十二
機械の能力を奪う妨害粒子手榴弾は人に害はないが、それでもすぐ後ろで爆発すれば、耳はキーンと鳴り続けるし、頭もフラフラ、寝起きにこれが布団に投げ込まれれば、その日は一日不機嫌に過ごすことになる。
オーニソプター真っ二つの直後から、少し意識の脱落があった後、白粉を塗ったような丸顔がくらみがちな視界のなかにオバケみたいに浮いていた。
新聞で見た顔だ。采田組の組長、采田登。その後ろではヤクザたちが意識を失ったサナを運び出している……。
また、脱落があり、目が覚めたら、何かの発作があったみたいにサキが震えていた。
「胸――赤い、を」
手には赤い小さな制御電池。ボタンを引きちぎって、制御電池をアルミニュームで縁取った差し込み口にカチッと音がするまで押し込む。
「ぐ……う……」
サキは落ち着いたが、サナがいないことに気がついたら――しかも、ヤクザたちにさらわれたことに気づいたら、また発作を起こすんじゃないかと、ハラハラ。
こういうことはウダウダ隠してもしょうがない。
機体が安定して、こちらの言うことに耳を傾けられるくらいになったら、すぐにサナが誘拐されたと教えた。
処理機能が【タコ焼き】【たい焼き】【今川焼き】を抽出して、なぜ【今川焼き】だけ形から名称を決定しなかったのかというこたえを求めて、永遠の演算を始めたので、あれは今川橋のそばで売り始めたから【今川焼き】だと教えて、人工知能の無駄発熱をやめさせた。
「……すいません。少し落ち着きました。でも――くっ、博士を狙うなんて……生まれたことを後悔させてやる」
処理機能が【ノコギリ挽き】【打ち首獄門】【釜茹で】を演算し始めるのをやめさせて、どこへヤクザたちがどこへサキをさらったのか、そちらに演算を使わせようとすると、
「連中、タカラに行くと言っていた」
まだ、運転席にいた運転手が教えてくれた。
「タカラ?」
「遊郭だ。タカラ遊郭。そこにやつらがやっている徳松園ってみせがある。返してほしかったら、そこまで来いと言っていた」
「なぜ、止めなかったんですか!?」
「ヤクザどものうち半分が機関銃を持っていた」
冬次郎は、まあまあ、とサキをなだめ、ご乗車アンケートの運転手のところに最良の◎をつけて、回収箱に入れた。
「ご乗車ありがとうございました」




