二十
護符が自然と剥がれ落ちて、瘴気のような黒い靄が叫びながら、ねじれ、鷲に蹴散らされたように消えた。
最後の一枚がハラリ。冬次郎が、パチッ、と瞬き。
「先輩! よかった! これで――」
「ああーっ! せっかく寝てたのにィ! し~ば~い~ぬ~っ! お前、この、お前ッ!」
「え、で、でも! 目は開いてましたよ!」
「目ェ開けながら寝てたんだよ! ちくしょー、どうしてくれる! おれの安眠を返せ!」
「えーと……いえ! 僕じゃありません! 彼です! 彼が先輩を起こそうって!」
そう言って、柴犬警視はサキを指差した。
「は?」
確かにサキも冬次郎を自己封印状態から抜け出させようとしたのは事実だが、全ての責任をなすりつけられるのは違う気がする。
さて、冬次郎の反応だが、
「なんだ、サキちゃんの仕業か。じゃあ、仕方ない」
「先輩! 僕の扱い、邪険すぎませんか!?」
「邪険じゃない。どうせお前がおれをカンノジに持ち込んだんだろ」
「ギクッ」
「カンベンしてくれよ。こいつらに借りをつくるとすっげえ厄介なんだぞ。バケモノ潰すのに何度駆り出されたことか」
大臣が笑う。
「なに。ほんの三十回」
「きいたかよ? ほんの三十回だとよ。正二位右大臣さまは言うことが違うよな。そりゃ千年生きてるあんたらなら、三十回のバケモノ退治もチンポコでおイタした政治家の刑期ぐらいに短いが、おれみたいな卑小な人間には三十回は人生の半分を奪い取られたようなもんだ。おれ、考えるんだよ。もし、おれが霊媒師じゃなくて、ナマケモノ人間だったら――」
「我が南庭で見世物にしようぞ」
「やっぱ霊媒師でいいや」




