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二十四

 二十三階から二十四階への階段に事務用机や印刷用紙などが山積みにされて燃えている。

 つまり、二十三階で降りて、別の階段へ向かわないといけない。


「大丈夫ですか、博士?」


「はあ、はあ……大丈夫です」


「やはり、僕が背負ったほうが――」


「敵との遭遇を考えれば、あなたには即応してもらいたいですから」


「そう、ですか」


 僕はおぶってみたかったんですけど、とポツリとつぶやく。


「何か言いましたか、サキ」


「いえ、何も」


大丈夫ダイジョブかあ、柴犬ぅ?」


 柴犬の背中から冬次郎がたずねる。


「だ、だ、大、丈夫――ゲホッ、ゲホッ……ぜえぜえ、です」


「よし、二十三階に突撃だ。クソッタレどもが何人待ち伏せてるか、楽しみだよなあ」


 二十三階の階段口からまっすぐ廊下が走っていて、赤ニス仕上げらしい、別の階段室へのドアが見える。

 廊下の左右は弁護士や投資家組合に貸し出されていて、ゴンベエ・ビルディングの英語塾や漢方医と同じく、怪しげな商売をしていた。


「左右の部屋から待ち伏せ攻撃がないと信じて、この廊下を渡るのはなんて無邪気でかわいらしいんでしょう?」


「行くんですか?」と、サキ。


「行かないよ。まあ、見てろ」


 階段室のすぐ横の給湯室には弁護士や投資家、あるいはその両方を兼ねた人びとのためにクッキーを運ぶためだけに作られた、ロココ趣味の執事人形が調整済みで専用収納箱ケースで眠っていた。その顔は溶かした和紙を何層にも押して固めてつくったもので、日本人形とフランス人形の怖いところだけを集めて立てた風情がある。


 ただ、冬次郎がこれからさせようとしていることを考えれば、そういう顔になるのも無理はなかった、


「サナちゃん、これ、動かせる?」


「ちょっと待ってください……」


 専用収納箱ケースの側面板のネジを抜いて、制御装置があらわれる。ポケット・タイプライターのようなものを取り出し、ゴム被膜の導線プラグを差し込んで、防御を破ると、ロココ執事人形がまぶたを開けた。


「ゴ主人様 ゴ用命ヲナンナリト」


「じゃあ、これを持って、向こうの階段まで行ってくれ」


 冬次郎は半分欠けたせんべいを銀のトレイに置いた。


「カシコマリマシタ ゴ主人様」


 執事人形がぎくしゃく歩いていく。


 廊下の半ばに到達する前に左右の部屋から銃弾が飛んできて、執事人形はコマみたいにくるくるまわって倒れた。


「先輩、よく人形があることを知ってましたね」


「前に訴えられて、あの執事人形にそこの弁護士事務所まで引きずられたことがある」


 やったぞ!と部屋から胴間声。


 出てきたヤクザたちの背中にサキの発射した小銃弾が突き刺さり、次々となぎ倒される。柴犬警視とサキがそれぞれ左右に飛び込み、残党をつぶしたが、そのなかには重機関銃を抱え撃ちにする相撲取り崩れの大男、両利きで銃を撃てるアナキスト崩れのヒゲ男、猿みたいな叫び声を上げる剣各崩れのサツマ男も含まれる。


 ヤクザの半纏を見ると、采田組の文字。


「自分の親をバケモノに変えたやつのために働くって?」


 冬次郎はやりきれんと首をふる。


「古き良き任侠道はどこに行ったのやら」


「でも、トドメを刺したのは先輩ですよね?」


「まあ、こいつらポン専門のヤクザだからな」


「それより、そっちの機械人間」と、柴犬警視が冬次郎以外に話しかけるときの冷たく、せっかちな口調でサキにたずねた。「顎髭を生やして眼鏡をかけた、軍服に白衣を着た男を倒したか」


 サキは首をふる。


「いや。そいつはなんだ?」


「采田組のためにポンをつくっている元軍医です。采田が死んだいま、組を率いているのはその男でしょう」


 へえー、と冬次郎が感心する。


「つまり、采田のカネのなる木かぁ。まあ、また会えるか分からないが、覚えておこう」


 七十五階で再会。


 七十六階への階段が燃やされていて、七十五階に入ると、そこは建物内公園で七十八階までの吹き抜けだった。

 その公園の真ん中に、やたらとトゲだらけの枝で殴りかかってくる樹がいて、いったん七十四階に撤退してから、どうやってあれをかわしたものかと考えていると、サキが、あの幹と同化するように丸い眼鏡と白衣の裾を見えたと言った。


 一行のあいだで、元軍医が樹木の化け物と化した説と樹木の化け物ははじめからいて元軍医はそれに食べられたのだという説の論争が始まり、それは過熱していき、困難な障害と戦うべく養われていたはずの一体感が崩壊する寸前まで行ったが、窓ガラスを破って飛び込んできたグライダーのおかげで論争にストップがかけられた。

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