
奥さんはアイツのウンコの事を
知っているのかな?
まぁ、いいや
そう気にも、とめないでいた
1ヶ月が経った、ある日
仕事をサボッて小説を書こうと
外出した私の目の前を
友人が勤めている会社の営業車が
走りすぎて行きました。
すると私の中で
『アンニャロの会社だ、
アイツは何をしてやがるかな?』と
思いつき
イタズラ電話をする為に火曜日の昼下がり
彼に非通知で電話をしたのです。
営業をしている彼、
やはり非通知でも客からの電話と思って
あっさりと電話に出てくれました。
『もし、もし?』
そう出た彼に
『田村健児様の携帯でよろしいでしょうか?』
声を変えた私が、そう丁寧に聞くと
『はい、田村ですけど』と
ウンコ漏らしのクセに、
ふてぶてしく対応します。
これで完全に私に火がつきました。
『わたくし横浜市公園緑地課の
者なんですが』
『田村様に伺いたい事があって、
電話をしてる次第でございます』
そう言った私の言葉に
『はぁ?』と不思議そうに答える友人。
仕事柄、電話応対に手馴れた私は
『先月、田村様が○○公園に
不法投棄した件で出頭して頂きたい所存で、
お話しさせて頂いてるのですが』
そう伝えると
『不法投棄ですか?』と
心当たりがないクチぶりで
返答してきたので
『そうです、○○公園の公衆トイレに
不法投棄された件です』と
笑いをこらえながら真面目に
私が説明をしますが
『人違いじゃないですか?』と
素直に認めようとしません。
『いいえ、公園内の防犯ビデオから
割り出しので間違いありません』と
やや口調を強めにしたのが効いたのか?
『ああ、思い出しました』と
手のひらを返してきます。
『で、何の用事でしょうか?』
認めるようなクチぶりから、
ふてぶてしい態度に戻った友人
“カチン”と来た私は途中で
『俺だよ、かけてるのは』と
ネタばらしをする、つもりでしたが
人様に迷惑をかけて、傍若無人な
態度を取る友人を貶めるために
『今日中にパンツを取りに
来て頂けない場合は』
『刑事告発させて頂きます』と
彼に言ったのです。
それを聞いた友人は
『刑事告発なんて、
大げさじゃないですか?』
『たかがパンツを忘れただけなのに』と
反省の色も見せずに答えてきました。
『汚物が付いたパンツを不法投棄した』
『公序良俗にも反しますので、
家族にも会社にも連絡させて貰います』と
冷静に告げると
さすがにヤバいと思ったのか?
『勘弁して下さいよ、俺28才で子供も
いるんですから』と
言い訳をしたので
『子供がいるとか関係ありません』
『第一、28才はウンコを漏らしません』と
告げます。
ここに来て反省したのか?
『申し訳ありません、取りに伺うので』
『何卒、穏便にお願いします』と
泣きそうな声で頼んできたので
『本日中に身分証明書と判子を持って
来て下さい』
そう言って、
一方的に電話を切ったのです。
その後、彼がどうなったかは知りません。
『すいません、ウンコの付いたパンツを
取りに来た田村なんですけど』
『はぁ?何ですか?
ウンコの付いたパンツって?』
そのヤリトリを想像しただけで笑えます。