野グソの男 1
他のサイトで別名義で書いていた作品です。
週末に更新?
『腹痛』
この言葉を聞いて、皆さんはどう思われますか?
私は日本で指折りの“お腹ピーピー男”なんです。
牛乳入りコーヒーなんて飲んだ日なんか
トイレに1日に5回は行くのが当たり前
そんな重症な私ですが緊急事態になっても
“野グソ”だけは男としてのプライドというか
人間の尊厳で回避してきました。
それは腹痛がトルネードのように襲ってきた時に
「神様、お願いだ」
『食べられない、キュウリを食べるから』
『トイレまで、もたせてください』
そんな宣誓を心の中で叫ぶほどです。
神様が願いを聞いてくれたのか?
私の括約筋が強いのか?
結果、最悪の事態だけは未然に
避けられてきたのです。
約束のキュウリですか?
そんなモノ、水と一緒に
毎回キレイに流してしまいます。
キュウリなんて死んでも
食べる訳にはいきません。
そして、また神様の天罰を受ける
そんな事を繰り返していたのですが
地元の友達とデニーズで、
この話をしていた時に
その友達が
『同士よ』と言って握手を求めてきました。
『なんだ、お前もかよ?』
同じ苦しみを持つ人間に巡り会えた喜び
思わず力強く握手を
握り返してしまう自分がいます。
『俺はヘリオスみたいに肛門が強くないから』
『負けちゃってるけどな』と
友人が呟きました。
『何?、漏らしちゃったのかよ?』
ビックリした私が聞くと
『漏らしちゃったのは数回だよ』と
大した事じゃなさげに返してきます。
漏らしてんじゃねぇかよ
そう思いましたが、黙って聞いていると
『野グソだよ』と、
遠い目をして教えてくれました。
『野グソ?』
2冠王の発言に更に私が食いつくと
『ああ野グソだよ』と
過去の戦いを語る戦士のように
喋りだしました。
『腹痛って、突然来るじゃんかよ?』
『毎回コンビニや駅がある訳じゃない』
『どうしよう?』
『もう肛門をノックしている』
『漏らすのは、もうイヤだ~』
『そんな時はたいがい野グソだな』と
自慢げに私に語ってきたのです。
『それって残骸はどうすんだよ?』
そんな基本的な事を聞くと
『まさかポケットに入れて
持ち帰る訳にもいかないだろ?』
『その場でバイバイだよ』と
平然な顔して答えやがります。
『それってヒドくねぇか?』
さすがの私も友人に苦言として
『犬が民家の前に
フンをする訳じゃねぇーんだから』と
すごく一般的な注意をすると
『あるよ、民家の前でもした事が』と
友人が平然と答えました。
『はぁ?』
我が耳を疑う発言に聞き返すと
『民家の前で野グソをした事もあるよ』と
丁寧に言い直す友人
『バカ!お前』
『それってヘタしたら犯罪だろ?』
そう言った私に
『違うんだよ、事故なんだよ』
『俺がウンコをしたくなった時に、
たまたまソコに家があったんだよ』と
つい、うっかりサザエさんが
財布を忘れた時のように
大惨事を事もなく言い放ったのです。
呆気にとられている私に
『一回だけだよ』と
言い訳をする友人
『当たり前だよ』
『同じ家に2回したら確信犯だろ?』
私が突っ込むと本人は至って真顔で
『あの時はしょうがなかったんだよ』と
言っておりますが
許されるワケありません。
そんな友人に
『よく人に見られないな?』と
半ば呆れ顔で言うと
『あるよ、見られた事も』と
ポツリと呟きました。
『あるの?』
もはや、放心状態の私が言うと
『○○山公園って、あるじゃんか?』
『仕事サボって、あの公園にいた時に』
『急に腹が痛くなったんだ』
そう説明を始めた友人の話を
、私は黙って聞いています。
『でも昼間の公園』
『公衆トイレに行けば平気だ』
『そう思って、トイレに行ったんだけど』
『そこの男子トイレが壊れていたんだ』
確かに公衆トイレはヤンキーか誰かが
トイレの扉を壊している場合が多い
『一瞬、女子トイレも考えたよ』
『でも、出てくる時に見られたら』
『痴漢扱いされて、終わりじゃん?』と
私に同意を求める友人ですが
人の家の前で野グソをしてる時点で
既に終わっていると思うのですが、
黙っていました。
『だから、しょうがなく
植え込みの影で野グソをしたんだよ』
『お尻を出して、助かった、そう思った時に』
『後ろからザワザワした声が聞こえたんだ』
『まさか?と思いながら後ろを振り返ると』
『お弁当を食べに来た保育園児が』
『先生、コッチ、コッチって呼びながら』
『小さい子、数人で近付いて来たんだ』
『ウンコをしてる真っ最中だから、
逃げれないじゃん?』
『スグに子供に見つかって』
『お兄ちゃん何をしてるの?って
聞かれて』
『別の子にウンコが見つかって』
『先生、大人がウンチしてるよ~、って
呼ばれたんだよ』
私は頭の中で
白雪姫の周りに集まる7人の小人が
踊っている姿が頭に浮かび
大爆笑をしてしまいました。
『その後に先生が来ちゃって
大変だったんだよ』と
ボヤきながら説明をしてきましたが
腹を抱えて笑っていて、
よく覚えていません。
笑いのピークを越えた私が
腹を抱えながら
『良かったじゃんかよ~、
見られたのが子供でさ』と慰めると
『あるよ、大勢の大人に見られた事も』と
口を尖らせながら言ってきました。
『まだ、あるの?』
ここまでの話で、
すでに人の三倍以上の体験をしている彼の
新たなる話に、私の顔も引きつってきます。
『ケント達と初詣に
鎌倉の八幡宮に行った時だよ』
『近くには車を止めれないから』
『ちょっと離れた場所に止めたんだけど』
『新年一発目から、腹が痛くなったんだよ』
『だから、みんなに先に行って貰って』
『近くにあった、月極駐車場に入ったんだ』
私も固唾を飲んで聞いています。
『そうしたら、車と車の間が
空いている死角を発見したんだよ』
『正月で人が少ないとはいえ見られたら困る』
『ここなら平気だろう?そう思って始めたんだ』
『出始めたと思った時に遠くで』
『プァーンて聞こえて
ガタンゴトンって聞こえたんだよ』
『まさか?』
思わずクチを挟んでしまった私に
「その、まさかだよ」
「電車が来たんだよ』と
寂しげに伝えてきたのです。
『ここなら大丈夫だろう?』
『そう思って暗闇の駐車場で始めたら』
『急に昼間みたいに明るくなったんだよ』
『しかも駅の近くだったから
電車が超ゆっくりなんだよな』
『上から俺を見下ろす人物の顔が』
『ひとり、ひとり判別出来る位にさ』
乗客はどう思ったのでしょう?
いい年した大人が、
ウンチングスタイルと言う
この世で一番、
無防備な姿をさらしていたら。
疲れきった友人が
水を飲みきった後に私に言いました。
『俺たち仲間だよな?』
『違うわ、一緒にするな!』
そう言って彼が
差し伸べた手を払いのけました。