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二十六

 百五十階の屋上。


 七×七メートルの四角形に細い鉄塔が伸びている。


 見上げれば、三柿野の姿が逆さまになって、浮遊していた。


「おや。機械人形と警察官がいませんね」


「おっんだ」


「あの、ふたりとも生きてます」


 三柿野がククッと笑う。


「雪津さん。わたしはあなたのそのユーモアを高く買っているんですよ」


「そりゃどーも。よく見たら、体、全部戻ってるんだな」


「ええ。でも、これから宇宙を司る知能体と融合する身としては、肉体と機械の割合など、たいしたことではありません」


「三柿野さん、と言いましたね」


「ええ。眞宮博士。あなたとあなたのお父さまには心からのお礼を。わたしに途方もない贈り物を用意し、その包装紙を破ることまでしてくれた」


「今なら、まだ間に合います」


「何が?」


「人ならざるものへと変化することです」


「……ぷっ。アハハハハハ!」


「何がおかしいんですか?」


「いまの、この状態を見てください。人であるかないかなんて些末なことをなぜ気にされるのです? わたしは采田や他の化け物の轍は踏みませんよ。あの下等人間では時間との融合はせいぜい頑張って十秒の過去ですが、これから行おうとしているのは全ての時間と融合した一個の知能になることです。引き返すのはあまりにもったいない」


 なあ、と冬次郎が手をあげる。


「これもひどく些末なことなんだけど、きいていーい?」


「どうぞ。先ほども言ったようにあなたのユーモアは買っていますし、あなただって、眞宮博士を手伝ってくれたのだから、お礼はしないと」


「おれさ、この階段、五十階にちょい足りないくらい昇ったんだ。そうしたらさ、あったんだよ。社長室に。社長専用の飛行船発着場が。かなりデカい飛行船があって、なかを覗いたら、ヘネシー・エクストラが置いてあった」


「なぞかけですか? 面白い。続けてください」


「つまりさ、おれたちの真上にある逆さまの世界。それって全部ひとつの知能なんだろ? それでその知能にもあるわけだ。社長専用の飛行船とヘネシー・エクストラ。ここの社長は社員の健康のためってエレベータつくるカネをケチって、自分はコニャック飲みながら飛行船で出勤してたんだよ。それが、その深域知能体とやらにも存在してる。下のもんに無茶おしつけて、自分だけ楽をするって考え方が」


「おっしゃりたいことが分かりませんね」


「せこいってことだ。そんなせこいものが含まれてるんだぜ。さっきから誉めてる知能体くんには。そんなもんと融合して自分明け渡す価値はあるかなあ、って思っただけだよ。実に些末だよな」


 そのとき、社長専用飛行船が発着場からゆっくりと発進して、浮かび始めた。

 サナの携帯円盤キーが飛行船の操縦機能を時間差で発進するよう乗っ取っていて、四つの○の紋を描いた気嚢が屋上の縁から見えると、冬次郎は飛び乗った。


 頭上の知能体からも同じように飛行船があらわれていた。そこにはもうひとりの冬次郎がいた。

 下の冬次郎が笑うと、上の冬次郎も笑った。


 その瞬間、飛行船の灰皿の縁に置いておいた火のついたゴールデン・バットが半分灰になって、ポロリとヘネシー・エクストラをばら撒いた床に落ちた。


 飛行船が急速に燃え上がり、気嚢は放り上げられたように上昇し、三柿野が意図に気づいたときには頭と腹から鬼青江で貫かれ、燃え上がる飛行船に挟まれ、潰された。


 知能体が急速に遠ざかる。モザイク状に開き閉じを繰り返しながら。

 頭上の鏡の世界が回転しながら、消えていく。

 しぼみ、縮み、食いつくされて。


 そして、瞬きした後、そこには都会の一番星だけが輝ける夜空が、これまで何事もなかったように上の世界を占めていた。


 ハッとして、サナが欄干に飛びつき、冬次郎を探す。

 飛行船はヨツマル・ビルディング前の広場の噴水の上で裂けて、まだ燃えている。


「冬次郎さん……そんな」





「おおーい」


 え?と見上げる。


 ヨツマル・ビルディングの最上部。

 鉄柱にノーフォーク・ジャケットの裾が引っかかった冬次郎がジタバタしていた。


「誰か助けてーっ!」

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