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第5話 幼馴染と再会

 そして俺はツクナと共に生活することとなる。

 死んだように日々を過ごしていた俺だが、新たな右腕を手に入れたことで生きる活力を取り戻し、精力的に盗賊退治や狩りなどをして領民を助ける生活をしていた。


「ハバン様っ! 今回もハバン様のおっしゃる通りの山を採掘しましたところ、多くの鉱物が採掘できましたっ!」

「うん」


 屋敷に報告へ来た村長を前に俺は頷く。


 以前からこの領地にある山を調査していた俺は、この土地で多くの鉄や銀、金や銅が採れることを知っていた。それを国王へ報告する前に追放されてこの土地へ来れたのは幸運だろう。


 領民に命じて領内の山を掘らせ、想定通り鉱物資源は多く採れた。

 今年は特にひどい雨が続いて作物の収穫は惨憺たるものだったが、多く採れた鉱物資源を他国へ輸出して食料輸入することで領民は飢えずに生活することができていた。


「しかしこの地でこれほど多くの鉱石が採れるとは。今年はひどい水害でしたが、ハバン様のおかげ我々は飢えずに食べていけそうです」

「いや、ここへ来てから俺は領民たちになにもしてやれていなかった。申し訳なく思う」

「いいえ、王子様がこのような土地へいらしたのです。お城のほうでさぞやお辛い目にあったのでしょうと我々は心配をしておりました」

「そうか」


 これは俺を不快にさせないための嘘かもしれない。

 それでもこのように言ってもらえるのは嬉しかった。


「ですがハバン様、採れた鉱物をお城のほうへ送らなくてもよろしいのでしょうか? お城の人間が来てこのことを知られれば大変なことになるのでは……」

「構わない」


 軍隊を送って来るのであればそれでもいい。

 この腕があれば100人の盗賊だってひとりで一掃できる。


 村長を見送ったあと、自室へと戻って窓辺のイスへと腰掛ける。


「ふう……」


 この腕を手に入れたおかげで俺は生きる活力を取り戻し、鉱物資源を得ることで領民には喜ばれて、それなりに充実した生活を送れてはいたが、やはり心には晴れない思いがあった。


 俺から王家の紋章と右腕を奪った者たちへの復讐心。


 これが心の中にある限りは、決して晴れやかな気持ちになどなれるはずはない。


 自室の窓から王都の方角を見つめながら俺は奥歯を砕かんばかりに強く噛んでいた。


「ハバン」


 ベッドに座っているツクナに声をかけられる。


「国王とサリーノに復讐がしたいのじゃろう。ならば今からでもマルサルの王城へ行って、お前から右腕を奪ってこのような場所へ追放した連中を皆殺しにしたらよいじゃろう。そうすることでお前は幸せになれるのではないかの?」

「確かに連中を殺せば俺の心は晴れる。けど、ただ行って殺すだけじゃ、俺は国家に反逆した殺戮者になってしまう。大義名分がほしい。奴らを殺してもいい大義名分が」


 噂ではマルサル王国の政治はうまくいっていないらしい。

 当然だ。政治の大半は、俺が国王に助言して成り立っていたのだから。


 国王とサリーノの散財で財政支出が膨大となり、税が増えて多くの国民が国へ不満を持っているとも聞いた。直近にバルドンが王位を継いだそうだが、奴は傀儡の王であって国の状況はなにも変わっていないそうだ


