九
獄楽市史上、最大の爆発になった。
三千枚の窓が割れ、黒煙が都市のはるか上でテーブル上に広がって、細かい煤を降らせてきた。
軍の高官数名が退職に追い込まれ、ここぞと世界の終わりを言い散らかす新興宗教団体の本部に警官隊がなだれ込んだ。
こういう大きな事故事件があったときに困るのは別に走りまわる必要のない人間までが走りまわり、非常に道を歩きにくいことだ。
冬次郎はゴンベエ・ビルディングを目指して、ふらふら歩いていた、眠いのだ。
「でも、あなたはきっとあのふたりを助けに行きますよ」
パードレの言葉を思い出す。
ふたりで装甲列車が自爆して誘爆したのを眺めながら、パードレはそう言ったのだ。
「行かないよ。眠いもん」
「そうかもしれません」
「いや、この眠気はまごうことなき眠気ですよ。いま、三時――二十九分。おれはおりるよ。依頼人は死んじゃったから報酬取れないし、それに話が危なすぎる」
「でも、あなたはきっとふたりを助けに行くでしょう」
市内が大爆発で騒いでいるのにゴンベエ・ビルディングは外の世界に興味ないのか、モツを仕込み、トカゲを粉にし、ジス・イズ・ア・ペーンを教え続ける。
今度は休業中のプレートをかけたことを確認し、床に寝転んだ。折り畳み寝台を出すのも面倒だった。
さあ、このまま寝ようとしたときに、幻視を見た。
「……」
幻視を見た。
「……」
幻視を見た。
「……」
幻視を見た。
「……」
幻視を――。
「あーっ! 分かったよ! 行けばいいんだろ! 行けば!」
でも、どこに?
それは幻視がしつこく教えてくれた。
夏海原だ。




