二十五
グライダーの翼は様々なアニメの使い捨てポスターを貼り固めてつくられたものであった――山田無敵からのプレゼント。空気抵抗を排すべく設計されたカツオブシ型の荷箱を開けると、それは――。
「サキの新機体? これは――サキの修繕をした人の? すごい。応急修理か応用した改造最短の手法が。――あ、本当にすごい。この着眼点はなかったです」
「まあ、無敵の山田くんだから」
名前に対する引け目はすごいが、優秀なのは間違いない。なにせ無敵だ。
改造によって得られる新機体は街中を歩けば、凶器準備集合の罪でパクられても文句は言えない、武器の集まりだが、ヤクザのヒロポン製造責任者と一体化したバケモノ樹木を相手にするには非常に都合がよく、また、それ以上の敵との戦闘も非常に有利に進められる、戦闘特化型の機体だ。
「サキ。ニ分ください」
「了解しました」
横では柴犬が首をひねっている。
「無敵のやつ。よくここが分かりましたね」
「猫だよ、猫。猫又の親分に集められるやつ全員に声をかけてくれと頼んだ。ちなみに」
と、煙草を一本、窓のそばに立てると、真っ赤に焼けた狙撃弾が煙草の三分目を撃ち飛ばし、冬次郎は火のついた煙草をくわえた。
「いまのはパードレだ」
「あのー、先輩。僕のところには来てませんよ」
「そりゃそうだ。送ってねえもん」
「ひ、ひどい」
できました、とサナ。
見れば、武装トランクの大口径銃が左腕に組み込まれ、右腕は無銘の脇差が収納されて、戦闘時は二の腕から袖を切り裂いて、ジャキンと伸びる。
そして、復讐戦。
樹の幹は明らかに太くなっていたが、冬次郎と柴犬警視が斬撃でつくった裂け目にサキの零距離射程の大口径発射、弾は幹のなかで花を開き、維管束から何からバラバラにしてしまうと、除草剤でも吸い込んだみたいにみるみるうちにやせ衰え、樹皮がボロボロと剥がれ落ちた。
ビルディング公園の全ての植物を巻き込んで枯れた植物を放っておき、また階段。
九十階を超えたあたりで、柴犬警視に背負われている冬次郎以外のみなに建築家に対して殺意が湧いた。
社員食堂を九十九階につくるのは社員の福利厚生をなめ切った証拠だなと思いつつ、蝋でつくった食品模型が並ぶショーウィンドウの前を通り、百三階では誰の役に立つのか分からぬ社内プラネタリウムにて一秒から五秒のずれが融合した化け物ヤクザを鬼青江で五等分し、百七階では柴犬が、
「ここは僕が防ぎます! 先輩は上へ行ってください! 大丈夫です、きっと追いつきますから」
と、突然言い出した。
相手は生身のヤクザふたりと効率化協会の殺し屋ひとりである。
冬次郎が示現流風のキエエエエイ!という叫びを上げながら、次々と斬り捨てる。
「で、先に行くがなんだって?」
「いえ、ちょっと言ってみたかっただけです」
百七階で分裂融合人間を頭にし、毛の溶けた狼の体を持ち、半狂乱にわめくヤクザを尻尾の先につけた怪異があらわれると、
「ここは柴犬が防ぐ。おれたちは上に行くぞ。大丈夫だ、お前ならきっとやられる」
「せ、先輩、ちょっと待って――って、うわあ」
百二十九階では本物の一〇〇式重戦車が待っていた。
事務用什器を容赦なく踏みつぶしながら、あらわれると、冬次郎は『今度はお前の番じゃ?』とチラチラ見る。
――むしろ、あなたの番では?
――後進にゆずるよ。ほれ。
戦車砲が発射され、コリント式の柱にぶつかり、折れた柱が戦車の上に倒れた。
「あー、まあ、いいとこまでは行ったと敵ながら誉めておこう」
「あなたみたいですね」
「戦車みたいにたくましくて、頼りになるだろ?」
「それは――」
【距離】【火力】【戦車砲照準】――【博士以外の人間】――
演算を無視して、冬次郎を突き飛ばし、サキの対戦車弾と榴弾がすれ違って、サキの右半身に大きな損害を受けた。
「不覚です」
右腕は指が残らず、何本かケーブルが垂れ、脇腹と太腿にかけて、大きく裂けている。
無敵の新機体でなければ、胴体から寸断されていた。
「あなたをかばって、戦闘不能だなんて」
「サキ!」
サナが応急修理を試みるが、
「大丈夫です。ただ、損傷は想定より重いです。僕はついていけません。それより一刻もはやく博士は上に向かってください。冬次郎さん。せっかくかばったのですから、博士のことを頼みます。髪一本でも損なったら、ダムダム弾百発撃ち込みますから、そのつもりで……冬次郎さん。どこにいるんですか?」
「誰か助けて―!」
かばわれたほうの冬次郎は吹っ飛んで、窓をぶち破り、窓枠からぶら下がっていた。