「悪政を打倒するために反乱軍を組織するのもいいな。大義名分になる」

「行って殺せばよいだけじゃのに、無駄なことを考えるのじゃな」

「無駄なことはない。なにを行うにも正義は大切だよ」


 俺は絶大な力を手に入れた。この腕があれば数千の軍隊すら敵ではない。

 しかしそれをただ怨恨で殺戮するのは正義に反する。自分が圧倒的に正義という立場でなければ、誰かを殺すことなんてできはしない。


「まあそれはともかく、仮面ははずしたらどうじゃ? その右腕でなら容易に鍵は破壊できるじゃろう」

「ん? いや……」


 この仮面を脱ぐことはできない。まだ。


「これを脱ぐことで俺は恨みを忘れてしまうような気がする」


 斬られた腕は新たな腕を手に入れたし、日々はそれなりに充実している。

 だから怖かった。恨みを忘れてしまうのではないかということが。


「だからこれを脱ぐのは恨みを晴らしたときでいい。それまではこのままだ」

「そうか。なら好きにするとよい」

「ああ」


 いつかこの仮面を脱ぐそのとき、俺の心は晴れ晴れとしたものになるだろう。


「ところで、お前は俺の不幸な人生を修正するために来たって言ってたけど、なんでそんなことをしてくれるんだ? そんなことをしてお前にどんな得がある?」


 俺なんかの人生をどうにかすることで、ツクナほどの者が満足できることなど無いと思うが。


「神を屈服させるのに必要なんじゃ」

「神……を?」


 それはどういう意味なのか?


 問おうとした俺の横目に、屋敷のほうへ駆けて来る馬の姿が見える。


「誰だ?」


 全身をマントで覆った馬上の誰か。

 それを見止めたハバンは、玄関へとその者を出迎えに行く。

 そのうしろをツクナはついて来た。


 やがて玄関を開いてその者がマントを脱いで姿を現す。


「ソ、ソシア?」


 久しく目にする幼馴染の名を呼ぶ。


「ハバン様っ」


 駆け寄って来たソシアが抱きついてくる。


「どうしてお前がここへ?」

「逃げて来た」

「に、逃げて来た?」

「うん。バルドンとの結婚が嫌だから逃げてきちゃった」


 確かにソシアはバルドンとの結婚を嫌がっていたが、まさか逃げ出してくるほどとは。


「まあそれもあるんだけど」


 と、ソシアは言葉を止めて離れる。


「もうすぐここへマルサルの軍隊が来るって伝えに来たの」

「マ、マルサルの軍隊が?」

「うん」

「そうか……」


 いずれは来ると思っていたが、想定よりも早かった。


「たくさんの鉱物が採れたのを隠していたからって理由らしいけど……」

「わかっている。迎え撃つしかないか」

「む、迎え撃つって!? 相手は軍隊だよ? どうやって迎え撃つつもりなの? あ、もしかしてハバン様もたくさん兵隊を用意してるとか?」

「いや、俺だけだ」

「死んじゃうってっ! 逃げようっ! わたくしはハバン様を逃すために来たんだからっ!」

「そうなのか? けどお前、俺がどういう理由でここへ追放されたか聞いてるだろう?」

「聞いてるけど、あんなの嘘だってわかるよ。ハバン様が紋章の偽造なんてするわけないっ!」


 強い眼差しソシアは断言する。


 この信頼は素直に嬉しい。

 国では誰もが信じず、俺を糾弾をした。しかしソシアだけは信じてくれていた。それは本当に嬉しかった。


「ありがとうソシア」

「あ、いや……うん。そ、そんなことより早く逃げよっ! 軍隊が来ちゃうからっ!」

「いや、本当に大丈夫だ。軍隊は撃退できる」

「そ、そんなことできるわけ……」

「できる」


 俺の隣でツクナが言う。


「ツクナがいればできないことはないのじゃ」

「なにこの子供?」


 ソシアの目が俺を離れてツクナへ向く。


「彼女は俺の恩人で、天才で美人のえーっと……カガクシャというやつだそうだ」

「恩人? カガクシャ? いや、というかこんな子供が美人って……」

「美人だろう」


 俺はツクナを抱き上げてじっと見つめる。


「こんなに美しい女性は初めて見たよ。まさしく美女というやつだ」

「むーっ!」


 ゲシッ!


 なぜかソシアに蹴られた。

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